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18. ゲート

ダンジョンから出る時はそれなりの手続きが伴う。

まず、ギルドダグを確認される。

このダグは、ダンジョンの中で人を殺せば赤に、ダンジョンの中で体から外せば黄色に変わる。


なお、色が変わっていれば、即、勾留となる。


ダグに問題がなければ、次は魔石についての調査になる。

ダンジョンで出た魔石は、ゲート前で全て提示しなくてはならない。


ギルドはLv4以上の魔石の流通を独占している。Lv4以上の魔石は、大規模な術式や軍事転用が可能と言われているためだ。

冒険者クランや錬金術師ギルドなどが長年抗議しているが、冒険者ギルドは頑として聞き入れる気配はない。


もちろん、ハイレベルの魔石は、相応の対価が払われる。しかし、それでも冒険者としては不満のある所だ。



過去にアイテムボックス・スキルや収納の魔法で隠して魔石を持ち出そうとした者もいたが、全て発覚した(と言うことになっている)。

ゲートには、ハイエルフの魔法術式が使われているらしい。僕には解読不能なレベルの術式である。


ともかく、冒険者にとって冒険者ギルドは、実に鬱陶しい組織おやくしょなのだ。とは言え、触らぬ冒険者ギルドに祟りなし。僕達は、言われた通りに手続きし、無事にゲートをくぐった。


「面倒くさい連中だのう」

コサブロウさんは言った。

「これでも早く終わる方だよ。『青き階段は』は一応優良クランだからな」

トビアスさんは応えた。

そう言えば、前のクランではいきなり手荷物検査をされたこともあった。


「おい、あれは……!」

トビアスさんが指差す方向を見る。ギルドの告知板に新しい書き込みがある。

『第一層北側にジャイアント・ムカデ(センタピード)が出現中。冒険者の皆さんは注意されたし。討伐報酬30万ゴールド。』


トビアスさんは、即ギルド受付に向かった。討伐報酬を貰いに来たのかと思いきや、ギルド職員に食ってかかった。

討伐依頼を出すのが遅い、職務怠慢だ、と。

ジャイアント・ムカデ(センタピード)の告知は、僕達がゲートをくぐった直後に出されたらしい。

ギルド職員は正規の手続きでやっていただけだと何処吹く風だ。ギルド職員は面の皮の厚さでやる仕事、と言われるだけはある。


トビアスさんは戦法を変えた。

すなわち、「討伐がギルドの予想より早く終わったのだから、報償金を割り増ししろ」と言うのだ。

いろいろな交渉の仕方がある。


「報償金は二割増しといった所だな」

この時初めて、鉄面皮だったギルドの職員が反応した。

ちょっと待ってろと席を外し、しばらくするとお偉いさんと思われる男が出てきた。


「ジャイアント・ムカデ(センタピード)が居座っていたら、一層北側を探索するやつは激減するだろう。『三槍の誓い』が早期に討伐したおかげで、皆安心して北へ出掛けられる。いつまでも居座られて、ギルドで討伐隊を出す手間を考えて見ろ」

トビアスさんは、ジャイアント・ムカデ(センタピード)の甲羅を見せながら言った。


トビアスさんは、ギルドのお偉いさんにも気後れせずに交渉している。

いずれはリーダーである僕もこういう交渉ができるようにならなければならないのか。

ちょっと不安になる。


僕はふと思った。トビアスさんは最初からこちらの路線で交渉をまとめる気だったのではないだろうか。

ギルド(おやくしょ)としては、責任問題を問われるのは困るのである。しかし、報酬金なら、交渉の余地はあるのだ。


とは言え、冒険者ギルドのお偉いさんはなおも渋っていた。最後に決断させたのは、

「俺の所属は、『青き階段』だよ。この交渉が失敗すれば、ユーフェミアが出てくるがいいか?」

と言うトビアスさんの一言だった。

「あぁ?」

ギルドのお偉いさんはしばらく黙ってしまった。そして、二割増しで手打ちとなった。


「ユーフェミアさんて、そんなに凄いんですか?」

「トコトン理詰めで来るからな。ギルドとしてはやりにくい相手だろう。だいたいユーフェミアは昔はギルドの職員だったんだ。ギルドの内情は良く知っている。

ユーフェミアが交渉すれば、二割五分増しくらいまでいけるかもな。そっちの方が良かったかもしれん。すまなかったな。」


僕はしばらく考えて言った。

「僕としてはこれで十分です。だいたいさらに良い条件でまとめるには、ユーフェミアさんはすごい量の仕事をしなきゃいけないと思います」


僕も魔術師クランに所属している。大きな組織(おやくしょ)との交渉が大変なことは理解している。

ここで端金のために彼女の仕事を増やしても仕方がない。

トビアスさんがやったように勢いに任せて交渉してしまうのが一番良いのだ。


「コイチロウさんはどう思いますか?」

「リーダーの意見に同意する。我々だけなら、二割増しの報償金も取れなかったであろうし」


「正直、僕がトビアスさんと同じように交渉できるのか、それが不安ですね」

「それこそ俺のマネをすれば良い。ユーフェミアの名前をだせばいいのさ」



全ての手続きを終え、外に出ると、夕方だった。外気が旨い。


「レイラさん」

キンバリーの視線の先には、レイラさんとユーフェミアさんがいた。


仁王立ちになって白金の髪をなびかせたレイラさんと、その傍にいつもの眼鏡のユーフェミアさん。

キンバリーはレイラさんと向き合う。

「言っておくけど、心配してた訳じゃないんだからね!クランマスターの責任として見に来ただけよ!」

「はい。わかっています。怪我なく戻りました」

「私が教えたんだから当たり前でしょ!」


その時、ダレンさんがキンバリーの後ろからこっそり近づき、背中をドンと押した。


キンバリーはいきなりのことにつんのめり、それをレイラさんが何とか支える感じになる。

「レイラさん、すみません」

レイラさんはなかなか離そうとしない。


「……キンバリー、心配したんだからね……」

そう言ってレイラさんはおんおん泣き出した。

「レイラさん、無事戻って来ました……」

キンバリーも泣き出す。


キンバリーとレイラさん、二人の少女?は再開を喜び合う。


周囲からポツポツと拍手が巻きおこった。


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