172. ゾンビの海をかき分けて
僕達のパーティーは、第二層の階段を降り、第三層を目指していた。
「すげーな。亡霊が全然近寄って来ない」
ドワーフのフセヴォロが言う。
正確には、最初に2匹近寄ってきた。
その2匹の亡霊は、僕の聖属性の防御結界に突っ込み、成仏した。ザマーミロ。
そして、亡霊は全然近寄ってこなくなった。
「亡霊は賢いからの。
クリフ殿の結界には近寄らないのだ」
コサブロウさんが槍で、ゾンビをぶった切りながら言った。
三層へ向かうパーティーメンバーは、『三槍の誓い』と、筋肉質エルフのワリアデルと、痩せ型ドワーフのフセヴォロ。
全部で8名。
ユーフェミアさんも来ると言ったが、ザクリー・クランマスターとホルヘ副クランマスターに止められた。
まあ、ユーフェミアさんはゾンビが苦手みたいだし、苦手なモノに突っ込む必要はないと思う。
誰でも向き不向きがあるんだから。
出発前に休憩も取った。
軽く仮眠を取って、頭はスッキリした。
完全回復ではないが、……体調は悪くない。
さて、亡霊は近寄ってこないが、ゾンビはどんどんやって来る。
第一層に登って来たゾンビは聖属性を恐れていたが、第二層のゾンビは聖属性を恐れない。
明らかにイカれている。
ゾンビは僕の聖属性結界に触れれば灰になる。
それでもなかなか前に進めない。
何しろ先頭のゾンビが灰になる頃には、隙間を埋めるように次のゾンビがやって来るのである。
結局、ナガヤ三兄弟が槍を振るい、ゾンビをかき分けながら前進することになった。
ゾンビの海をかき分ける僕達。
これ絶対後で夢に出てくるよ。
「失礼します」
不意にワリアデルが弓を構え、短く呪文を唱えると矢を放つ。
ワリアデルは矢に聖属性を付与していた。
僕の目には、聖属性の術式と、白い輝きの軌跡が見えた。
矢に魔力を付与して射る。
流石エルフ。なかなか面白い戦闘方法である。
矢は一体のゾンビに当たった。
が、ゾンビは灰にならない。
アレ?当たったと思ったんだけどな……。
ヒュン。
ワリアデルは二本目の矢を放った。
矢は命中し、ようやくゾンビは灰になる。
「一射目は当たらなかったのかな?」
僕は言う。
「当たりました。
私の魔力が弱いのです」
「ゾンビを一射で灰にできないのは弱すぎないか?」
コジロウさんが言う。
コジロウさん、今それ言いますかぁ!
「あれはゾンビではありません。
食屍鬼です」
ワリアデルは答えた。
「……失礼した」
コジロウさんはゾンビを叩き潰しながら言った。
グールは、見た目はゾンビに似ているが、ゾンビより強い。
動きが俊敏だし、頑丈だ。
本から得た知識だけど。
僕の聖属性の結界は、亡霊のような実体のないアンデッド魔物には、絶大な力を発揮する。
アンデッドでも実体のあるものには、効果は減る。
今回の食屍鬼は実体がある。
食屍鬼を遠距離攻撃で仕留められるのは、ありがたい。
「ワリアデルの魔力が弱いことは事実だからな」
フセヴォロが言った。
フセヴォロは、聖水の樽を背負って歩いている。
実は三層へは、『三槍の誓い』とエルフのワリアデルで行く手筈だった。
そこにドワーフのフセヴォロが割り込んで来たのだ。
渋ったワリアデルが出した条件が、聖水の樽を運ぶ荷物持ちとしてなら、だった。
フセヴォロは、その条件を飲んだ。
「魔力が弱かろうが私は役に立っている。
貴様とは違う」
ワリアデルが言った。
「何かあったのか?」
コジロウさんが言った。
「フセヴォロは、ゾンビに中級の火魔術を使ったのです。
散々でした」
「ダンジョンで火魔術を使うとどうなるのですか?」
僕は聞いた。
「ゾンビは火魔術で燃えます。
そして、ゾンビが焼けると煙が発生します。
ダンジョンは常に換気が起きますが、しばらくは近寄れません。
でも、ゾンビは煙を気にせずどんどん来るんです」
フム。煙によって、ゾンビに有利な環境が一時的に発生するわけか。
「あれは俺も失敗だったと思っている。
普段の第二層なら、火魔術で正解なんだ。
でも、今みたいに溢れてる状況では駄目だった」
フセヴォロが言う。
「失敗する前にその程度のことは考えておけ。
ゾンビは聖属性で仕留める以外ないのだ」
どうやら筋肉質エルフのワリアデルと、痩せたドワーフのフセヴォロは仲が悪いようだ。
しかし、聖属性以外でゾンビを仕留める方法ってなかったっけ?
強烈な臭いで、頭が働かない。
「コジロウ、持ち場を変われ。右腕が疲れた」
コイチロウさんが言った。
「ほいな、兄者。俺も左腕が疲れたところだった」
コジロウさん。
二人はヒョイと持ち場変更をする。
コサブロウさんも含めて、この3人は仲が良い。
チームワークも抜群だ。
『三槍の誓い』内で、妙な諍いがないのはありがたいことだ。
僕達は、心を無にし、ゾンビをかき分けて進んだ。
キンバリーはもちろんだが、メリアンもちゃんと付いてきた。
2人とも一言もしゃべらなかった。
やがて、下り階段にたどり着く。
目的だった第三層への入口だ。
下り階段にもゾンビはいた。
でも、動きは鈍い。
僕の結界を避けようとする。
だいぶマトモだ。
向こうに薄明かりが見えてきた。
おぼろげにヒト属のシルエットが見える。
「我々は『三槍の誓い』とエルフ族とドワーフ族。
第一層より使いとして参った。
お通し願いたい」
コイチロウさんが声を張り上げた。
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