146. 神殿は丸儲け
「お久やでー!」
そんな挨拶と共に、『緑の仲間』のスカウト、シーラさんは、『青き階段』にやって来た。
シーラさんは、人間10歳児くらいの小柄な種族、ケンタウルス族だ。
丸っこい体型で、弾む毬のようなオバサン、いや女性である。
「この前は気張ってもろたしなぁ。
報酬は上乗せしといたで。
クランの分は既に引いてあるから、安心しいや」
シーラさんは言った。
「こんなに良いのですか?」
シーラさんから報酬を受け取って、僕は思わず言ってしまった。
依頼では、『三槍の誓い』に対する報酬として、1日9万ゴールドを提案された。
分け方は、パーティー内で考えろということだった。
因みにこれは、長期間冒険者パーティーを雇う時の報酬としては、かなり気前が良い。
10日ほどかかったので90万ゴールド、もしかしたら色をつけて100万ゴールドぐらいと僕は予想していた。
シーラさんが持ってきた報酬は、なんと150万ゴールド!
経費は全部向こう持ちなので、まるごと『三槍の誓い』の取り分だ。
「かまへん、かまへん。
『女神大戦』はなぁ、ちゃんと黒字やったんや」
シーラさんは、愛想よく言った。
「マジですか?」
僕は思わず言った。
「決闘のチケット、ぎょうさん高う売れたしな。
マデリンさんへの出演料は、ただ。
広告宣伝費も、掛かってへん。
美味しい商売やったで」
シーラさんはちょっと悪い笑顔で言った。
「結婚の女神神殿と愛の女神神殿も和解したし、ロイメの町衆も楽しんだし、お金もちゃんと黒字にしたし。
ジェシカ先生のこういうとこ、ウチはホンマ痺れるんや」
シーラさんは続けた。
「ソレハスゴイデスネ」
ユーフェミアさんは、ちょっとひきつった笑顔で言った。
ユーフェミアさん、ちょっと疲れているのかな?
いつものキレがない。
「ゆうとくけど、Sランク冒険者やったら、誰でも立会人にはなれたんやで。
先生が、リスク承知で火中の栗を拾い、問題解決のために努力したから、今回の儲けがあるんや。
リスクを犯さん連中、それこそエルフ族なんかには、絶対無理な仕事や」
シーラさんは鼻高々で解説する。
「一番高くついた経費は何ですか?」
シーラさんの解説に、表情を変えたユーフェミアさんが聞いた。
「神殿への寄進やなぁ。いろいろあったし、ここはケチれへんしなぁ」
シーラさんは答えた。
ロイメには、神殿丸儲けと言う言葉がある。
今回も大したこともせずに寄進を受け取った。
とはいえ、僕は神官には……、なりたくない。
神に祈るのは他人に任せたい。
僕みたいな不信心者がたくさんいるから、神殿丸儲けとなる。
「そや。こっちが本題なんや。
今年の『薬草取りの日』の護衛をお願いしたいんや。
あんたら『三槍の誓い』と『雷の尾』な。
『デイジーちゃんと仲間達』も呼びたいけど、おらんのやろ?」
シーラさんは聞く。
「『デイジーちゃんと仲間達』は、今季はのんびりですね。家に帰ってます」
ユーフェミアさんは答える。
「お前ら、良かったな。
『薬草取りの日』の護衛は、若手・有望パーティーの登竜門だぞ」
副クランマスターのホルヘさんが言った。
ホルヘさんはシーラさんが来た後、二階から降りて来た。
この辺りに、『緑の仲間』と『青き階段』の力関係を感じる。
「どういう仕事なのだ?」
コイチロウさんが聞いた。
「金鈴花の季節や。
北の草原に薬草取りパーティーがぎょーさん出るから、その護衛やな。
仕事は4日間や。
金鈴花は一気に咲くから、一気に取らなあかん」
「たかが、薬草取りに護衛がいるのか?」
コジロウさんが言う。
「北の草原は、時々サブ・ダンジョンが出現します。
そこから魔物が出てくることもありきます。
北の森から魔物が出てくる時もあります。
薬草取りのパーティーの皆さんは、戦闘に関しては、完全な素人ですから、護衛は必要です」
ユーフェミアさんが言う。
「ほう」
コジロウさんはあまりやる気が無さそうだ。
「若手パーティーを集めるのは、ジェシカ・ダッカーの趣味も兼ねています。
エルフ族やドワーフ族など、いろいろなパーティーが来ますよ。
……ただ、魔物はたまに出ます。
金鈴花の季節は、魔物が出やすいと言われています」
ユーフェミアさんは続ける。
「ふむ」
「ここだけの話ですが。
ここに呼ばれると『冒険者通信』の『パーティー番付』に載りやすくなるという噂もあります」
ユーフェミアさんは切り札を出してきた。
「本当か?」
コサブロウさんが言う。
「本当です。『デイジーちゃんと仲間達』が番付に入った時も、『薬草取りの日』の護衛に参加してます」
ユーフェミアさんはいつもの笑顔で言った。
「そう言えば、番付発表は、もうすぐだなあ」
ホルヘさんが言う。
「あんた、クリフ・カストナーやっけ?
リザードマンのソーソーも来るで。
他のリザードマンも来るんやないかな」
シーラさんが言った。
「本当ですか!」
反射で僕は言った。
ソーソーさんにまた会える。
他のリザードマンにも!
鱗の色は、どんなだろう?
鱗を鳴らすと、どんな音がするんだろう?
「リーダーもコサブロウも行く気満々だ。お前も来い」
コイチロウさんは、コジロウさんに言った。
「わかった。思ったより面白そうだ」
コジロウさんは答える。
「リザードマン族とクリフさん……。
私も、行きます!」
ユーフェミアさんが言った。
え、ユーフェミアさんも僕と同じように蜥蜴や蛇が好きな質ですか?
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