144. 閑話 ユーフェミアのあまり良くない1日
ユーフェミアは、事後処理のため、錬金術ギルドに来ていた。
そこで、ジェシカ・ダッカーの執務室に呼び出されることになった。
部屋にはユーフェミアとジェシカ・ダッカーの2人しかいない。
さっき事務員がお茶を持って来たが、2人とも手をつけていなかった。
「あの2人はロイメを去ったようだね。
金盾はどの程度の器だ?
金盾の王になると言う神託は達成されると思うかい?」
ジェシカ・ダッカーは単刀直入に言った。
(青き階段のユーフェミアではなく、ストーレイ家のユーフェミアへの質問だわね)
ユーフェミアは少し思案したのち答えた。
「金盾にしろ銀弓にしろ、1人ではさほどとは思えません。
でも、2人になればあるいは可能かもしれません」
ユーフェミアとしては、このぐらいしか答えようがない。
不確定要素が多すぎるのだ。
「仮に金盾アルペロが王になったとして、だ。
彼はロイメに思うところがあるだろう。
金盾が、ロイメまで軍を動かしてくる可能性はあると思うかい?」
ジェシカ・ダッカーはさらに問い詰めてきた。
ジェシカ・ダッカーは、いったい何が言いたいのだろう?
ユーフェミアは幾つかの可能性の中で思考を巡らせる。
(もしかして、ジェシカ・ダッカーは、金盾・銀弓2人の居場所をまだ把握していて、2人を暗殺することでも考えているとか?
いや流石にそれはないか。
ジェシカ・ダッカーは、冒険者で商人なのだから。
でも、そうであるが故に、ジェシカ・ダッカーは王国ともパイプを持っているはず。
彼女が、王国にどんな手紙・報告を送るかで金盾と銀弓の運命も変わるのかもしれない。
……そしてもちろん、単に私を試しているだけと言う可能性もある)
ユーフェミアの口の中がねばついた。
仮に金盾が神託通り王になり、ロイメに攻めて来たとする。
これは、ロイメから見ると、「スーパー恩知らず」である。
ロイメがどれだけ気を使って、金盾・銀弓の2人を追放したと思っている!
だが、王だの、政治家だのと言う連中はそもそも恩知らずな人種なのである。
どう答えるべきか?
(天候神の神託を破るべきではないと言えば、ジェシカ・ダッカーは鼻で笑うだろう)
ユーフェミアの中で地図と過去の歴史が繋がった。
「仮に金盾が王になったとして、南方からロイメまでは、大きな川があり、ドワーフの王国もあります。
記録にある限り、今まで南方の人間族の軍がロイメ付近に到達したことはありません。
何事も最初の一度はありますが、あまり思い悩む必要はないと思います。
未来を恐れてばかりいても何もできません。
それより南が不安定になるなら、南向けの商売の準備でもされたらいかがでしょう」
ユーフェミアは言った。
全ての可能性を怖れていては何もできない。
ユーフェミアの考え方である。
これは、冒険者達の思想でもある。
「フム、そう言う意見だね。
聞いておこう。
行っていいよ、ユーフェミア」
ジェシカ・ダッカーは言った。
ユーフェミアは軽く頭を下げると部屋を退出する。
部屋を出ると深呼吸する。
そして、周りに人がいないことを確認した。
「……クソ婆あ!」
ユーフェミアは小声で言った。
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