128. 僕とネリーは昔から馬が合わない
126話と127話のタイトルを変更しました。内容は変わっていません。
僕達が銀弓と面会した次の日、『青き階段』にシオドアと赤毛のネリーが訪ねて来た。
「ユーフェミア叔母上、お久しぶり……でもないですが。
あなたと『三槍の誓い』の皆さんにお話があります」
シオドアは言った。
口調はいつも通りだったが、目の下に隈があった。
情報交換は『青き階段』の二階にある会議室で行われた。
エルフの魔術師セリアさんも参加する。
「魅了スキル!?
金盾は、そんなうらやましいスキルを持っているのか?」
そう言ったコジロウさんは、コイチロウさんに後頭部をはたかれた。
迂闊な発言であった。
僕にとっては、魅了スキルにはうらやましいと言うより、存在事態が驚異的だ。
魔物である、バンパイアは魅了スキルを持っていると言われている。だが、ヒト族の持つスキルとしては、半ば伝説の存在だ。
一応、魔術には精神操作系統と呼ばれる属性がある。
だがこれらは、ギアスなど、対象の「意思」に影響を与える術である。
対象の「情緒」に影響を与える術は、……少なくとも僕は知らない。
「魅了スキルとは、激レアスキルですね。
現実にこの目で見れる可能性があるわけですか」
僕も、まあ……、ちょっと興奮して調子に乗っていたかもしれない。
メリアンとネリーからジロリと睨まれる。
あと……、ユーフェミアさんからも。
スミマセン、真面目に考えます。
「現実に見た立場としては、あまり気色の良いものではないよ。
魅了スキルなんてものは、妄想してる時が一番楽しいんだ」
シオドアが言う。
シオドアはネリーからすごい気合いで睨まれている。やーい。
「皆さん、あまり冗談にはできません。
本当なら、恐ろしく物騒なスキルです。
金盾が魅了スキルを使ったのは間違いないのですか?」
ユーフェミアさんが聞いた。
「間違いありません。
魔術とも違うマナの流れを感じました」
ネリーが答えた。
「ネリーは精神操作属性を持つ魔術師ですから、この件に関しては間違いないですよ」
僕は言い添えた。
ネリーは、いきなりキッと僕を睨み付けた。なんだよ!
「ちょっとクリフ!
私が精神操作属性とか、何勝手なこと言ってるのよ!」
ネリーが身を乗り出して言った。
「僕に手の内さらしたのはネリーだろ?
魔術師クランの模擬戦で僕と対戦した時、精神操作魔術を僕にしかけたじゃないか。
それも一度じゃなかったぞ」
僕の記憶が間違いでなければ、2回使ってきた。
仕掛けてきたのは『混乱』と言う、一瞬集中を乱させる攻撃魔術だった。
魔術師相手には、有効な術である。
もちろん、同じ属性の防御魔術でガードしたけどな!
「効かなかったと思ってたけど、気づいてたなんて。
何でばらすのよ。
精神操作属性の魔術師は嫌われやすいんだから」
ネリーは言う。
「それなら使っいぱなしにせずに、ちゃんと口止めしろよ。
だいたい精神操作属性なら、僕も持ってるよ。
好かれるも嫌われるも特にないよ」
確かに、精神操作属性は、魔術師クランが術の使用にいろいろ注文や制限をつけてくる。
でもそれは、僕の治癒術も同じである。
魔術と言うのはそういうものなのだ。
「クリフはどうせ防御魔術しか使えないんでしょ?
私は、あなたより才能がある分大変なの。
もう、何で今ばらしたのよ!
理由を言いなさい!」
ネリーは聞いてきた。
「そりゃ今、話したい相手が回りにいるからだよ」
僕は答えた。
聞かれた以上、原則答えるのが僕の流儀だ。
「つまり、魔術師クランには話したい相手がいなかった。
そうよね、あなた友達いないもんね!」
ネリーは言った。
「魔術師クランで僕は友達少ないけど……、いないわけじゃないよ!」
あー!ネリー、僕に友達がいないって言ったな!
いないわけじゃないぞ。
少ないだけだ。
「二人とも、互いを傷つけ合うのはやめよ」
コイチロウさんが言った。
「ネリー殿、死霊魔術属性に、精神操作属性とは、大変な星の元に生まれたものだな。
あなたがいろいろ用心するのは分かる」
コイチロウさんは、ネリーに言った。
「クリフ、これが大人の気づかいってやつよ。
わかる?」
ネリーは言い立てる。
うるさい。
「ネリーさん、あなたの報告に信憑性があるのは分かりました。
ここにいる皆さん、ネリーさんの精神操作魔術については沈黙の誓いを立ててください。
クリフさんも」
ユーフェミアさんは言い、僕にやや厳しめの視線を向けた。
はい。
「魅了スキルは、具体的にはどの程度効果があるのだ?」
コイチロウさんが聞いた。
「トレイシーが完全にかかって、僕の説得を受け入れなくなった。
トロール族のヘンニはかからなかった。
ハーフトロールのスザナは、かかりかけて、ヘンニに殴られて正気に戻った」
シオドアが言った。
「トレイシー殿は今は大丈夫なのか?」
「正気には戻ったわよ。
解呪も使ったし、トレイシーから、変なマナの流れも感じない。
でも、トレイシーは2度と金盾とは会わせたくない」
ネリーが答えた。
「スザナはどうしたんデスか?」
エルフの魔術師セリアさんが聞いた。
エルフのセリアさんとハーフトロールのスザナさんは同じ『緑の仲間』だ。
当然気になるだろう。
「スザナは自力で正気に戻ったから問題ないと思うわ。
念のため解呪もかけておいた。
二人ともヘンニと女将さんがついている」
ネリーは言った。
「女でも異種族だとかかりにくいわけだね」
僕は言った。
バンパイアの魅了スキル程はヤバくないのかな?
「ヘンニを異種族の基準にするのは、止めた方がいいよ」
シオドアが言った。
「スザナは、ちょっと恋愛脳な所はありマスが、そこまでチョロくない……はずなんデスよ……」
エルフのセリアさんが言った。
「金盾は、これからためらわずにスキルを使ってくるだろう。
金盾と会うなら、基本女性は連れて行くな。
そして、耐性があるものを除けば、男であっても魅了にかかる可能性はあると思え」
シオドアは言った。
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