127. 閑話 決戦「ハーレムパーティー輝ける闇」vs「女タラシ金盾」
金盾も神託を得ているのではないか?
ネリーは何の根拠もなく思い付いた訳ではなかった。
金盾の言葉は、「神託」について長く考えた人間の発言だろうと思うからだ。
また、銀弓の金盾への態度も納得がいく。
「神託」。
様々な伝説や物語に出てくるそれは、一つの術である。
術を使い代価を払うと、神々に意を問うことができるのだ。
なお、代価は一般的には魔石が使われる。
ハイレベルな魔石ほど強い神々が降りてきやすく、神託も明確になると言われる。
ただ、神々がその気にならないのか、何も起きないことも多い。
さらに当の神託が外れることさえある。
不確定な術である。
内心ネリーは、馬鹿馬鹿しい魔石の使い方だと思っている。
「得ているよ。教えてやろう。
内容は、『俺の運命は女冒険者によって変わるだろう』だ」
金盾アルペロは答えた。
ネリーとしては、思い当たる節があった。
「だから銀弓は、あなたの回りにいる女冒険者にピリピリしてるのね?」
ネリーは言った。
「まあ、そうだろうな」
金盾は答える。
金盾は様々な女と遊び歩いていた。
銀弓は嫉妬深い女だが、金盾の回りにいる女すべてに攻撃したわけではない。
今マデリンと決闘騒ぎを起こしているが、その前は、メリアンだった。
さらに、2人が『冒険の唄』に来たばかりの頃、ネリーやトレイシーが金盾と話をしただけで、銀弓からものすごい目で睨まれたことがある。
ネリーにとって、金盾はまったく好みではなかったし、不愉快だったので、とことん素っ気なく振る舞った。
最終的には、女将さんが仲裁して終わった。
銀弓は金盾の回りにいる『女冒険者』にピリピリしていたのだ。
「銀弓が結婚の女神だと言うことは、もしかして、金盾あなたは天候の神?」
ネリーは続けて聞いた。
「鋭いな。その通りだ。
俺達の故郷では、スキル持ちが生まれると神々に神託を問う。
たいてい何も降りて来ないが、俺と銀弓には神託が降りてきた。
俺は天候の神から神託を得た。
だから俺を傷つけようなどとは考えないことだ。天候の神の呪いは怖いだろう?」
天候の神カザルスは神々の盟主であり、結婚の女神ヴァーラーの夫である。
そして、天候の神は怒れば嵐や日照りを起こす。
ロイメはそこまで信心深い土地ではないが、天候神の神託者というのは、敬して遠ざけたいところである。
結婚の神と天候の神は夫婦神。
ネリーはさらに連想を働かせる。
「金盾、あなたと銀弓は、いわゆる『婚約者』だったんじゃない?」
ネリーは言った。
「俺の故郷には婚約者と言う言葉はない」
金盾は答える。
「言い換えるわ。あなた達は将来結婚の女神の下で誓いを立てるだろうと周囲は思っていた。
もしかしたら、銀弓もそのつもりだった」
金盾は答えなかった。
「ふうん。そう言うことかぁ。
初めて銀弓に同情したわ」
トレイシーが脇から口を挟んだ。
「金盾ェ、婚約者をおざなりにしちゃ駄目だよ?
女にとって重要な問題なんだから」
トレイシーは続ける。
金盾はイライラと足を揺すった。痛い所を突かれたらしい。
「ゴドフリーにばらしちゃおっかなー。
きっと『婚約破棄!』とか、『決闘の影に男の裏切り!』とか、センセーショナルな見出しで号外出してくるよぉ?」
トレイシーは実に楽しそうに言った。
婚約者破棄をテーマにした小説は、ロイメの女性達に大人気である。
それが美男美女の実話となれば、冒険者通信がどれだけ手前勝手に書き立てるか想像するのは容易い。
金盾アルペロは呼吸を深くした。
金色の目が強く光る。
「……。酷いな、トレイシー、ヘンニ、ネリー。
あと……そこの君の名前は?」
金盾は深いバリトンで言った。
「あたしはスザナ。
金盾、あなたにはロイメの良き市民として振る舞ってもらいたいと思っているよ」
『緑の仲間』のスザナは言った。
「努力するよ、スザナ。
なあ、トレイシー。
なぜ俺にそう構うんだ?
俺に関心があるのか?
本当のことを言うなら、俺が結婚したくないのは君の為だよ」
「……」
トレイシーは答えなかった。
シオドアは違和感を感じた。
金盾も唐突だが、トレイシーは、こんなことを言われて、黙っている女ではない。
「金盾アルペロ、あなたは格好いいけど……、あたしは他人の男には惚れない主義だったの……、でも、私のために……」
トレイシーは切なそうに言う。
頬が赤い。
ネリーは何が起きたか理解した。
「シオドア、皆気をつけて。
精神操作魔術、いえ精神操作の魅了系スキルよ!」
ネリーは言った。
シオドアは己の状況判断が甘かったことを悟った。
金盾はスキル持ちだ。
そして、そのスキルがアイテムボックスだけだとは限らないのである。
『輝ける闇』は女性中心のパーティーだ。
魅了の術は同種族の異性に最も効果が出やすい。
金盾のスキルに対抗するには向かない。
「トレイシー、正気に戻れ!」
そう言いながら、シオドアはトレイシーを羽交い締めにする。
シオドアの腕の中でトレイシーは暴れた。
「トレイシー、ごめんね。『失神』」
ネリーがトレイシーの額に術式を書いた。
精神操作系魔術の1つだ。
トレイシーはガクッと意識を失う。
横を見ると、ぼうっとしているスザナをヘンニが殴っている。
こちらは1発殴られて、正気に戻ったようだ。
「ネリー、貴様精神操作系魔術が使えるのか?」
金盾は聞いた。
「そうかもね」
ネリーは答えた。
『輝ける闇』にとって金盾の魅了スキルは意外だったが、金盾にとってもネリーが精神操作属性を持つ魔術師であることは意外だったようだ。
「金を返しに来ただけなのに酷い仕打ちだ」
シオドアはいろいろ棚に挙げて言った。
「俺はお前らみたいな奴に命令されるのが大嫌いでね。
故郷の連中も、勝手に持ち上げて、俺を追放した。あんな目に会うのはゴメンだ」
金盾は言った。
「追放されたのは、銀弓と結婚しなかったからかい?」
ヘンニが言った。
「いや。俺が『王になる』と言う神託と、このスキルを賜ったからだ。
銀弓は俺が追放された時、勝手について来た」
金盾は答えた。
ヘンニの小山のような巨体がのそりと動いた。
そしてヘンニは金盾に一歩近づいた。
金盾の魅了スキルは、別の種族であるトロール族のヘンニに効いていない。
そして、トロール族の熟練の女戦士であるヘンニは、戦士として金盾より上である。
「俺を殺す気か?天候の神の呪いを覚悟することだな」
金盾は言った。
強さで負けても、態度の大きさでは負けていない。
「いいや。それじゃあ、解決にならない。
いいかい金盾、銀弓ダイナは殺される可能性がある。
結婚の女神神殿にとって、銀弓は決闘が終われば用なしだ。
これからどうしたいのか、銀弓との関係を含めてよくよく考えておくれ」
ヘンニは言った。
「とりあえず撤収する。
また来るよ。良く考えてくれ」
そう言うと、シオドアはトレイシーを担ぎ上げた。
そして『輝ける闇』と『緑の仲間』のスザナは、金盾の元を立ち去った。
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