126. 閑話 対決「ハーレムパーティー輝ける闇」vs「女タラシ金盾」
『輝ける闇』は金盾の居場所を突き止めた。
正確には、『冒険の唄』が金盾の居場所を突き止めた。
金盾アルペロは、小さな料理屋を経営する女の所にいるらしい。
運河の船着き場から少し離れた裏通りにその店があった。
「一階が店、二階が住居のようです。
明かりもついています。」
女スカウトのトレイシーが言った。
「どうやって入るのよ」
女魔術師のネリーが聞く。
「玄関から行くさ。
僕達は『冒険の唄』の女将さんに用事を頼まれているだけだ。
明かりもついてるし、まだ起きてるだろう」
『輝ける闇』リーダーの黒一点シオドアが答えた。
「正面から行って大丈夫ですかね?」
これは、『緑の仲間』からついてきたハーフ・トロールの女戦士スザナである。
「下手に侵入して、衛兵を呼ばれても困るだろう。
あたし達はほとぼりが冷めるまでロイメを出てもいいが、『緑の仲間』のあんたは困る」
純血のトロール族で、熟練の女戦士であるヘンニが言った。
店の裏に小さな玄関を、シオドアはノックする。
「こんばんは。『冒険の唄』のシオドアと言います。
金盾のアルペロを訪ねて来ました」
シオドアはそう言いつつ、大きめにノックを続ける。
「アルペロと言う方はいません。帰って頂けますか」
小さく扉が開くと女が顔を出す。
美人だが、若くはない。
「『冒険の唄』の使いです。お返しするお金があるので」
シオドアはなるべく無害に見えるように笑顔を作る。
女は一旦奥に引っ込んだが、しばらくすると再び現れて、扉を開けた。
居間で『輝ける闇』とスザナは、金盾アルペロと面会することになった。
トロール族のヘンニやハーフトロールのスザナのせいで、小さな居間は過密状態だ。
金盾アルペロは、黒髪で浅黒い肌で、銀弓ダイナと同郷であることを感じさせる外見である。
そして、瞳は琥珀色だ。それは光が入ると金色になった。
金盾の由来であろう。
野性味のある美形で、身長はシオドアと同じくらい。
骨太の筋肉質の体つきだが、トレイシーによると「ビミョーに中年太り入ってない?」と言うことになる。
「金が返ってくるのは本当か?しかし、大勢でご苦労様だな」
小振りなソファーに座った金盾アルペロは言った。
二人がけのソファーだが、金盾1人で満杯である。
この時、この部屋の主は紛れもなく金盾に見えた。
銀弓もそうだが、金盾はそれ以上のカリスマと存在感だ。
シオドアも華やかな男だが、金盾はそれ以上である。
シオドアは向かいの小さな木の丸椅子に座る。
女家主に勧められた物だ。いささか小さい。
なお、他のメンバーは立ったままだ。
「『冒険の唄』からだ。
年会費の返却と違約金だ。ここにサインも頼む」
シオドアは言った。
「トラブルメーカーは出ていけってか?」
金盾は言う。
「まあ……ね。神殿同士のトラブルに巻き込まれると、『冒険の唄』みたいな弱小クランは厳しいんだ。
ほとぼりが冷めてその気があったら戻って来てくれ」
シオドアは言った。
「戻るかは分からないが、金は受け取っておく」
そう言うと、金盾は書類と金袋の中身を確認した。
違約金を本人の所まで届けるのは、冒険者クランとしてはかなり良心的な対応だ。
『冒険の唄』が金盾に気を使っていることが分かる。
「用事はそれだけか?」
金盾は聞いた。
「いや、いくつか話があってね」
シオドアは答える?
金盾は顎をしゃくると、無言で続きを促した。
「銀弓ダイナと薬屋マデリンの決闘についてだ。
結婚の女神と愛の女神の女神の神殿も介入して大騒ぎになっている」
「そうみたいだな。
女どもはすぐ大騒ぎをする」
金盾は淡々と答えた。
「個人的に君の立場には同情するよ。
でも、ストーレイ家としてはいろいろ困っている。
銀弓ダイナについてる結婚の女神神殿の一派のが、王国と繋がっていると言う噂もある」
シオドアは言った。
金盾は答えず、再び顎をしゃくった。
「この問題の原因の1つが金盾と銀弓ダイナとの中途半端な関係だ。
銀弓ダイナと正式に結婚しないか?
もし、君達が結婚の女神神殿にて、正式に結婚するならストーレイ家として祝福しよう」
「具体的には?」
「ストーレイ家から祝い金を出そう。
君達のロイメ市民権取得についても協力しよう」
ストーレイ家からと言いつつ実はシオドアは、ジェシカ・ダッカーの財布を宛にしている。
ただこの場合、決闘の立会人であるジェシカ・ダッカーよりストーレイ家の名前を出した方が都合が良いのである。
決闘の片方の当事者である、薬屋マデリンは元相棒レイラさんと、「既婚者には原則手を出さない約束をしている」らしい。
『冒険の唄』の女将さんによると、約束はまあだいたい守っているみたいだね、とのことだ。
「まあ」とか、「だいたい」とか、「みたい」とかいろいろ付いてるのが気になるが、シオドアは考えないことにする。
ともかく、金盾と銀弓の結婚は、薬屋マデリンが決闘から手を引くきっかけになるだろう。
「ありがたい申し出だが、断る。
俺にメリットがない。
結婚なんかしたらマデリンに振られちまう。
俺に惚れてる女達も泣くだろう」
金盾は答えた。
「残念だよ、君達はお似合いなのに。
では君から銀弓ダイナに、決闘を止めるように言ってくれないか?」
シオドアは踏み込んだ。
「俺が言ってもあいつは聞かないよ。頑固だからな」
金盾は答えた。
「そんなことはないだろう。
金盾、君は、銀弓ダイナの『運命の相手』らしいじゃないか?
そう言う神託があるんだろう?」
金盾アルペロは、なんとも言えない表情をした。
「俺は神託と言うものをそれほど信用しない。
俺の故郷は何かというと神託を求め、神託が政治に影響を与えていた。それは、必ずしも良いことばかりではなかった」
金盾アルペロは言った。
少し真面目な口調だ。
「金盾、君は神託を信用してないのか?」
シオドアは聞いてみた。
「神託を信用していないんじゃない。神託を解釈する人間を信用していないんだ」
金盾アルペロは答えた。
それは、シオドアとしても至極納得のいく答えだった。
「分かった。
金盾、君と銀弓の関係はともかくとして、だ。
率直に言えば、ロイメは君達に迷惑している。
金を渡すから出ていって欲しい。
できたら銀弓も連れて」
シオドアは論法を変えた。
「なぜ、俺が出ていかなくてはならない?」
金盾が言った。金色の目が深く光る。
「さっきも言ったが、銀弓と薬屋マデリンの決闘は、王国のロイメ市政への介入のきっかけになる。
銀弓とマデリンさんは聞く耳持たずだ。
どのみち、金盾アルペロ、君がロイメで冒険者として成功する目はもはやない。
銀弓と結婚すれば別だが」
シオドアは言った。
これは事実である。
ジェシカ・ダッカーとストーレイ家に睨まれて、ロイメで冒険者として成功することは、非常に困難だ。
竜殺しにでもなれば別だが。
「俺とあいつは夫婦じゃない」
金盾は苛立たしげに言った。
金盾としては、あっという間に状況が動き、納得できない面もあるだろう。
「君がそう言ってもロイメの世間はそうは思わない。
例えば、良いパーティーメンバーを仲間にするには人気や評判も大切だ。
つまりSランクになるためには、人気や世間の評判も無視できないんだ」
シオドアは言った。
金盾は金色の目でシオドアを睨み付けた。
魔術師のネリーは、シオドアと金盾の会話の中で、思いついたことがあった。
「金盾、あなたも神託を得ているんじゃない?」
赤毛のネリーは言った。




