122. 極秘情報
僕達『三槍の誓い』のメンバーは、『青き階段』の二階、会議室で弁当を食べていた。
なお、ユーフェミアさんと『緑の仲間』のエルフの魔術師セリアさんも一緒だ。
セリアさんは、『緑の仲間』との連絡役を兼ねて付いてきた。
お目付け役も兼ねているのだろう。
なお、『輝ける闇』には、ハーフトロール族のスザナさんが付いて行った。
会議室を使うのは、今回の依頼に関しては、内密にしたい話題がたくさんあるから。
しばらく、この部屋が僕達の拠点になる。
ユーフェミアさんは、今回の依頼は、全面サポートしてくれるらしい。
「このお弁当美味しいデス」
セリアさんが言った。
青き階段の周辺は冒険者街だ。冒険者相手の商売をする者が多い。
弁当屋も多い。
そして、ナガヤ兄弟はいつものように1人二つずつ買って食べていた。
「それにしても、メリアン殿が錬金術士ギルドの副ギルドマスターの娘だったとは」
弁当を1個食べ終わった所で、コサブロウさんが言った。
そういやそんな話もあった。
その後がディープだったから、すっかり忘れていたよ。
「義理だって言ったでしょ。
母が引っかけた男が副ギルドマスターになっただけよ」
「メリアンさんのお母様は、出世する男を見抜く目があるのですね」
ユーフェミアさんが言う。
「そうかもねえ。まあ、抜け目ない女よ」
「メリアンはなむで家出したんだよ」
僕は弁当を食べながら聞いた。
ちょっと高かったけど、肉を上にして正解だった。うまいよ、これ。
メリアンはジロッと僕を見てきた。
ちょっと行儀が悪かったかな?
「王都の学院から帰って来たら、そろそろ結婚しろって言われたのよ。
最初は商家の若旦那とか、ロイメの官僚とか、母が名前を上げて、父が適当に流してる感じだったんだけど……」
「「……ど?」」
セリアさんとユーフェミアさんが身を乗り出している。
興味津々である。
「魔術師クランのエリートで女関係がきれいで歳がちょうど良いのがいるって、父も乗り気になってきて、これはヤバイなって家出したの」
親の意見と子供の意見が食い違う。よくあることだ。
「……あー、メリアン殿、そのエリートとやらには会ったのか?」
コサブロウさんが聞いた。
「全然。顔も名前も知らないし」
僕は魔術師クランでエリートと言われる何人かの顔を思い浮かべる。
「会わなくて正解だよ。
クランの若手エリートなんて、変な奴か駄目な奴か才能がない奴のどれかだよ」
我ながらうまく表現したものだと思う。
魔術師クランでエリートなどと言われる連中は、僕に言わせれば言われてる程エリートではないのである。
正確には1人紛れもない天才がいる。だが、彼はまだ若いし、メリアンの条件には合わない。
「そうよね。母は変な縁談ばかり持ち込むのよ」
メリアンは言った。
「縁談はともかく、お母さんとはちゃんと話をした方がいいんじゃないか?」
僕は自分のことを棚に上げて言った。
僕が、最後に親父と話をしたのはいつだったかな?
でも、僕は家出はしてないしメリアンとは違うぞ。
「……その、もしかして……魔術師クランのエリートって……」
コサブロウさんが何か言いたそうだ。
他にも何か言いたそうな人がいる。
どうしました?
「別によいではないか。
この世には会わなくて良い相手もいると思うぞ」
コジロウさんがキッパリと言った。
そうそう。魔術師クランの連中なんて自尊心ばかり高い変人ばかりだよ。
「その通りですね。私もそう思います。
クリフさん、この卵焼き美味しいんですよ。一切れ差し上げます」
ユーフェミアさんが笑顔で言い、卵焼きをくれた。
あ、これ、うまいです!
「皆さん、メリアンさんの家出よりも先生の依頼デス」
弁当を食べ終えた後、セリアさんが言い出した。
その通りだ。
しかし、金盾の説得か。
まずは……。
「実は皆さんに極秘情報がありマス。
本当の本当に極秘なんデス」
セリアさんは深刻な表情で言った。
セリアさんは情報が漏れることをとても恐れていた。
絶対に秘密だと言われ、僕達は各々沈黙の誓いを立てさせられた。
さらに僕が音声遮断の結界も張った。
ようやく、セリアさんは重い口を開いた。
「結婚の女神神殿の一派は、銀弓ダイナを今度の決闘で死なせようとしていマス」
ええ!?
何考えているんだ結婚の女神の神殿!
信者殺してどうするんだよ!
「銀弓ダイナの決闘は、個人的な色恋が原因です。
結婚の女神よりは愛の女神の領域と言っても良いくらいです。
信者が色恋のために死んで、結婚の女神神殿にはどんな意味があるのですか?」
ユーフェミアさんが聞いた。
「銀弓ダイナと金盾アルペロは、夫婦ではありません。
しかし、神託があります。
神託をもって夫婦同然の関係とみなし、銀弓を夫のために死んだ貞女として祭り上げます。
結婚の女神の殉教者とするのです。
また、世論の非難が悪女マデリンに集中するように誘導もします。
そうなれば、マデリンさんを支持した愛の女神神殿も立場が弱くなります。
ともかく、結婚の女神の神殿はロイメでの影響力を強めようと、いろいろ画策しているのデス」
「……。」
僕達の間を沈黙が支配した。
銀弓ダイナも何考えているんだ?
死んで花実は咲かないよ!
マデリンさんが悪女は……、割と当たってる気もするけど……。
「そううまくいくかしら?
マデリンさんが死にそうな銀弓を、上級治癒術で治しちゃったりして。
そうなれば、どっちらけよね」
メリアンが言う。
そうだよなあ。いろいろ、無理がある計画に思える。
「うまくいくかは分かりません。
しかし企んでいる者はいると思ってくだサイ」
セリアさんはまとめた。
「それは、ジェシカ・ダッカーからの伝言なのですね?」
ユーフェミアさんがセリアさんに聞いた。
「先生の所にヴァーラー神殿の関係者が訪ねてきたのデス。私はちょうど隣の部屋にいたので聞こえたのデス」
セリアさんは答える。
ユーフェミアさんは大きく溜め息をついた。
えーと、これは、結婚の女神神殿も一枚岩ではない。
また、表向きこの情報には、ジェシカ・ダッカーは関わらないという意味か?
あの婆さん無茶振りしやがって!
とにかく、ジェシカ・ダッカーがこの決闘に関して、『三槍の誓い』と『輝ける闇』、二つのパーティーを呼んで仕事を頼んだのには、それなりの理由があると言うことだ。