表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/241

106. 脱出クエスト

僕は長くて薄っぺらい固定結界を張った。

端は台座をカバーし、反対側の端は岩扉の向こうまで繋がる。


この聖属性のトンネルの中を岩扉の向こうまで移動する。

聖属性の結界は、1番ヤバい精神を削る亡霊レイスの直接攻撃からは皆を守れる。



「エリクサーはすぐ出せる所に持て。

攻撃魔術を食らったら早めに飲め。

致命傷にはならなくても、動けなくなると、皆に影響する」

ハロルドさんは言った。


問題は、亡霊レイスの直接攻撃以外から皆を守る余裕がないことだ。

物理的ダメージは、エリクサーを飲みながら耐えるしかない。



順番は、先頭はコイチロウさん、次が聖属性持ちのメリアン、その次がキンバリー。

その後も、だいたい遅そうなメンバーと体力があるメンバーが交互になるように配置した。


僕は後ろの方だ。



そして、殿しんがりはハロルドさん。皆が脱出するまで台座を守る。


ハイ・レイスの魔術で像が倒されると、扉が閉まってしまう。守備役は必要だ。


この役を果たせるのは、ハロルドさんしかいない。

本人がそう主張した。僕もそう思う。

メリアンはもちろんだが、イリークさんにやらせるのも不安である。いやマジで。


二度も三度もこんな巨大結界を張るのは、無理だ。

チャンスは一回しかないのだ。



聖属性のトンネル結界は真ん中辺りはそうでもないが、入り口と出口はかなり天井が低い。


しょうがないだろ。

この楕円体を切り取った形が1番効率が良いんだ。


僕達は赤ん坊のハイハイのような姿勢で、連なって移動することになった。



「まるで芋虫のようだ。情けない様だな、冒険者ども」

ハイ・レイスが僕達を見て言った。


無視無視。亡霊レイスは、聖属性が苦手で直接手が出せないから口で攻撃しているのだ。



「うっせーな」

僕の前にいるダグは反応したが、頭は上げない。


「ハイ・レイスよ。あなたの正直さには感嘆する」

僕の後ろにいるイリークさんが言う。

彼の減らず口はたいしたものだと思う。



言葉で攻撃しても無駄なことは理解したのだろう。

亡霊レイス達は、結界に向けて攻撃魔術を使い始めた。

氷弾、風刃、たまに炎弾や雷撃。

どれも初級魔術だし、結界ごしで威力も落ちてる。でも、まともに食らうと痛そうだ。



僕は後ろにいるイリークさんに守ってもらってるけど。

特別扱いである。

いや、結界張ってる僕の集中が切れると皆困るんだよ……。


途中からは結界の天井は少し高くなる。

腰を屈めて小走りに移動する。



「先頭は岩扉の向こうへ着いたぞー!」

コイチロウさんの声が聞こえた。

あともう少しだ。



「風の渦」

ハイ・レイスの冷えた声が聞こえた。


「風壁」

ハロルドさんの声が聞こえる。


振り返るな。

ひたすら前に進め。僕達が岩扉の向こうまで行ったら、ハロルドさんも出発する。

そういう作戦で約束だ。



「岩扉を抜けた!ハロルド来い!」

イリークさんが言った。

正確には、イリークさんは体半分しか線を越えてなかったが。

それは言いっこないしだ。


6つの像を亡霊レイス達から守っていたハロルドさんが、こちらへ進み出した。


ヨシ。あと少し!



その時、今まで攻撃魔術を使っていた亡霊レイス達が、結界に突っ込んで来た。

1匹や2匹ではない。何十匹が同時にだ。


亡霊レイス達は結界に突っ込み、次々と蒸発するように消滅していく。


エグい。そして、ヤバい。

そう来たか!



聖属性のマナは、死霊属性を持つモンスターと接触すると、激烈な反応をし、相手にダメージを与える。


そして、アンテッドが反応した分は結界は削られてしまう。

1匹や2匹なら良いが、何十匹となると馬鹿にできない負担になる。


ともかく、僕は結界の出力を上げ、維持に全力を注いだ。

穴が開いたら、一気に崩れる。


そうしている間にも、亡霊レイス達はどんどん結界に突っ込んで来る。

マナの消費が激しい。


パラパラって音も聞こえる。これは、いくつかは魔石になったんじゃないかな。

いや、ね。


もう止めましょうよ、ハイ・レイスさん!



マナはどんどん消費していく。ヤバい頭痛がしてきたぞ。


イリークさんが僕の手を握った。

「私のマナも使え。クリフ・カストナー」


効率は悪いが、接触を介して他人のマナを使うことはできる。しかし。


「だめです、イリークさん。

僕がマナ切れを起こしたら、出口まではあなたが頼りなんです」

僕は答えた。ここで終わりじゃないんだよ。



その時、後ろからぎゅっと足を捕まれた。


「私のマナを使いなさいよ。あまりないけど」

誰だよ、と思ったらメリアンだ。


メリアンは、キンバリーの上に乗っている。

キンバリーがメリアンを乗せて匍匐ほふく前進でここまで来たのか?



少し楽になったが、相変わらず亡霊レイスはどんどん突っ込んで来る。



腰を屈めて移動するハロルドさんの側にハイ・レイスが立った。

なんかやばそうな攻撃魔術を使うとしてる?



その時、コジロウさんがいきなり立ち上がった。

上半身は、結界から完全に突き抜けている。


危ないですよ!



ブワン。


コジロウさんは、長槍を投げた。

重たい槍は、それでも放物線を描いて飛び、ハイ・レイスの体を突き抜けた。


コジロウさんの槍には、聖属性の魔石が仕込まれている。


ハイ・レイスは間違いなくダメージを食らったのだろう。

一瞬、体が薄く透き通り、魔術の発動は止まった。


ハロルドさんは腰を屈めて駆け出した。


しかし、いよいよ目眩がしてきたぞ。

もうやめようよ、ハイ・レイスさん。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ