表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/241

105. 交渉

「ハイ・レイスの御仁よ、脱出の算段はついたぞ。

なお、我々は数多くの亡霊レイスを滅ぼす力を持っている。

改めて言う。

交渉に応じる気はないか?」

ハロルドさんは言った。


僕は少しホッとした。ハロルドさんは無条件で死ぬつもりではないようだ。



「冒険者と言うものは、つくづく強欲だ。

どうやら貴様がリーダーのようだ。

侵入者の親玉がここで死ぬなら、私はたいそう嬉しく思う」

ハイ・レイスの返事は堂々としたものだ。



イリークさんが一歩踏み出す。


「ハイ・レイス。

このチームのリーダーはハロルドだが、この亡霊レイスのダンジョンを見つけ、報告したのは、このクリフ・カストナーだぞ」

そして付け加える。


ちょっとイリークさん、いきなり何を言うんですか!!

そういうのを人間族は、チクる(・・・)って言うんですよ!



「そやつが先触れか」

そう言うと、ハイ・レイスは僕を見る。

ハイ・レイスの顔は分からないのだが、視線が合ったと感じた。


「殺しやすいものから殺す。戦いの基本だ。

こやつよりそっちのリーダーの方が殺しやすそうだ」

ハイ・レイスは僕から視線をそらすと言った。


ハロルドさんには悪いが、僕はちょっとホッとしたよ。


そして、イリークさんが小さく舌打ちしたのが聞こえた気がする……。

アンタ、何考えてる!蹴るぞ!



「皆でハイ・レイスと戦って奴を倒し、Bランク冒険者になると言うのはどうだ?」

コサブロウさんが発言した。


それは、冒険者としは最も正統派な解決方法だ。

しかし。



「ここは奴のホームだ。

この広間から脱出しないことには話にならない」

ハロルドさんは言った。


「このダンジョンにいるハイ・レイスが私だけとはかぎらぬぞ」

ハイ・レイスは楽しそうに言う。


僕もハロルドさんと同意見だ。

ここは逃げることを優先した方が良いと思う。

下手に戦うと、最悪、全滅の可能性もある。



「ハイ・レイスの御仁よ。

我々を欲深な冒険者と言ったな。

では欲は捨てる。

今持っている魔石は置いていこう。

どうだ?」

ハロルドさんは、交渉についてはとことん粘るようだ。

自分の命がかかっているのだから、当然である。


「くどいぞ」

ハイ・レイスは切って捨てた。


「そうか」

ハロルドさんは答える。

その声には静かな決意があるように思えた。


いや、待って。ストップ!



「ハロルドさん、ちょっと待ってください!」

僕は言った。


さっきから考えていた。

いけるような気がする。いけると思う。



「この台座から出口まで、すべて細長い結界で覆ってしまいましょう。

ハイ・レイスの魔術は、聖属性の結界の中では、確実に威力が下がっています。

さらに6つの像は気休めでもロープで固定して、時間を稼ぎます。

皆で脱出できる可能性は十分あります」



聖属性の結界の中では、亡霊レイスの攻撃魔術の威力は下がる。

さっきから、亡霊レイス達の魔術を見ていた僕の見立てだ。


このクエストの達成条件は『ハイ・レイスが風魔術で像を倒す前に、皆で結界の中を移動し、広間から脱出する』だ。

やってみせようじゃないか。



「一人でそんな巨大な結界を張れるのか?」

イリークさんが言った。


ふん。アンタには出来なくても、僕には出来るんだよ。



その時だ。


「危ないぞ。氷だ!」

ダグの声が飛び、氷弾が来た。


「おいイリーク、しゃべっている暇があったら、結界張れよ。注意散漫だぞ!」

ダグがイリークさんをうしろからこづいて連れていく。


いい気味である。

イリークさん、今回、あなたには僕のサポート役に徹してもらいますよ!




「ウィルさん地図を見せてください。位置を指定して固定結界を張ります。

形は回転楕円体で、軸は地表より下に設定しましょう。

要は平たい地表スレスレの薄い結界です」

僕は言った。


イメージが伝わったかな?

ちょっとかまぼこみたいな形の結界を張るのだ。



固定結界は、コントロールに力を割かない分魔力の消費が少ない。


形は球が最も安定するが、今回は、細長い形が必要なので回転楕円体にする。

地図はさっき作った。大きさ長さも術式の中に定義できる。

いける。



「ここから、第二の岩扉までだぞ。大丈夫か?」

ハロルドさんは確認した。


「いけます。相当薄っぺらいですが」


「ふむ。匍匐ほふく前進だな。得意だぞ」

コイチロウさんが言った。




「ロープだ。できる範囲で像を固定しろ」

ハロルドさんが指示を出す。


ギャビンとキンバリーが動き出した。ついでウィルさんも。


台座には良い引っ掛かりがないので、難しそうだったが、なんとか像を固定した。

……正直、僕には彼らが荷造りをしているみたいに見えた。

これで、彫像が風魔術ひとつで倒れることはないだろう。



「準備は終わったか?」

ハイ・レイスは言った。


「ああ、終わった。

最後にもう一度聞く。交渉に応じる気はないか?

今脱出させてもらえるなら、魔石はすべて置いていく」

ハロルドさんは、さらに粘った。


「冒険者と交渉して良いことがあるとは思えぬ」

ハイ・レイスは答えた。


まあ、ハイ・レイスの立場ならそうかもしれない。



ともあれ、やることは決まった。

脱出クエストだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ