凸でこぼこなコンビ凹 2
投稿頻度はとても遅いです。ゆっくり読んでもらえれば幸いです。
「んふふ〜 めのいろ〜 かえて〜 お〜かいあげ〜 んふふ〜ん・・・」
すっかりと日が暮れた頃、出店の営業を終えた広場の商人は実に愉快そうに鼻歌を歌いながら馬車の手綱を引いている。
その後を尾けるように、商人との距離を詰めず離れず一つの小さいな影も移動していた。
影の正体はヤマト。スワンはというと、小さなツバメの姿に変身してヤマトの頭の上に乗っていた。
「スワン、何にでも変身できるなら馬になって運んでよ」
「嫌キヨ、走ったら疲れるキヨ。それに暗いからよく周りが見えなくて危ないキヨ」
「変身できても鳥目なんだな。ならしゃーないか。」
軽口を叩きながら、ヤマトは平然と馬車の速度についていく。
「こんな遅い時間にわざわざ何で出発するキヨか?」
「せっかく道案内人がいるんだから、案内してもらってるんだよ。
とりあえず盗賊団のアジトまで一息で行くぞ。」
「え!あの商人盗賊団の仲間だったキヨか?!」
ヤマトは走りながら商人が盗賊団に繋がっている推測をスワンに話す。
単純に食料を持って魔獣が多く出る道を通ることが命知らずすぎる行動なのだ。
一般的な商人は命を張るようなリスクを犯さないので、広場の商人には何か裏があるのだろう。
例えば、盗賊団に金品を納めることで競合他社のいない市場を独占してぼったくるとか、そもそも商人自体が盗賊団の構成員だとか。
現に魔物が活発に行動する夜に町を抜けて馬車を出していることも推測を裏付けているのである。
話している内に商人の馬車が街道を逸れて小道に曲がっていく。
「お、そろそろアジトの近くみたいだ」
小道の先には入り口を分かりにくく偽装した洞窟があった。
商人の馬車はすでに入り口付近に停めてある。入り口には下っ端と思われる見張り役が3人立っている。
野宿する冒険者に見えなくもないが、変わった格好をしている。
「キヨ!あいつらこの前の!」
スワンの言うように、見張りの3人はスワンを攫おうとした奴らだった。
先日ヤマトが放った爆発を諸に受けたのだが、回復魔法はかけてもらっているようだ。
ヤマトも後を引くような大怪我を負わせるつもりもなかった。ただ、
「替えの服はないのかよ、寒そ(笑)」
申し訳程度に燃え残ったボロボロの服の上から防具をしている。
「いい気味キヨ。今度は葉っぱ隊にさせてやるキヨ。」
「おっさん共の裸に興味はないな、それよりもラッキーだぞスワン」
「何がラッキーキヨか?」
「あいつらの親玉はスワンの母さんのこと知ってるから、その子のスワンを狙ったんじゃないかな。」
「きっとそうキヨ!ヤマト、サクッと捕まえて尋問だキヨ!
思いがけない母の手がかりに前のめりになるスワンに、ヤマトは苦笑しながら宥める。
「尋問だなんて物騒なことを言うね…洞窟崩して塞いでしまうのが楽だったのに、捕まえるか」
そっちの方がよっぽど物騒だと、スワンは突っ込んだら負けだと思ったのであった。
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「ドルフコブラ様、本日の売上分で御座いやす。お納め下さいませ。」
「調子がいいようだなセンドよ。がははは。」
洞窟の中では20人を超える部下たちが思い思いに寛いでいる大部屋の奥で、大男と商人が向かい合っている。
大男はトレジャーボックスにどっかりと座り、盗んだと思われる宝石をいくつもアクセサリーとして首や腕につけている。
「おかげさまでございやすよ。ドルフコブラ様もお機嫌がよろしいようにお見受けしやすが、ふっふっふ。」
「ああ。面白い報告があってな。…センドは精霊を知っているか。」
「精霊でございやすか、幻の存在でありますな。自然の魔が強い場所にいるんだとか。
天候や気温に収穫量を左右される農民は、土地の安定を願う儀式を『精霊様の訪れの儀』と呼びますし、
無事豊作を迎えることができたならば、『精霊様の足跡に感謝を』と唱え手を合わせているようでございやす。」
「うむ。気まぐれに死にかけの人間や動物を救ってやることもあるらしいな。」
「魔物に襲われて命を落としかけた時、不意に淡い光を纏った女神が現れ、
傷を癒やしてもらったと言う冒険者の話でしょうか。
真偽の程が疑わしいですな。」
「助けられた動物について聞いたことはあるか。」
「とても知るものが少ない噂でございますが、ドルフコブラ様は耳が早いですね。
助けた動物が一人でも生きていけるように特殊な魔法と言葉を教えるのだとか。
まず作り話でしょう。そんな珍獣がいるのなら闇オク(闇オークション)で目玉でしょうから。」
「その珍獣が近くで目撃されたと聞いたら、涎が出るだろ?」
「! それはそれは大きなビジネスチャンスでございやすね、ふっふっふ」
「がははは…… !!」
二人が黒い笑いを浮かべているその時不意に、ドルフコブラは咄嗟に口元を覆った。
センドは笑ったまま後ろにのけ反り、そのまま仰向けに倒れて昏倒する。
ドルフコブラはセンドが地面に倒れるタイミングで既に非常時に脱出できるように作ってあった横穴から外へ飛び出る。
「!!!」
外に飛び出したドルフコブラは着地した直後つんのめり、地面に手をついてしまう。
脱出口には鼠取りの粘着トラップが仕込んであったのである。
「はじめまして親玉さん。その話、詳しく聞かせてもらおうか。」
満面の笑みを浮かべたヤマトが正面から膝をついた大男を見下ろしていた。
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盗賊団のアジトについたヤマトとスワンは入り口が見える位置にある茂みに身を潜めていた。
「ヤマト、洞窟の中は20人以上いるキヨがいるキヨ。
それに、一番奥にいる奴、とんでもない魔力量だキヨよ。」
「ここから判るのか、すごいなスワン。」
「こんな大人数相手にどうやって戦うキヨ?」
「とりあえず、アジトの周りを一周しようか。人数は特には大丈夫。
全滅させるまでスワンはかげに隠れてな。」
アジトの周りを下調べしたヤマトは万が一親玉が脱出した時の罠を張った。
そして見張りの3人を気づかれる前に麻痺クナイで身体の自由を奪い、入り口から無色の催眠ガスを洞窟内に向けて静かに焚いたのだった。
「はじめまして親玉さん。その話、詳しく聞かせてもらおうか。」
「…喋るニワトリと一緒に行動してるガキだな。」
「親玉さん頭の回転すごく早いね。けど、質問してるのは俺の方だよ!」
ヤマトはクナイをいつでも投擲できる姿勢でドルフコブラの答えを待つ。
「がははは、威勢のいいガキは嫌いじゃねえが、お前の戦術は嫌なこと思い出すぜ!
ウォーターボール!!」
ドルフコブラは膝を地面についた状態で地面に水の玉をぶつける。
足と手を地面に貼り付けていた粘着を水で洗い流し、まるで何事もなかったようにドルフコブラは立ち上がった。
「・・・!」
「冒険者をやっていた時になぁ、気に入らね小賢しい奴がいたんだよ。
不意打ちや状態異常を起こす道具、俺と変わらねえ魔力量があるくせに、絡め手ばかり使いやがる。」
ドルフコブラは宝石のように見えるアームリングをヤマトに見せる。
「こいつは魔法石でな、状態異常になる毒物を感知した時に色が変わるのさ。」
「へぇ、その人とはよくぶつかってたんだ、勝ち越しているの?親玉さん真っ直ぐぶつかって負けてたんじゃない?」
「肝が据わってんじゃねえか。俺を怒らせて隙を作ろうってか。」
「・・・!」
ヤマトは困惑を必死に押し隠す。
(こいつ強い、長けた状況判断力と感情的にならない胆力。・・・どうする、、)
ヤマトは両手を振るい、クナイを投擲。
「ウォーターウォール!」
ドルフコブラは自身の前面に水の障壁を展開し向かってくるクナイを阻む。
その隙を突きヤマトは一気に接近してドルフコブラの懐にスライディングする。
「ウォーターベール!」
今度は自身を中心に全方位に障壁を展開する。
「チッ…」
ドルフコブラはヤマトの狙いを完璧に読み切っていた。
ヤマトはクナイを投擲するとき、一つだけ山なりにクナイを放ち、ドルフコブラの懐で回収印を起動させることで死角から攻撃を当てようとしていたのだ。
足元まで接近してきたヤマトに蹴りを喰らわせる。
「ぐふっ」
「小細工はもう終わりか、クソガキ。」
「・・・」
可燃性粉末丸を即座に投げ、バックステップして距離をとりながらクナイで空中の粉末丸を射抜く。しかし、
「ウォーターカッター!」
「ぐはっ」
水魔法を連発していた空間では湿度が高く、上手く発火しなかった。
ヤマトの攻撃は不発に終わり、水の刃に肌を削られる。
「魔法は使わないのか、いや、使えんのか。どちらにしても力量差ははっきりした。
さあ次は俺の質問だ、ニワトリはどこだ。」
ヤマトはグッとドルフコブラを睨む。
「ウォーターカッター!」
大きく横飛びしなんとか致命傷を避けるのが精一杯のヤマト。
「ニワトリの居場所を教えれば命だけは助けてやるぞ、答えないなら、分かるだろ?」
ドルフコブラは獰猛な笑みを浮かべた。それはまさに殺戮に愉悦を感じる化け物のような笑顔。
ヤマトもまた、笑っていた。
自分の手の内は通用しない。力も経験も及ばない強者と対峙して感じているのは死を押し付けられる途方もなく重い圧力。
だが後には退かない。今退けば、この先に進むことができないような気がヤマトにはしていたのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。