凸でこぼこなコンビ凹 1
投稿頻度は非常に遅いです。ゆっくり読んで頂けると幸いです。
町を出て半日しか経っていないのに2回も戦うことになったのはまったくの予想外だった。
尤も、今俺の目の前で頭を下げている珍獣に出会ってから怒涛の連戦である。
「ヤマト、王都までオイラと一緒に行って欲しいキヨ!」
名前はスワン。どこからどう見ても美味しそうなチキンにしか見えないが、人の言葉を喋っている。
髭男が襲撃した折には、『本当に喋るニワトリがいやがった!』なんて
誰だか知らないがスワンの素性を知るものが賊に狙わせたと丸わかりな事を言っていたし、
今後も何者かに襲われると見て間違いないだろうな…
「ヤマト!聞いてるキヨか!オイラ、ヤマトのシブい戦術に一目惚れしたんだキヨ!!」
スワンは目をキラキラさせながら、さっきの秒の救出撃を思い返すような表情をしているようだ。
スワンが紐で縛られていた状況を打開するために、俺は3つのアイテムをほぼ同時に投げつけたに過ぎない。
一つは煙幕…に見せかけた可燃性粉末丸。対象に当たると固形だった粉末丸が粉末に変わる際に黒色の煙を書き散らす。
黒色の煙が晴れた後も目には見えない可燃性の粉末はしばらく空気中を漂っているのだ。
同時にスワンの腹に張り付くように、クナイに施された回収印と同じ札を投擲。スワンに接触した瞬間に起動させる。
一瞬だけずらしてクナイで縄を射抜き、縄とクナイの摩擦で周りの粉末が発火し、盛大に爆発したという訳だ。
炎からの脱出時に火傷はしていないが、毛の表面だけ焦げてしまったようで身体全体がチリチリしている。
…本人は全く気にしていないようだが。
「聞いてる聞いてる、それにしてもただの煙幕じゃないことによく気付いたな。」
「煙から風と炎の魔力が見て分かったキヨ、オイラは魔力にとても敏感なんだキヨよ。」
魔力とは魔法の発動に必要なエネルギーである。
体系的には自然の中にある魔を普通そのまま行使することはできない。
人間はマナを魔力に変換して体内の器官に蓄えて、魔法の行使に利用する。
魔法を行使することは、『念じる』に近いので、突き詰めて魔力を感じなが行われることではないらしい。
魔力の感受性の強い一部の人間はたしかにいて、魔法を発動させる兆候を先んじて識ることができると聞いたことはあるが、発動前の魔法の性質《火、水、風、土、etc…》まで正確に識るのは敏感という表現でいいのだろうか…
「王都に行くんなら一緒に行こうか!」
スワンの素性は全くの謎。だけどやな奴じゃなさそう。
せっかく出会ったのに知らないところで何者かにスワンが捕まる姿を想像すると少し悲しいので、あまり深く考えずにヤマトはスワンの同行を許す。
「やった!これからよろしくキヨ!ヤマト!」
「よろしくなー。しかし、喋るニワトリなんて聞いたことないんだけど、目立ちまくってしょうがないぞ。
改めて不思議生物だね君は。」
「失礼キヨ!今まで人に見られることなんてなかったキヨ。
それじゃ……これでどうキヨ?」
「はぁ?!」
スワンの身体が淡く光ったかと思えば、小さな子どもがスワンがいた場所に立っている。
基礎学校に入学したばかりの5,6歳くらいの男の子で、白い肌に髪全体が赤色でニワトリのトサカのように頭の頂点でそこだけ赤紫色の髪の毛が逆立っている。
「住処を出る時はいつも変身してるキヨ。
さっきはリトルフェンリルに襲われて変身するのが頭から飛んでたキヨ。」
「………はあぁぁ…」
次々出てくる未知の事柄にヤマトは大きなため息をついて遠い目になる。
喋るニワトリ、魔法が発動する前に正体を見切る魔力感知、変身、必ず語尾に付くキヨ……
理解を超える不思議生物にヤマトは結局、、
「…世界は広いってことだな!」
分からないことはスルーすることにしたのだった。
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それから2人は王都への道に足を進め2日経った夕暮れ時、ようやく王都ブリティンヘルム王国直轄地とヤマトの育った町のあるガノム地方との中継地点にある宿場町にたどり着いた。
「ここは王国直轄地の最も西にある『マンサイカ』って町だよ。
…殺伐とした雰囲気だけど、どうしたんだろ?」
「奥の広場みたいなところに人がいっぱい集まってるキヨ。なんか叫んでるみたいキヨ。」
「行ってみよう」
広場について見ると、食品を乗せた荷車の周りに人々が押し寄せて、商人に向かって叫んでいる。
「子どもがお腹を空かせてるの。こんな少なくて足りないわ。。」
「こんな少量の肉で小銀貨10枚だと?ふざけるな!」
「人の足下見て商売してんしゃねえぞ、悪徳業者が!!」
「文句があるならお買い上げ頂かなくて結構でございやすよっ。
町外れにはリトルフェンリルもた〜くさんいますからご自由に狩っておくんなさい。
おっと、気をつけないと魔物にお肉にされちゃいますけれども、ふっふっふ。」
ヤマトは近くにいた村人の一人に声をかける
「こんにちは、旅の者ですが、なんの騒ぎなんですか?」
「兄ちゃんたち、間の悪い時に来たもんだね。2週間前くらいから王都とこの町を結ぶ一番大きな街道を盗賊団が塞いじまっててな、商人たちが町に入って来れないんだよ。」
「盗賊団ですか、何で広場の商人は町まで来れたんですか?」
「なんでも、傭兵を雇って魔物が出るような道も通りつつ大回りして来たんだとさ」
命懸けで食料を届けてくれているようなんだが、態度が善人には見えないんだよなあ」
「そうですか。王都の騎士は取り締まりに動かないんですね。」
「王都内は水面下で荒れてるから、王都外の問題は後回し状態なのさ。
この町に用がないんなら、早めに町を出た方がいいと思うぜ。
王都に行くんだったら、傭兵込みの相乗り馬車が出ててな、朝そこの市庁舎から乗れるぜ。」
「そうなんですか。あなたは傭兵付けなくても大丈夫なんじゃないですか。」
「兄ちゃん鋭いな。俺は市庁舎に依頼受けてる傭兵のリブロだ。
明日朝出るなら俺がいるから、よろしくな。」
「傭兵の方でしたか、ちなみに行商人と道ですれ違うことってよくあります?」
「どうだったかな、王都につながってる道は一つじゃないからな。そういやないかもな。」
「そうですか。色々ありがとうございます。」
「おうよ、じゃあな」
リブロと別れ、道の端で2人はマンサイカに来る前に調達している調理済みの串焼きを袋から取り出して食べながら話す。
「ヤマト、明日は馬車に乗るキヨか?」
「それなんだがな…」
ヤマトは視線を感じてその方向を向くと、赤ん坊をおんぶしたスワン(人間バージョン)と同じくらいの年頃の女の子がこちらを見ていた。
女の子のもとへ行き驚かさないように優しく語りかける。
「お母ちゃんとお父ちゃんはいないのか?」
「二人ともずっと働いているの。
町の外は危ないから、頑張ってお金稼いで、私たちを守ってくれているの。」
「そうか。」
ヤマトは食料の入った袋を女の子に握らせて、スワンのもとに戻ってくる。
「…スワン、俺たちは真っ直ぐ王都に行こうぜ。」
「ヤマトはお人好しキヨね。オイラはヤマトと王都に行くキヨ!」
ヤマトはすかさずスワンの解釈を訂正する。
「そんなんじゃないさ…。節約だ。」
持っていた一本の焼鳥を食べながら
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。