ひとりぼっちの珍獣
投稿頻度は非常に遅いです。ゆっくり読んで頂ければ幸いです。
「ガルル…ゥガウッ!!」
3匹の内、1匹が鋭い牙が並ぶ口を大きく開けて襲い掛かってくる。
魔獣は野生動物と同じで知能はない。
だが、種類によっては群をなして狩をしたり、毒を持っていたり、空を飛べるものもいる。
魔獣達が町に襲撃することは少ないが、町の外を闊歩しているので、行商人や遠くの町に移動する者は傭兵などの護衛をつける。
万が一戦う力のない人間が魔獣に出くわしてしまった時は、逃げる・隠れてやり過ごすの二つのうち一つである。
ヤマトは慣れた動きでリトルフェンリルの牙をひらひらと躱しながら、落ちていた木の枝を拾い、リトルフェンリルにそれを噛みつかせて牙を防ぐ。
「こいつらはお前のお友達ではないんだよな?」
木の後ろに半身を隠して様子を窺っているニワトリ声をかける。
「全然違うキヨ!美味そうなおいらを食べるつもりキヨ!!」
「自分で美味しそうって言っちゃうのね、じゃあ倒して問題ないな!」
ヤマトは羽織っている灰色のマントのポケットから小さな黄色の巻物をつかみ出す。
黄色の巻物を握り締めた拳でそのままリトルフェンリルを殴りつける。
「!!!」
殴られたリトルフェンリルはヤマトから距離を取る。
最初に突っ込んできた1匹が離れると、今度はマントの内側から左右3本ずつクナイを器用に指で挟みながら取り出し、残りの2匹に投擲する。
放たれたクナイは1匹には躱され、1匹は肌を掠めた。
「あと一匹か、これで仕上げだな」
「一匹も倒せてないキヨよ!……キヨ?!」
ドサッ、ドサッ、
殴られた個体、クナイを躱せなかった個体は立て続けに地に伏す。
「何が起きてるキヨ??」
突然のこと自体に思わず首をひねる。
それを見た最後の1匹は激昂し、猛スピードで突進しヤマトの首を食いちぎらんと肉薄する。
ヤマトは回避する素振りも見せず、むしろコートを広げてリトルフェンリルの突進を受け止めるように構えていた。
「ああ危ないキョッ!!」
ズザザザザ、、
次の瞬間には、砂埃をあげながら自身の加速の慣性で大地を引き摺られたリトルフェンリルの姿がヤマトの足元にあった。
後ろ足にクナイが深く刺さった状態で。
倒れているリトルフェンリルに解体用のナイフできっちり留めを刺し終えたヤマトにニワトリは話しかける。
「君が何をしたのか、何も分からなかったキヨ。
オイラが何の魔法を使っていたのか分からないなんて、よっぽど珍しい魔法キヨ!」
「不正解だよニワトリ君、俺は魔法を使ってないんだ。
全部麻痺を負わせる効果を付与した仕込み武器で倒したんだぜ!
この巻物は、事前に魔力を込めておけば、握り込んで衝撃を与えれば効果が出る。事前に麻痺毒を仕込んで、自分は手袋でガードしてた。
クナイの先にも麻痺毒を塗ってあるんだ。」
「最後の一匹はどうして倒れたキヨ?」
「マントに仕掛けがあったのさ、投げ道具をすぐ回収してまた使うために、投げたものを戻って来させる印が組まれているんだ。
躱されたクナイを時間差で戻して当てたまでさ。」
昔出会った恩人にもらった灰色のマント。
警戒心がものすごく強い効率主義のリアリストで、初めて会った時は本当に怖い人だと思った。
「魔法を使わずに魔獣を倒すなんてすごいキヨ!」
「……まあな!俺はヤマト。王都の王立魔法騎士官学校に行く途中なんだけど、あんたは?」
「おいらはスワンだキヨ!…母さんを探すために住処を出てきたキヨ。」
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お昼時だったので、先ほど狩ったお肉を食しながらスワンの話に耳を傾ける。
聞いてみると、スワンは少し前まで母と二人で暮らしていたらしい。
ある時、置き手紙を残して母親はスワンの元から消えてしまった。
手紙には、自分を探さないで欲しい、母から教えられた魔法は信頼できる人のために使うようにと書いてあったそうだ。
「母さんは探して欲しくないんだろ?言いつけ守らなくていいのか?」
「いいんだキヨ。いなくなる前の日、母さん何か変だったキヨ。
おいらを置いて行ってしまった理由を知りたいんだキヨ。」
「母さんの行き先に心当たりはあるの?」
「ないキヨ…」
「そうだなぁ、大きな町の役所に行けば色んな情報が集まってるから、ヒントがあるかもしれないな。」
「…! 分かったキヨ!それならおいらも王都に行きたいキヨ!」
「それと、君の魔法って…?」
「えーと、それは…」
「「ファイアボール!」」
「ウィンドショット!」
木陰から何者かの声がした途端、唐突にヤマト・スワン目掛けて魔法が放たれた。
ヤマトは咄嗟にマントを深く被り、体勢を低くする。
ズドドドン!
炎の魔法が二人の近くに着弾する。砂埃が上がり瞬間視界が奪われた一拍後には、
「キーヨー」
足を紐で縛られて逆さに吊るされた体勢でスワンが悲痛な声をあげる。
「ガハハ、捕まえたぜ!喋るニワトリが本当にいやがった!
これで俺たちにつきが向いてきたぜ!」
スワンを縛った紐を肩に掛け、髭男が喜び勇む。
「スワンをどうするつもりだ!」
「おっと部外者はすっこんでな、興味本位で首を突っ込むなら、死ぬぜ。」
髭男を睨みつけながらもヤマトは冷静に周囲の状況分析に勤める。
(先刻魔法を放った3人以外にも、取り囲むように他にも5人いるな。
この場で仕掛けるのはリスキーか…)
「そっすかー、部外者なもんで失礼します…なんて!」
「うぉ!」
踵を返すフリをして、煙幕を正面の敵に投げつける。
視界を遮断された男達がヤマトの接近を警戒してお互いに密集する動きを見せるが、
煙幕が晴れたときヤマトの姿はどこにもなかった。
「助けるようなフリして逃げやがったぜ。がははは」
「キヨ…」
敵3人が笑い合う中、スワンは気づいていた。
動きの素早いリトルフェンリルを事もなげに倒し、人数の不利を一発で巻き返す布石の設置。
戦法の華やかさは皆無だが、研ぎ澄まされた戦法の鮮やかさにスワンは言葉もでない。
次の瞬間には、思った通りスワンの視界は別の場所に変わり、
遠くから爆発音が辺りにこだましていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。