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スキルショップの観測者(オブザーバー)  作者: この物語はフィクションです
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第4話 伏見 愛(ふしみあい)

「具体的にどんな能力が欲しいんだ?」



 早くも俺の口調が崩れる。十代の少女が世界征服したいとか言い出したら、そりゃ冷静さも失うわ。



「世界中の人を同時に洗脳する能力とか、全ての人に自分を神として認識させる能力とかかな」



 世界征服したいと言う十代の少女は、何故か明らかに殺意を持ちながら俺の事をじっと見つめる。

 俺はあえて少女に目を合わせてから言葉を放つ。



「何でお前みたいな奴がそんな能力を欲しがるんだよ。理由を聞かせてくれ」


「……犯罪系の能力を売ってるあなたに話すことなんてなにもないよ。くれないのなら手段は選ばない!!」



 少女は能力を発動しようとして俺を強く睨み付けるがなにも起こらない。



「……能力を使っても俺には効かねえっての。てかお前、違和感あると思ったら複数の能力持ちか」


「無効化……!? 噂通り何でも出来るのね……」



 気付くのに時間がかかったが、少女の持っている能力は三つ。

 《存在感を操作するスキル》と《所有能力を偽装するスキル》、そして《相手が自分の思い通りになるスキル》という俺に頼らなくても時間さえあれば世界征服できそうなくらいに強力なスキルセットだ。


 正直言って、二つ以上能力を持っている人自体この世界じゃ珍しいのに、全ての能力が当たりの人なんて存在していた事に驚いている。



「わざわざ能力を偽装してる奴に会うのはこの世界じゃ初めてだよ。それより、聞きたい事が山ほどあるんだが」


「……私だって聞きたい事がある。何故あなたは犯罪系の能力を売るの?」


「買おうとする奴を集める為だな。後は暇潰し。次はこっちの番だ。平日なのに学校はどうした。お前高校生だよな?」


「……高校に進学してない可能性だってあるでしょ」



 俺の答えに少女は少しだけイライラしながら質問をはぐらかす。



「答えないなら記憶を覗くぞ」


「何よその脅し……今日はテスト期間中で学校は午前で終わったのよ」


「ああなるほど。じゃあ次の質問。金はどう用意したんだ」


「貯金よ」


「貯金にしてはありすぎだろ……。じゃあ次の質問。なんで世界征服したいんだ?」


「なんで犯罪系の能力なんかを売ってるあなたに理由を言わなくちゃダメなの?」


「勘違いしてる様だけど、俺が売った犯罪系能力を悪用された事はないぞ。悪用する直前に能力者は死ぬからな。ネットにも書いてあったろ。使う場合は完全に自己責任って。それと世界征服したい理由を言ってくれるならスキルショップ関係なく、俺個人として相談に乗ってやる」



 少女は戸惑ったが、多少は信用してくれた様で椅子に座って話を始める。



「……私はね、自殺を無くしたいの。中学の頃、親友を自殺で失っているから」


「それで世界征服ってかなり飛躍したな……」


「私の理想はね、世界を征服して全ての人が平等で、争いも起きず、弱い者は一人で抱え込まずにいつでも誰にでも相談出来る世界を作る事よ」


「お前以外が平等って時点で不平等じゃねえか」


「世界征服したからって無意味に誰かを傷付けるつもりはないわ。私はこの世界の神として存在するだけでいいの」


「お前は神の器じゃねえよ。やりたい事は分からんでもないけどな」


「別に私じゃなくてもいい。私の理想を叶えてくれるなら、あなたが世界を征服して私がそれをサポートする形でも構わない。 あなただったら例え失敗しても時間を戻したりくらいなら出来るんでしょ?」


「世界征服か……」



 神と同等の存在になって、どんな能力を使おうとも、永続的に争いの起こらない平和な世界を作ることは不可能だった。そういう意味では世界征服という発想自体は悪くないのかもしれない。

 しかし問題が山ほどある。

 まず世界征服で作り出した平和は人にとって本当に幸せなのか。次に時間操作という手段に意味はなく失敗が許されない事。そして仮に世界征服で本当に平和な世界を作れたとしても、平和にならない世界線が存在してしまう事。


 誰かを助け、誰かを見捨てる。そういう考え方をあんまりしたくない俺としては、そっちの問題が解決しない限り世界を救おうとは思わない。



「どう? 悪くないでしょ?」


「……世界征服して、お前の親友は喜ぶのか?」


「……」



 少女は俺の言葉に何も答えずに、黙ってうつむいてしまう。こいつも色々と思うことはあるのだろう。



「ところで、その親友が自殺した原因は?」


「……わからないのよ。いじめとかはなかったし、家庭環境にも問題があったとは思えない。素敵なお姉さんも居たから」


「もしかしてその自殺したのって、龍ヶ崎凛音(りゅうがさきりんね)の事か?」


「なんで知ってるの!?」


「お前、桂場月夜って奴と同じ中学だったろ。あいつに何故自殺したかを調べて欲しいって頼まれたことがあってな」


「もしかして月夜の知り合いなの?」


「うちで働いてるよ。てか月夜からここを聞いたのか?」


「いや、偶然よ。昔はよく三人で遊びに行ってたけど、凛音が死んでからは遊ぶ事もなくなって、高校も別々になっちゃったから」


「なるほどな」



 という事はこいつの名前は伏見愛(ふしみあい)。桂場月夜の親友だ

 何故知っているかというと、よく月夜の話に出てくるからだ。あいつおしゃべりだから。



「それより、あなたは凛音が自殺した原因を知ってるって事?」


「知ってるよ。言う気はないけどな」


「教えて! ずっと気になってたの……!!」


「自殺した本人の為にも言えない」



 自殺した原因を安易に教えるべきではない。いろいろな理由で。



「……結局、何もしてくれないなら相談なんてしなければよかった」



 少女は目に涙を浮かべながらうつむいている。



「あのな、物事には理由が伴うんだよ。世界を救わない理由だってあるし、龍ヶ崎凛音が自殺してしまった原因を言いたくない理由だってある。もしお前がわがままでどうしても教えて欲しいって言うんだったら教えてやるよ。この世界の仕組みも、自殺した原因も」


「わがままでいい。全部教えて」



 真剣な表情になった少女は俺を見つめながら即答する。



「……わかった。みうは別室で待機してもらえるか? 自殺の原因とかはお前に関係ないし、お前が興味ありそうな世界の仕組みに関してはあとで説明してやるから」


「わかりました」



 俺はみうを彼女の自宅に転移させてから少女に話を始める。


 世界の仕組みと俺が今までしてきた事、龍ヶ崎凛音の自殺の原因、そして龍ヶ崎凛音が今どういう状態にあるか、その他軽い自己紹介など色々な説明をした。


 説明中に少女は泣き、怒り、そしてまた泣き、説明が終わる頃には疲れきった様子だった。



「ここまでで質問とかはあるか?」


「あなた……世界の仕組みなんて人に話して良かったの……?」


「信じるかどうかは人によるしな。もしかしたら頭がおかしい人の狂言っていう可能性だってあるだろ」


「……嘘を言ってるとは思えなかった」


「まあ信じてくれるなら良かったよ。で、どうする? まだ世界征服したいか?」


「私は困っている人が居たら助けたい。自分の手で助けられるなら。でも世界征服はやめておく。それで不幸になる人が居たら意味無いから……」


「そりゃ良かった。久々に仕事したって感じするわ」



 少女は目をゴシゴシして涙をしっかりと拭い、俺を見つめてから言った。



「でも、あなたはあなたで犯罪系の能力を売るのは自重して。いくら悪用する人だけを殺してるからって、あなたが売らなければそもそも悪用しないんだから」


「難しいな。そもそもここで犯罪系の能力を買おうとする奴にまともな奴はほとんど居ないからな。これに関しては悪人を事前に殺してるって考え方で許してくれ。これが誰も救わなくなった俺なりの正義だ」


「そう……。あと一つだけ質問なんだけど、あなたと同じ存在になる方法はあるの?」


「無理だな。世界の外側に行って神と接触する必要がある。一応眷属って形でなら不老不死くらいにはなれるけどオススメはしない。わざわざ世界が消滅する所なんて見たくないだろ?」


「……いえ、不老不死になれるなら私はなりたい。あなたが諦めてしまった全ての世界を平和にする方法をどんなに時間がかかっても探しだしてみせる。例え世界そのものに寿命があるとしても」


「マジか……」


「どうすればいいの?」


「えっと……俺の血を飲むか……キスするかだな……」



 俺の説明を聞いた直後、唐突に立ち上がった少女はテーブルを回り込み、俺に抱きつきながらキスをする。

 突然の事で少しだけ焦りながらも、しっかりと《観測者特権》という能力で目の前の少女を俺の眷属にする。



「えへへ。これでいいかな?」



 テレながら笑顔を見せる少女に少しだけドキドキする。こういう感情は久々だ。



「お前、躊躇えっての……」


「いい人だって分かったから。それじゃ、これから末永く宜しくね。永司君」



 ニコニコしながら笑顔で見つめてくる少女は正直言って可愛かった。



「不老不死の成り立ては気楽そうで羨ましいよ」


「あっ! そうだ!!」


「ん? どうした」


「永司君は子供何人欲しい? 私は双子がいいなぁ」




──やっぱやばい奴だったわ。

数ある作品からこの作品を見てくださりありがとうございます!


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