第3話 《相手の死ぬ未来を変えるスキル》
「よかったな。今日は忙しいぞ」
「何人来るんですか?」
「三人だ。ついでに一人目は二時間後な」
「忙しくないじゃないですか!!」
みうの見事な突っ込みが部屋に響き渡った。
今日は水曜日。
部屋に到着した俺達は、二時間後に向けて準備に取り掛かる。
まずは一時間程度暇を潰す。
正直どんな娯楽にも飽き始めているが寝て過ごすのはもったいないし、俺のこれからの事を考えると今の時点で娯楽に飽きたなどと言ってられない。
そして残り時間で掃除を済ませてから、のんびりと客を待つ。
「今日はどんな客ですかねー」
「その辺はあえて未来を見てないから分からんな。少なくともここに来る時点でまともな人間じゃねえと思うわ」
「それ私に言います?」
「わざわざ俺のところで働こうなんてまともじゃないだろ」
「それ自分で言います?」
みうは俺がスキルショップを始めたての頃に来た客の一人だ。
店に来た理由は、オカルトが好きでネットの噂などを色々試していたらここに行き着いたらしい。
実はお金持ちで働く必要すらないのだが、俺の事をもっと知りたいと言われ、ここの看板娘として採用した。
客として来た時に既に能力持ちだったので実は二つの能力を持っていたりするが、隣に俺が居る時の出番はほとんどない。
「とりあえずもう時間だ。呼ぶぞ」
「はいはい」
いつもの様に指パッチンからの瞬間移動で客を招く。
今日の客はボサボサの長髪が目立つ二十代前半の女性。
ここに来る二十代前半は大体やべえ奴な気がする。みう含めて。
「ようこそスキルショップへ。どんな能力をお求めですか?」
「……殺したい人が居るの。だから簡単に殺せる能力が欲しい」
ほらな? やべえんだよ、ここに来る二十代前半。
「分かりました。うちの販売方法はガチャ形式なので大当たりは《念じた相手を殺すスキル》で大丈夫ですか?」
「なんでもいいわ……」
「じゃあこの箱に入ったビー玉の中から一つ選んでください」
「……」
女性は真剣な表情で箱に入ったビー玉を見つめる。
正直怖い。なんていうか、ホラー映画のお化け役みたいな顔してるもん。なんでそんな顔しながら箱見つめてるんだよ。こえーよ。
「……じゃあこれ」
「《相手の恐怖を倍増させるスキル》ですね……」
「……へぇ……悪くないわね」
お客様、それハズレスキルです。そんな事は言えない。
実際、能力としては相手が恐怖を感じることが前提の上、それを倍増させるだけのゴミスキルだが、この女性にとっては相性は悪くないかもしれない。失礼だけどお化けみたいな人だし。
「これで百万円なら安いわね……また来るわ……」
「またお越し下さいませー」
指パッチンで客を元居た場所へ返す。
「なんかお化けみたいな人でしたね」
「リピーターはあんまりいないからまた来るって言ってくれるのはちょびっと嬉しいな。ハズレでも喜んでくれたし、いい奴かもしれん」
「人殺そうとしてましたけどね……」
「俺だってバレないように能力で殺しているからなぁ。正直死ぬべき人間は一定数存在すると思ってるし彼女を止める気はないよ」
「あー、廻神さんそういうスタンスですもんね」
「とりあえずもう次だ。呼ぶぞ」
「えっ、珍しく忙しい雰囲気出てますね」
驚くみうを無視して指パッチンをする。
次の客は二十代前半の男性。
まーた二十代前半かよ。俺が言うのもなんだけど百万円ってそんな簡単に用意出来ないと思うんだが。
男は周りを見回りながら驚いた様子だ。
「ほ、本当に実在したんだな! 良かった!」
「ようこそスキルショップへ。どんな能力をお望みかな?」
「逃げる為の能力が欲しいんだ! 瞬間移動移動でもいいし、なんなら相手の位置が分かるとかの能力でもいい!」
「なるほど。じゃあ大当たりは瞬間移動にしておきましょう。この箱に入ったおはじきから好きなのを選んでください」
「どれにすればいいんだ……絶対に死にたくない……」
男は震えながら箱を見つめる。
俺は少しだけ気になって男の記憶を覗きこむと、見覚えのある顔が記憶に映りこむ。
さっきの女性の関係者だわこいつ。
何したらあんなに恨まれるんだよと思いながら記憶を探る。
──不倫かぁ……。
「なぁ! 当たりを教えてくれよ! 俺殺されそうなんだよ!!」
「無理ですね。早く選んでください。次の客もそろそろ来るんで」
「はぁ!? 俺だって客だぞ!! そんな事言うなら一生選ばないでここに居座ってやる!!」
「失礼ながら選ばないのであれば客ではありませんので、お金を返してから強制的に帰らせますよ」
「ま、まってくれ!! わかったから! 選ぶから!」
男はおはじきの一つを選ぶ。
「はい。《触れた物の錆を落とすスキル》」
「そ、そんな……」
「まあ当たりが出るとは限りませんからね。今回は残念な結果でしたが、次は頑張って下さい」
「うわああああああああ」
男は発狂しながら周りにあるものを吹き飛ばし、みうに襲いかかろうとする。
「おっと」
みうは反射的に能力を発動させ、相手の男は気絶する。
「やっちゃった」
「まあいいんじゃないか? むしろこいつにとってはプラスかもしれん」
みうは《相手の死ぬ未来を変えるスキル》という名前だけ聞けばかっこいいレア能力を持っている。
効果は、相手に死ぬ直前の出来事を追体験させる事で未来を強引に変えるという特殊なもの。
一度能力が発動すれば相手は気絶し、未来が変わる事が確定するまで永遠に死ぬ直前の出来事を追体験させる。
しかし、既に死ぬ直前でどうやっても未来が変わらない場合は、死ぬか能力を打ち消すまで永遠に追体験を繰り返すことになるので相手によってはメンタルを削る事も可能だ。
ついでにこいつの未来は少しだけ変わる様だ。結果はあまり変わらないが。
「どうします? この人」
「もう次の客が来るから強制転移で元居た場所に戻すよ。こいつの未来がどう変わろうと、この世界には全く影響はないからね」
「結構容赦ないですねー」
「みうを襲おうとした奴に優しくする理由がないよ」
「それもそうですね」
指パッチンで元居た場所に帰す。
「さーて、今日ラストの客を呼ぶぞ」
「はいはい」
最後の客は、十代の女性。
十代で百万円用意するって何者だよ。
「ようこそスキルショップへ。どんな能力をお求めですか?」
「私、世界を征服したいの。だから因果系の凄い能力が欲しい」
またやべえ奴だった。
しかしこの時の俺は分かっていなかった。この女性が本当にやべえ奴だと言うことを……
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