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スキルショップの観測者(オブザーバー)  作者: この物語はフィクションです
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第1話 《過去の自分にメッセージを送るスキル》

 俺の名前は廻神永司えがみえいじ。このスキルショップの店長だ。

 三年前、人類の三割が特別な能力に目覚めたこの世界で、かなり需要のある《能力を付与するスキル》を持っている俺は、暇潰しの為にこの店を開いた。



「掃除終わっちゃいましたよー」



 こいつの名前は桂場月夜(かつらばつくよ)。黒髪ショートの現役女子高生。

 俺の経営しているスキルショップで、土日限定の看板娘として採用した。



「おつかれ。ジュースでも飲むか?」


「マンゴージュースでおねがいしまーす」



 俺はテーブルの下の紙コップを取り出し、空間移動で自宅の冷蔵庫から市販のマンゴージュースを持ってくる。

 複数の能力を持っているお陰で日常生活は全く不便がない。



「ほれ、マンゴージュース」


「やったー」



 注がれたマンゴージュースをぐびぐびと飲み、ご満悦の月夜。

 その表情を見ていると不思議と幸せになってくる。



「十分後に一人目が来るから身だしなみちゃんとしとけよー」


「了解!」



 空の紙コップをゴミ箱に捨て、お客さんが来る準備を整える。



「今日は何を使うんですか?」


「トランプの気分だな」


「じゃあこれですね」



 棚から非売品のトランプのセットを複数取り出す月夜。

 俺はそれらを手にとってJOKER以外のカードにランダムな能力を付与する。



「よし、今日はこんなもんでいいな」



 基本的にトランプを使う時には、JOKER以外のカードは当たりスキル四割、ハズレスキル六割、JOKERにはお客さんが要望する能力を付与するのが俺のやり方だ。

 一回につき百万円。当たりスキルには因果系の強力な能力も入っていたりするが、その分ハズレスキルには《靴紐がほどけないスキル》などのゴミ能力も入っている。


 あとはお客さんの要望次第で全体的な能力の方向性を決めたりもする。

 例えば当たりを全て犯罪系スキルにしたいという客が居れば、当たり三割、ハズレ七割で当たりを全て犯罪系スキルにしてあげたりとサービスは手厚い。

 もちろん使う場合は完全に自己責任。

 それでも犯罪系スキルはかなり人気で、洗脳や透明化を使って性犯罪を起こそうとする人は結構多いと思う。

 女子高生の月夜には教育上よろしくないので犯罪系スキルを売るのは平日限定にしている。



「それじゃあ本日一人目を招き入れようか」



 俺は指パッチンをして一人目の客を瞬間移動でテーブルの前に呼び寄せる。



「!?」



 四十代程のおじさんが驚きながら辺りを見回す。

 まあ、回りは黒いカーテンで覆われていてなにもないけどな。



「ようこそ。スキルショップへ」


「噂は本当だったのか!」



 俺の店はネットの噂という形で広めた。

『百万円以上を手にもって、自販機の前でスキルショップへ行きたいと強く願う。さすれば道は開かれるだろう』

 こんな感じの胡散臭い噂でも信じる人は信じる。

 そんで数人に能力を渡せば、少しずつ信憑性が増していき、口コミで信じる人も増えていくって寸法よ。


 警察のお世話になりたくないのでこんな回りくどいやり方をしたが、我ながら正解だったと思う。



「さて、あなたはどんな能力をお望みですか?」


「妻を……助けたいんだ!! 妻はもう既に癌の末期なんだ。病院では手の施しようがないと言われてて、もう能力に頼るしかないんだ!!」


「なるほど。うちの能力の販売の仕方はガチャ形式なんだけど、あんたはハズレを引いたらどうするつもりなんだ?」



 人の死が関係していると知ると、不思議と口調が崩れる。

 あとで改善せねば。



「その時は……妻と一緒に死ぬしかない……」


「一応俺の知り合いにどんな病気も治せる能力持ちがいる。一千万円あるならそっちで治して貰えるように頼むけどどうする?」


「そんな大金はない。百万円だってギリギリなんだ……」


「そうか。なら、あんたの運で奥さんの命を助けてみせな」



 緑色のトランプのセットをテーブルの前に広げる。



「えっと……どうすれば?」


「一枚選ぶだけだ。JOKERなら《どんな病気も治せるスキル》、マーク関係なしに、JACKからKING、もしくはAなら状況を打破出来る当たりの能力だ。それ以外ならハズレ能力。百万円持ってくる度に挑戦させてやるからとりあえず選びな」


「わかり……ました……」



 男は迷いながらも直感で一枚のカードを選ぶ。


 選ばれたカードは……【スペードのA】


 カードが確認されると同時に、男性の目が一瞬淡く光る。

 これが能力を付与された証だ。



「これって……!!」


「当たりの能力。《過去の自分にメッセージを送るスキル》」


「えっと……?」



 当たりが出たので仕事モードの口調に戻る。



「過去の自分に、『妻が癌になるから病院へ連れていけ』みたいにメッセージを送れる能力です。癌なら早期発見でなんとかなるでしょう」


「妻を助けられるのか……!?」


「あくまでも頭の中にメッセージを飛ばすだけなのでメッセージが届いても信用せずに病院へつれていかなかった場合はどうしようもありませんね。あと過去の改変は世界を分岐させるので、あなたが能力を使ってもBADENDの世界線が存在するという事を忘れないようにしてください」


「難しい事はよく分からん!! とにかく妻を助けるんだ!!」


「……なら、三年前のあなたに『奥さんを癌検診に連れていけ』ってメッセージを送ってください。一応紙とペンを用意したのでメッセージを書いてから三年前の自分に送るといいでしょう」



 男は言われた通りに丁寧な文字でメッセージを書く。



「これでいいのか!?」


「はい。それを折り畳んで額にくっつけて、三年前に飛ばすように念じてください」


「わかった!!」



 男は念じた瞬間に姿を消した。



「わわ、消えちゃった!」



 月夜が驚きながら俺の肩を掴む。



「とりあえずこれでおっけーだな」


「男の人はどうなっちゃったんですか?」


「メッセージが送られた世界線に行ったよ」


「よく分からないです!」


「基本的に過去を改変する能力が発動すると世界そのものが増えるんだよ。説明は難しいけど、あの男は過去にメッセージが送られたもう一つの世界にとんだって感じだな。嫌な言い方をすると、この世界の癌になった奥さんは彼に見守られることもなく死ぬ」


「えっ……」



説明を聞いた途端に月夜の表情が暗くなる。



「そんな事実を知らない彼と改変された世界の奥さんは癌に苦しむ事のない生活を送れる。誰も不幸にならない方法はJOKERを引くしか無かったのさ」


「そんなの酷すぎますよ……」


「彼が選んだ道だ」


「……廻神さんなら、癌になった奥さんも助けられるんじゃないですか?」



 月夜が俺の顔を見るように正面から話しかけてきたのに対し、俺は目をそらしながら質問に答える。



「助けられるよ。けど助けるつもりはない。彼は百万円を出してスキルを買ったんだ。それ以上の事をするつもりはない」


「なんで助けられるのに助けないんですか? そんな力があれば誰だって救えるでしょ!?」


「誰だって救えるから誰も救わないんだよ。誰かを救ったら、他の誰かも救わなくちゃいけない。一生ボランティア生活なんてするつもりはないよ」


「私は……廻神さんに救われたよ……? 廻神さんが私の中の能力を消してくれたから、今こうして生きてられるんだから……」



 月夜は目に涙を浮かべながら見つめてくる。

 そんな顔をされたら何もせずにはいられない。



「……わかったよ。一応当たりを引いてたからな。アフターサービスで癌は治しておくよ」


「廻神さん……!! 一生ついていきます!!」



 例え奥さんの癌が治っても、この世界にさっきの男性が戻ることはない。

──残酷な事には代わりないんだよなぁ。



「とりあえず、次の客が来るまでトランプでもして遊ぼうか。俺に勝てたらハズレ能力くらいならあげちゃうぜ」


「今まで勝てたことないけど、次は勝ちますからね!」



 スキルショップは今日も営業中。

 これからもこんな感じで、まったりしながら毎日を過ごしていきたい。





 例え俺の役目が、世界が滅びる事を観測する事だとしても。

数ある中からこの作品をお読みいただきありがとうございます。


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