第一章[始まりの音色(トーン)]#6
『ほんっっとーにごめん!!!』
と、電話越しに必死に謝る先輩の声。
今日はセッションするため学校が終わり次第、合流する予定が先輩が全く現れず心配になり電話をしたらこの状況だ。
どうやら休み時間に屋上で練習をしてて気づいたら放課後だったらしく担任からの説教と雑用を押し付けられたらしい。
『もう少しかかりそうだから先に中入って練習しててくれる?』
「はぁ…。わかった」
そう言って電話を切った。
俺も人のことは言えねぇがあの人やばすぎるだろ。
そんなことを考えながら中に入ろうと歩き出した時、近くで大声が聞こえた。
「調子乗んなつってんだろ!」
「ん?」
なんだ?揉め事か?
「なにマジになってんの?」
あいつは…確か前にマスターに半ば強制的にライブ見せられた時に演奏してたバンドの『ベース』。
メンバーと揉めてるのか?
「バンドやめたいとか自分勝手にもほどがあるだろ!何様だよ…自分ばかりいい思いして。」
「は?なんのこと?」
「とぼけてんじゃねーよ。知ってんだぜ?お前が裏でファン食いまくってるの」
「この卑怯者!」
「はぁ……怖い怖い。自分納得させるためにそんな作り話まででっち上げるとか…。ダサッ」
「んだと…!」
『ベース』の男の挑発に3人の男たちは一斉に殴り出した。
湊は面倒くさそうに一つため息をついて間に入った。
「やめろ。3対1で取り囲んで、卑怯者はどっちだよ」
『ベース』の男は不思議そうにこちらを見ている。
「なんだテメェ?部外者はすっこんでろ」
「こいつ知ってるぞ。湊だ。俺のダチが少しの間バンド組んでたんだ。」
「湊って……もしかして、ffにあの痛いメンバー募集貼ってる奴か。」
痛くて悪かったな。どうせお前らみたいな奴には一生分かんねーだろうけど。
「上を目指すヤツ募集とか…意識高い系には用はねぇんだよ。すっこんでろ。」
「上を……?」
『ベース』の男がボソッと何かを呟いたが今は考えてる余裕はない。
「カンケーねぇヤツはさっさとどけ!」
一人の男がこちらに向かってきた。
「オラッ!」
条件反射か或いは本能的にか湊は男を殴った。
「うぐっ…!テメェ、殴りやがったな!」
「ハエが飛んでたら叩くだろう。それと同じだよテメェらなんか。」
「なんだと…!」
「目障りなんだよ」
「テメェ…!!」
湊の挑発に男たちの怒りは既に頂点に達していた。
「おっと」
「うがっ!お前…!」
それまでずっと見ていた『ベース』の男も加わった。
「敵の敵は味方ってね。仲間作って戦ったほうが得策っしょ?」
「うっぜぇな…だったらまとめてやってやるよ!!」
「来てみろよ、クソ共が」
こうして3対1ではなく3対2の殴り合いが始まった――。
しばらくして――。
2人はボコボコにされたが結局、男たちは逃げて行った。
逃げるぐらいなら最初からやるなっつーの…。
「いってー…。そっちは大丈夫か?」
「なんとか。そっちは?」
「問題ねぇ……いてっ」
「ははっムリしちゃって」
そんなことを笑いながら話してて湊はふとこんな事を口にした――。
「………なぁ」
「なに?」
「バンドやろうぜ」
一瞬驚いた顔をしたが直ぐに表情を変え、彼は言った。
「いいよ」
これが『神楽』との出会いだ――。
上への道がまた一歩近づいた気がする――。
程なくして先輩が到着した。
が、俺たちがボロボロになっているのを見て慌てた様子で近づいてきた。
「どうしたのその姿!?なに?2人で喧嘩でもしたの!?」
あながち間違いではないけど多分この人は俺と神楽が喧嘩したのだと思っているのだろう。
「ちげぇよ。こいつがメンバー…いや、元メンバーと揉めてたからそこに俺が入っただけ」
「へ?じゃあ2人で喧嘩してたんじゃないの?」
「俺が揉めてたのを湊が助けてくれたんですよ」
神楽の一言を聞いてようやく理解したのか先輩は「よかった」と胸をなでおろした。
一先ず、事が解決した俺達は中に入った。
「そういえばさっき、湊君は元メンバーと揉めてたって言ってたけど…」
「あぁ、そのことなんだけど」
さっきまでの出来事を改めて先輩に話しその流れで神楽をメンバーに入れたと伝えた。
「えええぇ!!!??」
当然この反応だ。
「急すぎない?」
「メンバー集めるのに急もクソもあるかよ」
「だってさっき出会ったんじゃ…」
「こいつのライブは一度見たことがある。実力もそれほど悪くねぇよ」
湊君が言うなら間違いはないのだろう。
でも――。
「神楽君はいいの?」
「ちょっと面白そうだったのでいいかなと。」
冗談っぽく笑って答えた彼。
けれどすぐに真剣な顔で「それに――。」と話をつづけた。
「湊が上を目指したいって想いに惹かれたんすよね」
「――!」
その言葉に全てが繋がった気がした。