第一章[始まりの音色(トーン)]#5
そこに居たのは湊くんだった。
「おや、奇遇だねぇ。てっきりffかと思ってたけど」
「その帰り。つーかあんたこそこんなところで何してんだよ。」
色々考え事をしてる間に辺りはすっかり夜の街並み。
「たまには息抜きも必要かなと思ってね、散歩だよ」
「だからってこんな時間に一人で出歩くなよ。」
「行くぞ」と湊くんは私の腕を掴んでそのまま歩き出した。
「ちょいちょいどこ行くのー?」
「どこって…決まってんだろ。あんたを送るんだよ」
この子はなんでこんなに私に優しいんだろうか。
それともこれが普通なのかな?
「湊君って優しんだね」
「普通だろ。この時間に女が一人で出歩いてる方がどうかしてるだろ」
と、半ば呆れながら湊君は言う。
「あはは…。確かにその通りなんだけどそんなストレートに言われると私もさすがに傷ついちゃう」
なんて冗談を言いつつ彼に本心を悟られないよう誤魔化した。
それから彼に手を引かれるまま自宅に到着。
「わざわざありがとう湊君。気をつけて帰るんだぞ」
「あんたに言われたくねぇよ」
「はいはい」と軽く流し踵を返した。
――。
あの人の背中はどこか寂しそうに見えた。
手を握った時も少し震えていたように感じた。
あの時なぜ、一人で街を眺めてたのか。
なぜ羨ましそうでどこか寂しい眼で街の人見てたのか。
聞きたかった。
けど――。
聞けなかった。