第一章[始まりの音色(トーン)]#1
始まりは私が高校1年の春。
私は小さい頃に見たあのライブの影響で毎日のようにギターを弾いて歌っていた。
しかし、現実というものはそう甘いものではなかった。
技術に関しては自分で言うのもなんだが申し分ないと思ってる。けど、問題はバンドを組むということだ。
元々勉強や運動、音楽に関してもそれなりに出来ることもあり周囲からは『近寄りがたい』人間らしく他の生徒やライブハウスでも声を掛けようとすると離れていく。なので学校では屋上で一人演奏しライブハウスでも一人で演奏してる。
なんていうか才能に恵まれても人とやっていけないと本末転倒だなと日々思うようになった。
けどとある少年との出会いで私の世界が180度変わった。
その『少年』の名は湊
私の一つ下で私と同じくギターを弾いてる男の子。ギターのテクニックも中学生とは思えないぐらいの凄腕。私の通うライブハウス《ff》でも噂になっているらしい。私もほんの少しだが噂を耳にしたことがある。
そんな彼に今、現在進行形でバンド勧誘の猛アタックを受けている最中だ。
「バンド?私と!?」
嬉しさより驚きの方が上回ってしまった。
これが人間関係をミスってしまった結果か…我ながら恥ずかしい。
「そ、あんたと」
と言う彼の目は直視するとやられるのではというくらい真剣かつ輝いていた。
「なんで?」
正直、どうしてこんなに私に執着するのか未だに理解できない。
そもそも彼はなぜ私を誘ったのだろうか。
「組みたいから」
理由になってない。
むしろ組むのに理由を求む自分もどうかしてる。
「あんたとならやれそうだと思ったから声掛けただけだ」
「はぁ…?」
この子はどうしてこんなにも私を求むのか…。
疑問はたくさんある。けどここで断ったら次はないかもしれない。
(せっかくの勧誘…また振出しに戻るのはごめんだし…)
なにより私の人生が危うくなる。
「うん、いいよ」
もしかしたら―。
「ほんとか!」
あの伝説を―。
「てか先輩にはちゃんと敬語使いなよガキ」
「ガキじゃねぇ…!湊だ!」
「あーハイハイ」
超えられるかもしれない―。
―――――――――
そんなこんなで湊君とバンド結成に向けて色々話して解散したわけだが…。
「まさか自分より下の子から勧誘をされるとは…。」
バンド結成出来たことには安堵するが今後、メンバーが増えた時の為にそろそろこの『近寄りがたい』雰囲気をどうにかしなくては…。
私は今一度現実の厳しさを噛み締めながら帰路に就くのだった。
「響希は音色を見つけられるかな」