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序章

この度はこの作品を読みに来てくださりありがとうございます!



 ついにやり遂げた。


 ここまで来るのに沢山の出会いと別れ、喜びと悲しみ、幸福と憎悪を経験してきた。

 仲間が増え、信頼できる人達も増え、俺はようやく今、魔王を打ち倒した。


 『・・・私の・・・負けだ。』


 魔王は極悪非道の魔族の頂点に君臨して今迄人間達を襲い、恐怖と苦しみを世の中に与えて来た。

 俺は、そんな世界を魔王から救うべく必死に鍛え、技を磨き修羅場を潜り抜けて来た。


 『勇者よ・・最後に・・いいか?』


 全身黒い靄に包まれた魔王が足元から少しずつ消えていく。

 それは魔王の最後を意味しているのは見て分かる。


 「なんだ?」


 俺はそんな魔王を見てどこか悲しそうで、そして嬉しそうにも見えた。

 本来、俺達人間を追い詰めた魔族の王の話なんて聞く耳を持とうとは思いもしないが、この時の俺は魔王に何処か感情移入して最後の言葉を聞くことにした。


 魔王には顔がない。

 それは黒い靄に包まれているからだ。

 しかし、目、鼻、口と言った輪郭はあり表情は読み取れる。

 その時の魔王の最後の表情は【哀れ】といった表情だった。

 口は笑っているのにも関わらず、目からは悲しそうな感覚が見てとれる。

 

 『お前は・・・どちらを・・・選ぶ?』


 「・・・・は?」


 その言葉を最後に、魔王は霧となって消えていった。


 ◆◆◆


 信頼できる仲間達と魔王を打ち破り、人間が住む国で1番大きく広いと言われる大国で俺達は英雄と呼ばれ祝福された。


 「ありがとう勇者様!」 「平和をありがとう! 勇者様!」 「キャー! 勇者様!!」


 俺達が道を通れば沢山の人から声を掛けられ、感謝の言葉が止むことはなかった。

 仲間達はそれに応えるように手を振り、笑顔をむけた。


 「おいお~い! どうしたよ勇者様~?」


 俺の仲間の1人が体にのっかるように抱き着いてきた。


 「これだけの人が俺達を祝福してくれてんだからもっと明るく行こうぜ明るくよ!!」


 「あ、あぁ。 そうだな。」


 他の仲間達もすでにお酒を飲んだりして周りと盛り上がっている。

 皆楽しそうで平和な光景が目の前に広がる。

 だけど、俺は心の何処かで違和感を感じ続けていた。


 本当に、魔王を打ち滅ぼす事が正解だったのか・・と。


 俺達が今向かってるのはこの大国の城。

 そしてそこにいる現国王様に合う事が目的だ。。

 大きな城に招待され、大きな扉まで案内されてはいると、国王様は笑顔を向けて俺達を出向いた。


 「おぉ! 勇者とその仲間の諸君! よくあの極悪な魔王を打ち倒し、我々人間に平和の日常を取り戻してくれた! 君達は我々の恩人だ! 今日は是非歓迎させてくれ!」


 そういうと国王様は手をパンパンッと叩いて、召使いの人達が豪華な料理と酒を出してくれた。

 そこから5分も経たない内に宴会が始まりそれはもうドンチャン騒ぎが始まった。



 俺もノリが遅れたが、一緒に飲み食いしようと輪の中に入ろうとした時、国王様が1人で満面な笑顔で近づいて来て俺の手を強く握った。


 「勇者よ。 本当によくやってくれた。 我々は本当に感謝している!」


 国王様の目から一粒の涙が流れた。


 「いいえ。 俺は当たり前の事をしたまでです。 人が苦しみ悲しんでいるこの世界をほったらかしにはできなかった。 それに俺には沢山の仲間がいたから成し遂げたる事が出来た。 それだけです。」


 正直ちょっとクサイ言葉を言っているとは自覚があったが、俺はこの言葉のすべてが本心からの言葉だ。


 「おぉ! よく言ってくれた! 流石は勇者様!! 皆の者! この賢く勇敢な勇者に盛大な拍手を!!」


 広い部屋で盛大な拍手の音が鳴り広がる。

 俺は少し照れながらも周りの皆に見えるように手を振って応えようとしたその時だった。




 ―――――――ザクッ




 背中から激痛が走った。

 次に焼かれているほどの熱さが伝わり呼吸が出来なくなるのがわかった。


 (な・・・んだ?)


 俺は立っている事が出来なくなりその場に倒れ込んでしまった。

 何とか顔だけを横に向けて視線を上に向ける。

 

 (一体何が起きた? 刺された? 背中を? 誰が?)


 理解できない状況を混乱している頭で必死に考えていると、1つ気が付いた。


 拍手が続いているのだ。

 誰も拍手を止めていない。

 それどころかさっきよりも拍手の音は大きくなっている。


 「本当に、感謝しているよ。 勇者様。」


 俺の視界に国王様の顔を映り込んだ。

 その表情はさっきと変わらない満面の笑みがあり、落ち着いていた。


 「君に助けられた人間はいないと言えるほどの事を君は成し遂げた。 更には誰も倒せないと思っていた魔王まで打ち倒した。 これは本当にすごいことだ。 君は世界を救ったのだ!」


 腹部辺りから冷たい感触が流れてくる。

 血だ。

 俺の血が流れている。

 だが、国王様はその流れ出ている血を踏みつけた。


 「君は人間の救世主だ。 これから君の物語じんせいは後世に語り継がれ、君を知らない人間は永遠にいなくなるだろう。」


 国王様は涙を流さないようにと思わせる形で天井を真っ直ぐ見ながら俺に語りかけている。

 その間、必死に回復魔法を試みたが何故か魔法が上手く発動できない。


 「しかし勇者よ・・・よく考えてみてくれ。」


 国王様からは満面の笑みが無くなり、俺を見下ろす。

 

 「魔王という強大な力を持つ化け物を倒した人間が、いつ私達みたいな力無き弱者に刃を向くか分からないだろう?」


 「な・・にを・・・いって!?」


 回復魔法がダメなら身体強化魔法で立ち上がろうとしてもやはり魔法は発動しなかった。

 

 「おっと、無理矢理に魔法を発動させようとしても無駄だ。 君の背中に刺したナイフは君を殺す為だけに用意した特注の魔道具なんだ。 これは君の事をよく知っている彼らに協力してもらったよ。」


 「!?」


 もうほとんど力が入らない体を無理矢理に王様と反対側にいた仲間達に顔を向ける。

 仲間達は真顔で拍手をしながら俺と目を合わせた。

 その中で、仲間の一人の男が前にでた。

 


 「悪いな。 俺達ももしお前が敵になったらと思うと怖くて仕方がないんだよ。 だから・・諦めて俺達の為に死んでくれ。 今迄ありがとな。」


 その男が言った感謝の気持ちが始まりのように残りの仲間達も同じように感謝の気持ちを言ってきた。


 「おぉ! なんと素晴らしい絆なのだろう! 君達は勇者が世界の為に死ぬという選択をする事を疑わなかった! 素晴らしい! 本当に素晴らしい! 皆の者! もう1度、世界の為に自分の命を授ける勇者に拍手を!!」


 ワァァァァァ―――・・・


 今日一番といっていい程の拍手が喝采され、人の雄叫びが聞こえた。

 そこには人の笑顔があり、幸福に満ちた景色が広がる。

 俺が求めた世界。

 俺が求めた景色がそこにあった。

 だけど・・何故なのだろう。


 俺の心は・・・まったく幸福に満ちていなかった。


 目から涙が流れ自分で止める事は出来ず、体は恐怖で震え止まる事はなかった。


 『お前は・・・どちらを・・・選ぶ?』


 その時、何故かあの時の魔王の最後の言葉が頭によぎった。


 (選ぶ?)


 『そう。 お前はどちらを選ぶ?』


 (何を?)


 『生と死をだ。 お前には絶対絶命なピンチから逆転できる力がある。 今のお前にはまだ、選ぶ権利がある。』


 (選ぶ・・・権利・・・)


 恐らくこの会話は俺の妄想なのだろう。

 視界はもうほとんど周りが見えていないというのに、あの時の黒い靄である魔王の姿がハッキリと見えて来た。


 『さぁ選べ。 人の為の【死】か。 それともお前を裏切った人間達への復讐の為の【生】か。』 


 魔王は右手を【死】、左手を【生】と表すように手を差し伸べた。

 まるで、どちらかを選んで手を差し伸べろと言わんばかりに。



 (俺は・・・)


 朦朧とする意識の中、俺は魔王が差し伸べた片方の手に、自分の手を差し伸べた。


 「さぁ! 皆の者! 我らが英雄! 勇者様に感謝を!!」




 

 

 ―――――――ザクッ





 勇者と魔王の物語はこれで終幕した。


 魔王の恐怖は後世に語り継がれ、誰もが恐れる物語の悪役となって未来永劫、誰も奴を忘れる人間はいないだろう。

 勇者の英断は後世に語り継がれ、誰もが憧れる物語の主役となって未来永劫、誰も彼を忘れる人間はいないだろう。


 この物語じんせいは沢山の人をハッピーエンドにする大傑作ストーリーとなる。


 だけど、誰も本当の物語じんせいを知ることは未来永劫ないだろう。

 1人の犠牲で救われた世界を。

 1人の人生が救われなかった物語を。






 


最後まで読んで頂きありがとうございます!

思いついたストーリーを書きましたが、時間があれば続きを書いていきますのでどうか次回もよろしくお願い致します。

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