出会い
決意を決めた俺は、さっそく彼女を作る方法を考えた。
が、思いつくわけが無かった。
なぜならここ数年、まともに女性と接したことがない。幼稚園や、小学校に通ってた時は普通に話せてたんだけどなあ。
中学校に通い始めてから、途端に女が怖くなったのを、いまでも鮮明に覚えている。
思春期というやつだろうか?わからんが。
スマホを弄り、ネット検索をかけてみる。
「彼女 作り方」で検索だ。
バッチリだ。そこにはたくさんの女性攻略法が広がっていた。
俺は片っ端から調べまくった。
視界の端で、誰かが立ち、席が空いた。
そう、俺は今まで立っていたのだ。足に意識を向けると、もうパンパンになっていた。痛い。
即座に空いた席に座った。
開放感が足に広がる。
すると、右横の人が席を立った。急ぐ必要はなかったか。と、1人心の中で恥ずかしがった。
空いた右横の席に、誰か座った。
雰囲気でわかるが、多分女性だ。
今朝みたいなことが起きないかなあと自分でもわかるような気持ちの悪い期待をしていると、気づいた。
目の端に移る、服の装飾、髪の色、長さ、靴、
どれをとっても、今朝の女の子と変わりなかった。
それを記憶している自分が少し悲しかった。
ただ、今真横を向いて顔を確認する勇気はないので、
今朝の女の子かどうかは分からないが。
いや、そんなことより今は彼女の作り方を、ーーー
ぅおっとお、まただ。
恐らく今朝の女の子であろう女性が、俺の肩に頭を寄せている。
寝ている。一瞬でわかった。今朝のよりも寝息が大きい。
俺は恐る恐る、ゆっくりと顔と目を右に向けた。
今朝の女の子だった。
彼女は性懲りも無く、俺の肩を枕に寝ている。
こんな偶然ってあるのか?とか考えていたが、
この女の子、
よく見ると、とっても可愛い。
なんといっていいか分からないが、とても可愛い。
雑誌のモデルや、SNSとかで加工された自撮り写真を上げている女よりも、ここに実在する、化粧も何もしてないようなこの女の子の方が可愛い。
気づけば俺は、じっと彼女の顔を見つめていた。
周りにどう思われようが、どうでもよかった。
目的地に到着した。俺の自宅のある地域の駅だ。
道中、結構な揺れはあったが、彼女はとうとう起きなかった。
プシューっとドアが開く。
俺は降りようとした。席を立とうと。
しかし、そうすると彼女が起きてしまう。この時間が終わってしまう。この肩の温もりが消えてしまう。
自分でそんな貴重な時間を終わらせるのは、如何なものか?すごくもったいないんじゃないのか?
逡巡の末、
プシューっとドアが閉じる。
俺は彼女が起きるまで、もしくは彼女が降りる駅まで肩を貸してやろう(上から目線で)と思った。
大丈夫さ。明日は土日だ。親には電話でもしとこう。
俺はスマホをスリープモードにして、
目を閉じた。
嘘だろ?
なんと終点まで彼女は起きなかった。
この地域に住んでるのか?
駅員が
「あの、もう終点なんですけれど」
と、俺に言ってきた。
一瞬、なぜ俺に?と思ったが、そうか、
今朝に俺が考えたように、この状況は、
周りから見れば彼氏彼女の関係なのだ。きっと。
だから駅員は俺が彼女の彼氏に見えて、
彼女さんを起こしてやってください
みたいな意味で、ああいったに違いない。
くくくく、と笑いが漏れた。気持ち悪いなあ。
でも、嬉しかった。
さて、どうするか。
彼女をどうやって起こすか。
正直、女の人と話すのはとても怖い。
でも、これはチャンスなのだ。
意地でも逃すわけには行かないのだ。
俺は覚悟を決めた。よし、
肩を叩く?揺らす?声をかける?それともーーー
「んん、、、」
色々考えているうちに、彼女が起きた。
もったいなかったなあ。女の子とコミュニケーションをとるチャンスだと思ったのに。
心の中で後悔しながらも、このあとの行動を考えた。
彼女に恩を着せるか?何事も無かったかのように立ち去るか?それともーーー
「ああっ!ごめんなさいっ!」
ビクーっとした。体が少し跳ねた。
彼女が急に大声を出した。
「え?ど、どうしたの、、、?」
キョドった。盛大にキョドった。
自分でもわかるくらいに。
彼女がいう。
「肩に、その、私の、、、」
そう言われ、肩を見る。
すると、上着が肩から二の腕の初め辺りまでが濡れていた。
ヨダレか。彼女はオロオロしている。
安心させてあげたいけど、言葉がスッと出てこない。
唯一浮かんできたセリフは、
キミみたいな可愛い子のヨダレなんて、ジュースよジュース!全然気にならないよ!
こんなこと言えるかぁ!
でもこれが本音に近い。
そんな本音を胸にしまい込み、
「ああ、いいよ。気にしなくて。全然大丈夫。」
そう言ってやった。どうだ?フツーだろ?
すると彼女が、
「ごめんなさい!あの、私、今朝もあなたに寄りかかって寝てましたよね、、、?」
なんだ、分かってたのか。
とりあえず、なんともない返事をする。
「ああ、そうだったの?気づかなかったよ」
どうだ?フツーだろ?俺たちは会話を続ける。
「あ、あの、いつもこの電車に乗ってるんですか?」
「うんそうだよ。朝も今朝の電車に乗るし」
「あっ、そうなんですか、じゃ、じゃあ、あの」
「ん?」
「クリーニングするんで、その服貸してくれますか?」
「ああ、いいって気にしなくても」
「いえそんな、私が悪いのに」
「大丈夫だって。そんなことよりほら、終点だよ。降りようよ」
「あっ、はい」
俺たちは駅のホームに足を着ける。
そして、歩き出す。
どこに行くのか、俺には分からない。
だって初めて来た土地だもんな。
俺は彼女にひたすらついて行った。
「あの、ここら辺に住んでいるんですか?」
「ん、いや、住んでないよ。うっかり寝過ごしちゃってさ」
適当な嘘を吐く。
「あ、そうなんですか。私ここに住んでるので、寝過ごすってことがないんですよね。」
「終点だもんね」
「そうなんです」
「クックックッ」
「うふふ」
ああ、なんていい時間なんだ。
俺の笑い方だけが問題だが。
それ以外は全て素晴らしい。
「じゃあ、またあの電車に乗って帰るんですか?」
「あー、どうするかな。いや、めんどくさいし、今日はそこら辺のネットカフェにでも泊まるよ」
「あっ、いや」
「初めてここきたけど、まあこのご時世スマホがあるからね。調べれば大丈夫でしょ」
「いや、あの」
「ん?」
「ここら辺、冗談抜きで、何も無いですよ?」
「え?」
「ネットカフェとか、ゲームセンターとか、カラオケとか、娯楽施設は何も無いんです。あるのは、小さいスーパーくらいで。」
「えーッ、まじかぁ!うーんどうしようかなぁ」
なーんて、な。
俺は心の中で密かに期待していた。いや、なぜか確信していた。
初めて来た、なんてのはウソだし、
俺はこの地域に娯楽施設が何も無いのなんて、既に知っているんだぜ。
知らないフリをしていたのさ。
なんでかって?分かるだろ?
なし崩し的にってやつさ。
流れってやつだよ。
この地域のネットカフェに泊まる気満々でいる俺は、
この地域にネットカフェがないことを知り、絶望。
どうするか、悩むわけだ。
その脇には、電車で俺に寄り添い、眠りこけてヨダレを俺の服に垂らした女がいる。
罪悪感でいっぱいだろう。きっと。何かお詫びをしなきゃと考えているだろう。
泊まる場所に悩む俺。お詫びをしなきゃと焦る女の子。
決まってるよな?
きっと彼女は、
「あの、もし良かったら、うちに泊まってってください」
とかなんとか言うはずだ。
絶対言うはずだ。
それに俺は最初は戸惑い、しかし彼女の猛アタックにより、仕方なく彼女の家に向かう。
そしてその後、一夜をを彼女と共に過ごすのだ。
クックック、完璧だ。完璧な作戦だ。
さあ、言え!うちに来いと!
うちに泊まれと!
さあ!
「あの、もし良かったら、うちに泊まってってください」
キターーーー!!!
「あなたには、少しお話したいことがあるので」
、、、ん?
「こっちです。付いてきてください」
何だか様子がおかしいことに気づいたときには、
もう全てが遅かった。
いや、それよりもずっと前から異変は起きていたのだ。
今朝、彼女に寄りかかられてから、ずっと。
そして、これからも。