プロローグ3
俺は今、駅を出て、学校に向かっている。
授業が始まるまで、あと30分。
しかし駅から学校までは結構距離があるので、歩速を緩めることは出来ない。それに俺はまだ1年生。遅刻なんてしたら、目をつけられちまう。
そして、いつも俺は、通学路にある青果店の前で、あいつと出会う。そしてあいつは、いつも通り俺に話しかける。
「よーう日崎、今日もオタク全開だな」
「、、、よう柿原」
、、、こいつは柿原哲治。こういっちゃなんだが、俺の幼馴染だ。
んでもって俺と同じ学校に通う、同い年の生意気ヤローだ。
何が生意気って、俺のことをオタク呼ばわりしてきやがる。その度に俺は憤りを感じるわけだが。
じゃあ、お前はオタクじゃないのか?と。
お前だって野球が好きじゃないか。野球オタクじゃないか。人と違う漫画やアニメが好きなだけで、蔑まれるのはおかしくないか?と。しかし、
「オタクって、自分のことをオタク呼ばわりされるとキレるらしいな」
と、柿原に言われたことがきっかけで、いちいち口を出すのはやめるようにした。
だって恥ずかしいだろ?
たしかに俺はオタクだけど。二次元キャラクターにうつつを抜かしているけど。
「なあ日崎、課題終わった?あの文字のやつ」
「あー、まだ終わってねえ。学校いってパパっと終わらせるわ」
「俺もそうするかな。でも俺半分も終わってねえ」
「バカだろお前」
そんな会話が延々と続き、気づけば学校に着いていた。学校に入り、階段を上る。そして、
「じゃな」
「おう」
俺と柿原は別々のクラスなので、テキトーな別れの言葉を言い合う。そして、別れる。
授業が始まる。
俺はただ、ボーッと、教員に言われるがまま、シャーペンを走らせていた。
ーーー放課後、夕暮れ時。
俺と柿原は、柿原の家の近くの公園で、2人、タバコをふかしていた。
それはもう、ぷかぷかぷかぷかと。
未成年がタバコなんて、誰かに見られたら一大事だ。
特に学校の教員になんて見つかった日は最悪だ。
しかし、大丈夫なんだ。俺と柿原はそれを知っていた。俺たちは持っているんだ。
根拠の無い、謎の自信を。
「、、、なー日崎」
柿原が口を開く。
「、、、なんだよ?」
「あのよ、ちょっと相談なんだけどよ」
「なんだよ」
そう言って俺は、胸が少しだけキュッとした。
ほんの少しの可能性が、俺の胸を締め付ける。
ほんの少しの不安が、少しづつ大きくなる。
柿原はまさか、
俺、実は彼女ができた
とか言わないよな?それが俺の不安だ。
柿原と俺は人生で1度も彼女ができたことはない。
だから、仲間なのだ。同類なのだ。
しかし、そんなことを言われては、
どうなる?
俺は一人ぼっちになってしまう。それは嫌だ。
俺と同じ高さのやつが、いなくなるなんて嫌なんだ。
でも柿原は俺よりも遥かに顔がいい。可能性は十二分にある。
止めてくれ柿原、そんなこと言わないでくれ。
俺は心からそう思った。
柿原の口が動く。
「、、、俺さ」
心拍数が跳ね上がった。
止めてくれ。
「今日、担任の安辺にメチャクチャ怒られてさ。
お前はどうしてそんなにやる気がないんだー、ってさ」
ホッとした。心から。そして、相槌を打つ。
安堵の相槌を。
「おう。」
「でさ、そこでなんだけど、」
「おう。」
「俺、学校辞めようかなって」
「、、、は?」
「実は俺さ、この学校入りたかったわけじゃないんだよね。お前が行くって言うから、付いてきただけなんだ。」
「、、、、、、」
言葉が出なかった。安堵の相槌を打っていた数秒前は、完全に消え去った。
「俺、本当は、俳優になりたいんだ。」
恥ずかしそうに柿原は言う。
そんな柿原を俺は、心から憎んだ。
俺の気持ちも知らずに、俺を置いていくのか。
学校中退して別の道を目指すなんて、最高にカッコイイじゃないか!それこそ青春ってやつじゃないか!
俺の、俺たち若者の目指す青春ってのは、まさにそれなんだ!だからお前は行くのか!
俺の気持ちも知らずに!
「、、、そうか、お前俳優になりたいのか。」
そんな返ししか出来なかった。きっと心に決めているんだろう。相談という体で、俺に背中を押してもらいたかったんだろう。俺はそう考えた。
「うん、やめた方がいいかな?」
俺は、そんなこと言えない。
「いや、大丈夫。お前なら、できるよ。」
こんなことしか、言えない。
「、、、そうか、そうか!よーし!やってやるぜ!ありがとな日崎!お前に相談して良かった!よーし!やってやるぜ!」
「、、、頑張れよ!」
無責任に柿原の背中を押し、俺は帰路についた。
哀しみを引き連れて。