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37.惚れたもの負け

「朝陽さん、ちょっとこちらに来ていただけますか?」


 二階へ向かう紫乃たちを見届けると、乃々は朝陽の服をつまんで引っ張ってきた。テレビを見ている母に聞こえないような声量だったため、何も言わずに頷いて一緒にリビングを出る。


 乃々は、玄関前の廊下で立ち止まった。かと思えば急に詰め寄ってきて、すぐに壁際へと追いやられる。朝陽よりだいぶ下の目線から、彼女は真っ直ぐと純粋な目で見つめてきた。


「朝陽さん、本当にお姉ちゃんのことが好きなんですか?」

「えっ」

「お姉ちゃんは大変ですよ。純粋ですし、鈍感ですし。きっと苦労するかと思います」


 本気で朝陽のことを心配しているのか、乃々の声は真剣そのものだった。


「それに、ああ見えてすっごいワガママなところがあります。甘えん坊なんですよ」

「ああ、それは何となくわかるかも」


 前に、夜遅くにトイレへ付き添った時、ドアの前から絶対に離れないでとしつこく念を押されたことを思い出す。その後、珠樹が部活で花火を出来ないと知った時は、とても残念そうな表情を浮かべていた。


 あれはおそらく、珠樹と遊べないことを残念に思っていたのだと、朝陽はようやく気付く。二人きりだと、彩は紫乃に譲らなければいけないから。


 朝陽が紫乃の話をしようとすると、無理やり話題を変えようとしてきたこともあった。お祭りでは、ヨーヨーが釣りあげられなくて涙を流していた。


 振り返ってみると彩はとても子どもっぽくて、大人っぽい外見に似合わず可愛いなと朝陽は感じる。そういう意味では、彩と乃々は似ているのかもしれない。


「絶対に、鬱陶しいなって思いますよ。心が広い乃々でさえ、ああ鬱陶しいなぁって思う時があるんですから」

「鬱陶しいって思ったことは、今のところ一度もないかな」

「それは今のところですよ。仮にお付き合いを始めれば、朝陽さんは大変なことになります。乃々には分かるんです」


 それでも、乃々は彩のことが好きなのだ。朝陽はそれを知っている。姉のことが好きだからこそ、そこまで真剣になれるのだ。


「たぶん、この先鬱陶しいなって思う時があるかもしれないね。疲れるって思う時も、もしかしたらあるのかも」

「それなら、お姉ちゃんはオススメできません。朝陽さんは身を滅ぼします」

「それでも、僕は好きになっちゃったから」


 乃々は文字通り、呆れたように目を丸める。それがなんだかおかしくて、朝陽は笑みをこぼす。


「ほら、惚れたもの負けって言うじゃん。例えば鬱陶しいなと思ったとしても、好きになった時のことさえ忘れなければ、嫌いになんてならないと思うんだ。それに、人は欠点の一つや二つは持ってるものだし。そういうのを補える関係が、僕は素敵だと思うな」


 紫乃は世界の全てを美しく見ることが出来るが、自分に対しての評価が低いところがある。理由があり長い間部屋に引きこもっていたせいで、対人コミュニケーションも得意ではない。


 珠樹は誰とでも分け隔てなく話せるが、本当の気持ちは恥ずかしくて口に出来ないところがある。周りの評価よりもずっと、彼女は内向的な性格だ。朝陽に対しての気持ちを、ずっと心の中に隠してきたのだから。


 乃々は幼い容姿の割に、誰よりも大人びた思考を持っている。周りに気を配ることができ、自分に対して正しい自己評価を下せている。しかしそれはおそらく、ずっとそばにいた彩を不安にさせないために身につけたものなのだろう。彩が話す人物像と、実際の乃々にはやや違いがあるから。


 誰も、完璧人間なんていない。だからこそ朝陽は、悪い所に目をつぶるのではなく、隠されている見えないものを大切にして、好きになりたいと思った。


 大切なものは、目には見えないのだから。


「朝陽さんは……」


 乃々は真っ直ぐと、朝陽のことを見つめた。


「朝陽さんは、素敵な方ですね。お姉ちゃんを、任せてもいいですか……?」

「それはどうかな。彩さんに好かれてるか、僕には分からないし」

「絶対、好かれてますよ。お姉ちゃんは、心を許した人にしか、わがままを言いませんから」


 それでも朝陽は、彼女の言葉を素直に飲み込むことができない。紫乃と同じく、自分に対しての評価が低いからだ。


 しかし、今だけは乃々の言葉を素直に信じることにした。自分は彩の支えになりたいと、心の底からそう思ったから。

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