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廃ゲーマー・上

   挿絵(By みてみん)



――アラフォー引きこもりゲーマー、本編の主人公『下村 チヒロ』はFPSプレイヤーである。

 

 彼の日常はもちろんゲーム三昧。外観だけは新築に見えるボロアパートに住み、内装はお世辞にもきれいとは言えない。

 男はひとり、四畳半の部屋の片隅で最新の体感型ゲームに没頭していた。

 

 だが基本的には物事に無頓着の彼でも隠しきれない悩み……。

 何よりもツラいと思っているのが、共同トイレを使わねばならない事だった。

 排泄に関してのマナーで住人同士のトラブルに発展するからである。


「ナニから小便を出すときはね、誰にも邪魔されず自由で なんというか

解放されてなきゃあ ダメなんだ…………」

「孤独で 静寂(せいじゃく)で 豊潤(ほうじゅん)で……」

 

 チヒロはそそくさと机から黄色い液体の入ったペットボトルを取り出す。

 彼はついに尿ボトラーという名の暗黒面に堕ちてしまったのである。


「もう我慢できない! おぉ神よ……このような愚行をどうかお許しください。

 対価を支払うとあらば、なんでもしますから……!!」

 彼はズボンのチャックに指をかけ、股間から発射の秒読みに入るが……。


――次の瞬間、まばゆい光がアパートの一室を包み込む。


 ♦


「ハッ……! どこだここ?!? 俺は確かオシッコしようとして……」

 チヒロが目覚めた場所はかなり古びた聖堂で、不気味な雰囲気をかもし出している。周辺を見渡すと柱にはツルが巻き付き、葉っぱ等も雑然と散乱している情景。

 少なくともボロアパートとは別次元の場所に彼は存在しているのだ。


 あたふたしている彼に追い打ちをかける事件が発生する。

「ガルルゥーッ!」

「なんだ? なんだ? 何なんだ!?」

 

 状況をまったく整理できない彼に黒い影が忍び寄る……――。

 チヒロの前に現れたのは犬の頭をした〈コボルト〉という異世界の化物。

「やばい……今、少しちびったかも……」

 彼の尿意にはおかまいなしに鋭い爪で襲いにかかる狂気の獣人。

「ここで人生GAME OVERかよぉ! ド畜生ッ!!」


 一巻の終わりかと思った矢先に意外な乱入者によって助けられるチヒロ。


「大丈夫ですか?どこか怪我はありませんか?」

 チヒロは目を丸くさせて、さらには鼻の下を伸ばし首を縦に振る。

「すごい……本物のダークエルフだ……!」

 彼女が斬ったであろうコボルトの死体が横たわっていた。


「私の名前はリナリアと申します。ここは危険ですので早く避難した方が身のためですよ?」

 髪は紫色で外ハネのショートボブ、紺色と橙色のツートンカラーの衣装をし首にはマフラーを巻いている。

 なにより露出度が高めで豊満な胸元も魅力的だが、黒いブルマーからはみ出てる褐色肌の太ももやお尻は筆舌に尽くしがたい。


「……珍しい眼帯をつけているみたいですが両目が不自由なのですか?」

「えっ……? うおッVRゴーグルを付けっぱなしなのか!?」


 彼は急いで外そうと頭に手をやるが、完全にフィットして取れそうにない。

「ていうか何でこれ付けて普通に前見えてるんだ俺?」

「あのぅ……ちゃんと前が見えているのなら、急いで来た道を引き返し……」


 リナリアの忠告を言い終える前に、その女性の声は高らかに聖堂に響く。

「オーッホッホッホ、やっと見つけましたわよ盗賊さん!」

 

 なんと二人の背後から華麗に登場したのはまたもやエルフだった。


「ワタクシの名はダフネ! サンダーソニー家に生まれし雷鳴の申し子デスわッ!」

 髪は金色で巻き毛ロールのロングヘアー、ピンクと黒色の大胆なミニドレスに頭部には可愛らしいウサ耳の装飾がなされている。

 こちらの女性も爆乳といっても差し支えのない大きさのバストに、色白のセクシーな美脚をあらわにして刺激がとても強い。

「こいつはご両人、超スーパーすげぇどすばい……」

 

 チヒロが空気を読まずアホな台詞をほざいていると、ダフネが彼に視線を向けて言い放つ。

「……あなたは盗賊さんのお味方なのかしら?」

 急に話を振られて困った様子の彼はリリアナに訊ねてみる。

「あの人から大事なものでも奪ったんですか……?」

「えぇ……でも元々は私たちダークエルフの里の財宝だったモノなの」

 そうリナリアがつぶやくと、高価そうな宝石が埋め込まれたネックレスを彼に見せるために、彼女の腰にあるポーチからしぶしぶ取り出す。


「今すぐそのネックレスを渡せば、事を穏便に済ませて差し上げますわよ?」

「それはお断りしますッ……!」 

 彼女は即答でダフネに返事をし、お互いが臨戦態勢に入ろうとしていた――。


 ダフネが鞘からレイピアを引き抜き、御大層な呪文の詠唱を始める。

「祖は勝利と栄誉の象徴にして聖樹の神なり! 汝が逆巻く怒りを以って、迅雷を我が剣に宿せッ!」 


「ローレル・ライトニング!!」

 魔法の効果でダフネの剣は金色に輝き、電撃で覆われて強化されていく。


 続いてリナリアも負けじと右手に持っていた短剣を構え、言葉を口ずさむ。

「大気を扇ぎたてる新緑の精霊よ! 愚昧(ぐまい)なる両足の(くさび)を解き放ち、疾風を駆る力を与え給えッ!!」


「ブローニング・ゲイル!!」

 魔法の付与でリナリアの周囲を吹き荒れる風が波紋のように広がっていく。


 現実世界からとばされて間もないチヒロは、その場から微動だに出来なくなっていた――。

「下手したらとばっちりで死んじゃうやつだコレ……」

 足をガクガクさせて現状に至ったことを神様の仕業と考え、彼は懺悔をした。


 チヒロの不安をよそにエルフ同士の熾烈な戦いが幕を開ける。

 

「うふっ……! その身のこなし、なかなかやりますわねッ!」

 10撃ほどの剣を交え、高慢な態度でダフネがリナリアを称える。

「クッ……! あの細みの剣でなんて力強さなのッ!?」

 どうやら剣技の実力ではダフネのほうが若干上手らしい。


――その時、チヒロのVRゴーグルに異変が起こる。


 観戦モードに入っていた彼は聞きなれない機械音に気づく。

「……あのエルフになんかステータス表示みたいな数値が出てる?」

 主に1人称視点のシューティングゲームを中心にプレイしていた彼だが、MMORPGのノウハウも多少なりとも知識は持っていた。

 

「ん……? ダフネに状態異常!? これ、やべーやつじゃん」


 不思議なことに戦いを優勢に進めていたダフネが急に吐血し出した。

「どうして……?私の攻撃は当たっていないはず……」

 押されていたはずのリナリアは事態を把握できていない。


「ふっ……不治の難病らしいデスわ。もって余命1か月と医者に言われましてね」

 お腹を押さえるダフネにつられて、チヒロも自分の膀胱(ぼうこう)の心配をする。

「貴族として育てられましたが……両親からもすでに見放され、傷心したワタクシは放浪するしかありませんでした……、あなたが盗ったネックレスは最後に父から譲り受けた品でしたの」


「そんな……でもコレは私にとっては母の形見なの……」

 先ほどまでの覇気がウソのように互いに意気消沈していく。


「……最期にあなたのような素敵な強者と巡り会わせていただき、神様に感謝いたしますわッ!」

 往生際よく覚悟を決め、リナリアに飛びかかろうとするダフネ…………――そこに青光りが一閃する。


「きゃあああああああああぁ……あれ!? 全然痛くありませんわ……」

 

 なんとVRゴーグルから放たれた直径1メートル程の極太ビームがダフネを直射したのである。


「なんか治せるって書いてあったから操作してみたんだけど、大丈夫だった?」

 チヒロは照れ隠しに頭をかきながら、彼女を気づかい声をかけた。

「すい臓がんは現代医学でも摘出するの難しいらしいから、気を付けないとね……」

 突然の出来事にリナリアは呆気にとられてポカーンと立ち尽くす。


「この眼帯の男の人は一体、何者なの…………?!?」 




  



 

 

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