#008「もらい泣き」
「おばあちゃんに、あのヒット映画について話したら、ラジオ・ドラマの続編だと勘違いされたよ。舞台は数寄屋橋じゃないし、春樹も真知子も出て来ないんだけどなぁ」
「初登場で興行収入トップ入りした、あのアニメ映画か。――その包みは何だ?」
「この秋にも、注目を集めてるアニメ映画は多いわよね。――香ばしい匂いがするわね」
「今年は、映画が豊作だよねぇ。――鼻が利くね。調理実習で作ったんだ」
「タコ焼きか。器用だな」
「美味しそう。食べて良い?」
「どうぞ。変り種で、タコ以外の具材も入れたんだ」
「一人で全部食べるなよ、黛」
「失礼ね。半分は残すわ。いただきます」
「良かったら、五十嵐くんも。沢庵や蒟蒻が入ってるよ」
「ほぅ。たしかに一風変わってるな。一つ、いただくとしよう」
「これは、チーズ?」
「そうだ、チーズも入れたんだった。あと、お餅が入ってるのも残ってるはず」
「食べながらで行儀が悪いけど、報告に移るわね。あたしからは、都内で堪能できる新感覚料理の情報、百円ショップで手に入る美容アイテムの情報、バブル経済期に流行したメイクが、再び流行し始めているという情報の三点よ」
「今日は、グルメと美容に関してなんだね」
「黛らしいな。――俺からは、アイ・ティーとスポーツに関して。エス・エヌ・エスで説教や自慢をする中高年に、若者が困惑と苛立ちを感じているという情報、スマートフォンで手軽に健康状態をチェックできるアプリケーションが、次々に配信されているという情報、四半世紀ぶりのマジック点灯で、広島が俄かに騒がしくなっているという情報の三点だ」
「オジサンやオバサンの老害には、辟易させられるわよね」
「サービスを利用するなとは言わないけど、もっと距離感を考えて欲しいよね。――僕からは、医療に関して。サナダムシを駆除する薬品でジカ・ウイルスの増殖を阻止できることが、実験で確認されたという情報、失明患者が遺伝子治療によって、わずか三日で目が見えるようになったという情報、妊娠中に果物や魚を多く摂取することで、子供の知能向上に影響を与えるかもしれないという情報の三点だよ」
「医療つながりで俺から山内に続けて、そのまま食べ物つながりで黛に続けるのが良さそうだな」
「そうね。――ングッ。これは?」
「当たりを引いたようだね」
「何を入れたんだ?」
「舌が、鼻が。この感覚は、山葵ね」
「ご名答!」
「とんだロシアン・ルーレットだな。――深呼吸しろ、黛。鼻から吸って口から吐いてるうちに、辛味が治まる」




