#006「イニシアティブ」
「今のドイツの首相って、三期目なんだな」
「ヘェ。いかにも、ドイツ人女性って感じの人よね。――あっ、大貴」
「図書室に寄ってたんだ。何の話?」
「大した話じゃない。それ、少し前の文学賞受賞作だな」
「あら、本当」
「今度、ドラマ化されるらしいから、原作を読んでおこうと思ってね。黛さんは、さっきから何を読んでるの?」
「何だ、雑誌を見ながら話してたのか。どこかに、美味しい料理店の情報でも載ってるのか?」
「違うわよ。産業構造の中心が製造業からサービス業に変化したことで、働き盛りの男性にも失業者が増えてるって記事があったの。それで、お店に来るお客さんにも、ご主人に仕事が無くて困ってるって話す人が居ることを思い出して」
「増え続ける高齢者に、働き先の無い労働者」
「一億総活躍には程遠いな」
「今日はグルメ情報ではないんだね、黛さん」
「食べ物関係もあるんだけど、切り口が違うわ。ナッツ類が、子供の誤嚥の主な原因になっているという情報、ベビー・フードに青い樹脂片が混入したとして、製造会社が商品を回収したという情報の二点よ」
「いつもと違うね」
「雪が降らなきゃ良いけどな。――俺からは、スポーツと医療について。五輪で使われた陸上四百メートル・リレーのバトンが、オークションに出品されたという情報、がんで闘病中の力士が、坊主頭で引退会見を行ったという情報、病院と旅行会社が提携した医療ツアーが、中国人富裕層から高い評判と信頼を得ているという情報の三点だ」
「髷が結えなくなったら引退って言うけど、本当かしら?」
「床山さんについて調べたことがあるけど、残り少なくなっても手繰り寄せて結えるし、万が一、足りなくなったら、付け髷をすることも出来るらしいよ」
「そういう雑学は、黛のほうが詳しいものじゃないのか?」
「知らないわよ。床山は理髪師じゃないもの。――あとは、大貴だけね」
「僕からは六点あるんだ。絞りきれなかったから、選んでもらおうと思ってね。一点目は、世界標準を狙って、国が乗用車の自動運転に日本式の国際基準を定めようとしているという情報」
「ようやく、自動運転技術が認められるようになりそうだな」
「これで、自動車事故が無くなる日が近付いたわね」
「二点目は、格安航空会社の主要三社が、ようやく黒字化を果たしたという情報。三点目は、マリ発フランス行きの飛行機に鼠が迷い込んだことで、離陸が四十八時間遅れたという情報。四点目は、国際宇宙ステーションの日本実験棟で飼育されていたマウスが、米国の無人補給船で無事帰還したという情報」
「飛行機と鼠で繋がってるな」
「テーマ・パークの情報が欲しいわね」
「千葉の東京に関する情報は無いんだ。――五点目は、月面探査レースに参加する日本チームが、マシンの大幅な軽量化に成功したという情報。最後は、珊瑚の白化にバクテリアが関与していることが、研究で初めて解明されたという情報」
「日本の科学に関する情報だな」
「研究と技術開発ね」
「それで、どれが良いと思う?」
「どれも捨てがたいが、全部で十一点か」
「……放送時間を延長できないかしら?」
「もしかして、全部取り上げるつもりなの?」
「下校放送は、どうする気だ?」
「職員室の時計を三十分戻しておくっていうのは、どう?」
「それ、解決になってる?」
「なってない、なってない。うわ! もう時間が無い」
「見切り発車、出発進行!」
「ここは二人に任せようっと」




