#066「狗尾草」
「謙虚で、大人しくて、無駄口を叩かず、人望があって、浮気しなくて、経済力がある。そんな都合の良い男性がいるのでしょうか?」
「銀行にいけば、たくさん並んでるよ」
「生身の人間ではないのね。――来月上旬に遠足、下旬に体育祭、十二月上旬には期末考査。年末年始を挟んで一月上旬はセンター模試、下旬は進路希望調査票の提出。一年生は二年目の類型選択で、三年生は志望校調査よ。二月上旬にマラソン大会、二年生は下旬に修学旅行もあるわね。誰が、こんな多忙なスケジュールを組んだのかしら?」
「あの、裕子先生」
「そろそろ、本題に」
「あら、ごめんあそばせ。不意に誰かが入ってこないように、ドアを施錠しておくわね」
「内側からも鍵が必要なんですね」
「生徒が教室を閉じ込めて悪戯するのを防止するためらしいよ」
「それでは、詩織さんから報告してもらおうかしら」
*
「なるほどね。二人とも、そこまで意識してなかったのね。ご苦労さま」
「斥候か諜報員にでもなった気分ですね」
「陽動作戦じみてるのが、ちょっと気懸かりだけどね」
「忙しさに押されて、卒業式まで有耶無耶にするのは勿体無いもの。せっかくの貴重な高校時代を、灰色で終わらせてはいけないわ。青春とは何か。恋愛とは何か。この期間に考えなかったら、ずっと後を引くんだから。――紅茶のおかわりはいかが?」
「フフッ。ところで。傍観者を決め込んでますけど、そういう山内さんは、どう思ってるんですか?」
「えっ?」
「作戦は、ここからが本番なのよ。本音を聞くまで、鍵を開けないんだから」
「さぁ、お答えをどうぞ」
「二重スパイだったんだ。嵌められたよ」




