#063「ペンと台詞」
「大貴、赤ペンとって」
「はい、黛さん。――以下の四コマ漫画の吹き出し部分に、適当な英文を書き入れなさい」
「穴埋め問題か」
「サービス問題ですね」
「全然サービスじゃないわ。何を書いていいのか、サッパリ」
「諦めるのは早いよ。待ち合わせに来た彼女は、ハイ・ヒールを履いていた。自分より背が高い彼女に、彼氏は不満に思っている。デートの途中で彼女のヒールが折れて、二人で代わりの靴を探す。彼女がペタンコ靴を履いたことで目線が同じになり、彼氏の機嫌が直るというのが筋書き。これを、もっと簡単な日本語で表したら、どうなる?」
「彼女が、いつもと違う。彼女は、いつもより背が高い。彼女の靴を探さなければ。彼女は、いつも通りだ」
「彼氏目線なら、そうなりますね。吹き出しの先は、二人のあいだにあるのがポイントですね。彼女目線なら、どうなりますか?」
「そうねぇ。彼氏が待っていた。彼の機嫌が悪い。彼が靴を買ってくれた。彼が笑顔になった」
「そうだね。あとは、それを英訳していこう」
「それにしても、器の小さい彼氏だな」
「彼女も、気が利きませんね」
「三コマ目で、彼氏がシークレット・シューズを買うシーンにしたほうが面白いのに」
「それで四コマ目に、二人でお座敷のお店に入る」
「良いな、それ」
「こんな感じでしょうか?」
「そうそう。絵が上手ね、詩織ちゃん」
「ソックリだね」
「もし、この四人の身長を同じにしようとしたら、黛はハイ・ヒール、山内はシークレット・シューズとして、苦竹は厚底ブーツか?」
「もしくは、竹馬にでも乗らないと駄目ですね」
「二十センチ以上も違うものね」
「爪先立ちでも届きそうにないよね」
「身長は、高ければ良いというものでも無いけどな」
「低いと不便ですよ?」
「洋服や靴にしても、公共設備や規格品にしても、一体、何センチの人間をモデルにしてるのかしらね」
「謎だよね。――二人とも書けた?」
「俺は、何とか」
「部長さんは?」
「あたしも、どうにか」
「どれどれ。……赤ペン、返して」
「駄目か?」
「文法以前に、スペル・ミスが目立ちますね」




