#059「絶対回避」
「三年ぐらい前まではクレープ屋で、ちょっと前までラーメン屋だったが、今度はカレー屋か」
「居抜き物件で開店する業者が増えてますよね。――あっ」
「黄色なのに、停まるところか、スピードを上げていったな。――横断歩道で一時停止しない、ウインカーを出さない、信号無視」
「運転ルールを守らないドライバーが増えてますね」
「街中に自動車が増えすぎだ」
「道幅も狭すぎますね」
「焼け野原から急速に都市化が進んだ歪みが、あちこちで噴出してるってところだな」
「綿密な計画を立てる余裕が無かったとはいえ、ここまで無秩序では不便ですよね」
「時代の波に取り残されてる感があるな。――手書きの履歴書に印鑑証明、漫画やゲームは子供向けでしかないという意識」
「専業シュフの軽蔑視も気になりますね」
「それは、どっちの意味だ?」
「両方です。女性は家事をして当然だという認識も、男性が家事をするのはオカシイという認識も」
「男子、厨房に入らず。男女、七つにして席を同うせず。封建時代なら正しいとされたんだろうが、現代には合ってないな。――あのブレザーは、二駅先にある女子校の制服だな」
「文化祭の見学でしょうか?」
「そういえば今日は、この先の男子校で文化祭をしてるんだったな」
「ここぞとばかりにオシャレをしてますね」
「出会いが少ない分、気合が入るんだろうな。――もうすぐ中間考査だが、テスト対策は万全か?」
「文系科目は良いんですけど、物理化学が、ちょっと」
「あぁ、そうか。文系でも、一年のあいだは理系科目があるんだったな」
「そうなんです。数式や記号が並んでるのを見るだけで気が滅入るんですけど、手軽に済ませる方法はないものでしょうか?」
「俺も、そのことで何度か山内に相談したことがあるんだが、地道にやるのが一番だという結論になった。チートは出来ないらしい」
「コツコツ積み上げるしかないんですね。頑張ります」
「捗々しいアドバイスが出来なくて済まないな。努力が必ず報われるとは限らないが、成功した人間は須らく努力しているものらしいから、腐らずに乗り越えるしかない」
「すぐに報われるものでもありませんからねぇ。松本清張、安藤百福、やなせたかし、カーネル・サンダース、リンカン大統領」
「遅咲きの成功者だな」
「著者近影や、図説の写真を見てると、有名人にソックリな偉人がいると思いませんか?」
「一休宗純と歌手、山県有朋とフォトグラファー、近藤勇とお笑い芸人」
「スターリンと俳優、明治天皇とアーティスト。他人の空似とは思えない人物が多くて、教科書を開くたびに笑いそうになるんです」
「じわじわと込み上げるタイプだから困るよな」
「笑ってはいけないと思うと、かえって悪化するんですよね」
「開けてはいけないと言われると、開けたくなるのと一緒だな。白熊実験だ。――それじゃあ、またな、苦竹」
「また明日、五十嵐さん」




