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#057「ビンゴ」

『大貴は、本当によく出来た子よね』

『そんなことないよ、黛さん』

『優等生だものね。努力しなくても、満点が取れるから良いわよね』

『そう易々と満点が取れるものではないよ。それに、いつも満点が取れる訳でもない』

『勉強熱心で、いつも先生から期待されてるものね』

『クラス・メイトからは、敬遠されがちだけどね』

『謙遜のつもり? 本当は、自分は特別な人間だって自慢したいんじゃないの?』

『そんな。僕は、ただ』

『立派な家に生まれて、何不自由なく育てられて、まだ足りないものがあるの?』

『乳母日傘だと思ってるの? そうだとしたら』

『あたしの勘違いと言い切れるかしら? 大貴には、キャベツと小麦粉だけのお好み焼きモドキを食べ続けたことがあって?』

『それは無いけど』

『ほらね。大貴は、あたしたち庶民とは違うのよ』

『望んでのことじゃない。終わりない競争を強いられて、好成績をキープし続けなきゃいけない重圧に晒され続けるなんて、もう真っ平だよ』

『それが大貴の本音なのね。ガッカリだわ。幻滅よ』

『違う。僕は、その。……僕は!』

  *

「ッハ」

「起きたみたいね、大貴」

「ごめん。転寝してたんだね」

「疲れてるのよ。しんどかったら、帰って休んだほうが良いわ。それとも、そこのユウトのベッドで横になる?」

「平気だよ。どこまで解けた?」

「ここまでは理解できたんだけど、この式は、どうすればいいの?」

「サインをコサインに変換して、コサインだけの式にすれば解けるよ。公式は、これを変形して、こうすれば」

「なるほどね。あたしだって、ヒントがあれば何とか解けないこともないのよ。その閃きは、どこから降ってくるの?」

「ノー・ヒントで解けるようになるには、場数を踏むしかないよ」

「学問に王道なし、ね」

「それは、ユークリッドがプトレマイオス王に答えた言葉とされてるよ。もっと楽に幾何学を習得する方法が無いかと訊ねた王に、安易な方法はなくて、誰もが等しく経なければならない過程があると言ったらしいから、この場ではピッタリだね。――僕の顔に、何か付いてる?」

「そうじゃないの。そういう情報が、この頭のどこに詰まってるのかと思って」

「外から見ても分からないよ。もっとも、中身を取り出しても輪切りにしても、仕組みは分からないだろうけど」

「ウップ。想像したら、吐き気がしてきたわ」

「フフッ。おかしなことを訊くようだけど、もしも生まれる前に僕と立場を入れ替われるとしたら、黛さんは、入れ替わってみたいと思う?」

「急に、とりとめもないことを言うわね。そうねぇ。一日や二日なら良いけど、ずっと大貴のままなのは、ちょっと」

「それは、どうして?」

「正直、大貴のことが羨ましいと思ったことは、これまで何度かあるわ。でもね。どんなに恵まれた人間だって、いい思いばかりをしてる訳じゃないと思うの。必ず、他人の知らないところで、嫌な思いをしてると思うの。だから、あたしは、今のあたしが一番良いのよ」

「そっか。変なことを訊いて悪かったね」

「勉強のしすぎね。程々で切り上げて、根を詰めすぎないようにしないと駄目よ」

「そうするよ」

「それじゃあ、今日はここまでにして良いわね?」

「黛さん。それとこれとは」

「違わないわよ。――ユウト。リビングから抽選機とカードと持ってきて!」


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