#056「ゾンビ」
『大柄で、胸の無い、オトコオンナ』
『失礼ね、このセク・ハラ親父。これから育つのよ』
『栄養は、体幹より末端に奪われてるようだが?』
『いつも笑い飛ばしてるけど、これでも結構、気にしてるんだからね。とにかく。今は外面より内面に注目しなさい』
『気配りは出来ないし、負けず嫌いだし、おまけに大雑把だな』
『粗ばかり論わないでよ。よく見なさい。もっと褒めるところがあるでしょう?』
『そうだな。まだ若いから、高く売れそうだ』
『翔。内面を見てって言ったじゃない!』
『内臓の話だが? 何だ? あぁ、そういうこと』
『嫌らしい。不潔だわ』
『どんなに紳士淑女面してたって、ひと皮向けば同じだろうが』
『最低。見損なったわ』
『ハッハッハ。美人に言われれば堪えるだろうが、黛に言われても、俺には痛くも痒くもない』
『翔なんか、××××なんだから!』
*
「あら?」
「やっと起きたか。ホラー映画で熟睡するとは、どういう神経をしてるんだか」
「悪かったわね。それで、主人公とヒロインは?」
「主人公は死んで、ヒロインは主人公の分まで長生きすると心に誓った」
「鉄板ね。ありきたりすぎるところがあるけど」
「今度は、もっと変わったのを借りてこよう。それより、黛。飽きたとしても、寝ないでくれ」
「どうして? 理性が保てない?」
「馬鹿なことを言うな。鏡を見て来い」
「……見た目は魅力がないのね」
「おいおい、落ち込むなよ。いつもの軽い冗談だってのに」
「……大和撫子になったら」
「ん?」
「もしも、あたしが淑やかな大和撫子だったら、今と同じような冗談を言える?」
「いきなりだな。そうだなぁ。その仮定には、矛盾があると思うぞ?」
「何が矛盾なのよ?」
「淑やかな黛は、もはや黛ではない」
「どういうことよ、それ」
「まだ寝ぼけてるのか? ともかく、角を矯めて牛を殺すようなことをするなってことだ。似合ってないから。――まずは髪の乱れを直せ」
「鏡を見て来いって、そういう意味なの。不器用だけど、優しいのね」
「そんなつもりで言ったんじゃない」
「あっ、照れてるわね。トマトみたいに紅くなってるわよ?」
「夕陽のせいだ。いいから、早く洗面所に行け」




