#052「蹴っ飛ばせ」
『やぁ、送り狼くん。苦竹さんに乗り換えたの? それとも、キープなのかなぁ』
『うるさい。山内こそ、黛を餌付けしてるじゃないか』
『食べ物を振舞ってるのは、黛さんだけじゃないよ』
『あぁ言えば、こう言う』
『あんまり苦竹さんにモーション掛けてると、紳士協定を破っちゃうよ?』
『黛を独り占めする気か?』
『決めるのは黛さんだけど、振り向いてくれるようにアプローチを本格化するよ』
『ふざけるな』
『どっちが? 五十嵐くんは、ズボラな慌て者より、貞淑なシッカリ者を選んだんじゃないの? 籠に入れて支配したい性格だもんね』
『俺を所有欲の権化みたいに言うな』
『気にしてるんだ。リボンを付けて野に放したとき、もう一度懐に戻ってくる自信がないのかなぁ?』
『やかましい』
『黛さんは、お人形さんみたいに大人しくできるタイプじゃないよ』
『山内に指摘される筋合いは無い』
『ありがた迷惑に感じるんだね。地獄への道は善意で舗装されているってところかな?』
『それ以上、減らず口を叩いてみろ。ただでは済まさないからな』
『地が出てきたね。本心が見えて嬉しいよ』
『この、××××』
*
「お早う、五十嵐くん」
「お早う、山内。悪いな、泊めてもらって」
「全然、構わないよ。元はと言えば、僕が呼び出したんだもの」
「セーブ・データが残ってたから、クリアするのを手伝うつもりだったのに、攻略法が忘却の彼方にあるものだから」
「最後の日付は、かれこれ一年近く前だもの。覚えてなくて当然だよ」
「おまけに、感覚を思い出すまでのつもりでミニ・ゲームをプレイしてたら、そっちに熱中してしまって」
「楽しかったから良いよ」
「……済まない」
「どうしたの? 枕が違うから、よく眠れなかった?」
「そんな柔な神経はしてない」
「タフ・ガイだね。でも、無理しちゃ駄目だよ?」
「大丈夫だ」
「そう。それなら、心配しないでおくね。朝食は入りそう?」
「食欲は、ある。しかし」
「遠慮しなくていいよ。実は、もう用意できてるんだ」
「そうか。それなら、いただいていこう」
「着替えたら下りて来てね」
「あぁ。……なぁ、山内」
「ん? 何か足りないものがあるのかな?」
「そうじゃない。つかぬことを訊くようだが、俺が苦竹と付き合ったら、山内は黛と付き合うか?」
「唐突だね。ウゥン。仮定の話として答えるけど、五十嵐くんと苦竹さんの交際と、僕と黛さんの交際とは別問題だと思うよ。五十嵐くんが苦竹さんを選んだとしても、その逆だとしても、黛さんが誰を好きかということとは無関係だもの」
「そうなのか。偉いな、山内は」
「変なの。ゲームのやりすぎかな?」
「取るに足りない世迷い事だ。聞き流して忘れてくれ」
「忘れてって言われると覚えてしまうのが、僕の悪い癖なんだけど」
「そうだったな。――早く着替えないと」
「そうだね。それじゃあ、下で待ってるから」
「おぅ。……所詮は夢でしかないよな」




