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#047「プラネタリウムへ急げ」

「日本には、植物に由来する色が多いんですね」

「動物性の染料が採れにくいからなのか、それとも殺生を嫌う自然観なのかは分からないけど、植物名が色の名前になってることが多いね。アカネ、アイ、ウコン、ベニバナ、ムラサキ」

「山内さんは、何でも知ってますよね」

「そんなことないよ。知らないことばっかりで、毎日が新たな学びの連続だもの」

「勉強のコツとか、何か効率の良い方法でも編み出してそうですけど?」

「学問に秘伝の奥儀は無いよ。地道に積み上げてるだけ。――あっ、お帰り」

「ただいま。ほら、オレンジ・ジュース」

「詩織ちゃんは、レモン・ティーね。あいにく、ミルクは売り切れだったわ」

「レモンも好きですから。ありがとうございます」

「購買部のレモン・ティーは酸っぱいと思わない、五十嵐くん?」

「あぁ。少しばかり、酸味が強すぎる嫌いがあるな」

「それが爽やかさの元なのに。わかってないわね」

「好みは、ひとそれぞれですから。――来週は、いよいよ文化祭本番ですね」

「ここ数日で、黛さんの衣装にも見慣れたよね」

「はじめて見たときは、黛だと判らなかったからなぁ」

「あたしも、こんな格好をするとは思わなかったわ。英語だから、口調で判断できなかったのよ」

「一人称や語尾が、みんな一緒ですからねぇ」

「ジョルジュ・サンド役だと聞いた時点で、こうなることは予想が付きそうな気がするけど?」

「音楽の時間に、黛が起きてると思うか?」

「失礼ね。たまたま知らなかっただけよ」

「男装の麗人は、虚実ともに多いですよね」

「少女歌劇の男役、川島芳子、ジャンヌ・ダルク、オスカル、サファイア」

「かすれ声には適役だな」

「アルトのハスキー・ボイスよ」

「低音域が出せるのは、わたしには羨ましいです」

「雑踏や喧騒の中でも、よく通る声だよね」

「ユウトくんに向かって、しょっちゅう吼えてるからだろう?」

「言い返したいけど、その通りだから悔しいところね。あと、家で商売をしてるから、そのサービス精神もあるわ。喋ってナンボだもの」

「黙っていては、お客さんは来ませんものね」

「家の中が賑やかなのは良いことだよ」

「普段から騒がしいと、不意に静かになったときに戸惑うみたいだけどな。夜更けに、家に幽霊がいるって電話を掛けてきたことがあったが」

「古い話を持ち出さないでよ、翔」

「お化けがいたんですか?」

「まさか。その日は珍しく、黛さん一人で留守番してたんだけどね」

「静まり返った部屋で家鳴りを聞いたものだから、何か得体の知れないものが居ると勘違いしたんだ」

「とんだ枯れ尾花だったわ。――あぁ、そうだ。そのあと、大貴に引っ掛けられたんだったわ」

「何をしたんですか、山内さん?」

「他人をペテン師みたいに言わないでよ、黛さん」

「そうなじられたって、文句の言えないことをしただろうが。家には自分に瓜二つの座敷童がいるなんてデタラメ話を、もっともらしく語ったんだからな」

「『本当に僕だったかい?』なんて言われて、背筋が凍る思いをしたんだからね」

「他人の善良な性格を玩ぶような真似は、感心しませんね」

「納涼になったと思ったんだけどねぇ」

「寒すぎるって。――文化祭が終わったら、四人での放送が始まるんだよなぁ」

「そうね。早いわね」

「わたし、頑張りますから」

「気を張りすぎると疲れちゃうよ?」

「そうだ。気楽に臨んで良いからな」

「何か間違っても、必ず三人でカバーするから、大船に乗った気でいなさい」

「はい。――向こうで手招きしてる人物が居るようですけど?」

「あっ、いけない。展示の調整があるんだった。また、あとでね」


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