#042「昔と今」
「林檎の酸味とバターの風味がマッチして、たまらないわ」
「お口に合ったようで、何より」
「一度に付け過ぎだ、黛。苦竹の分が無くなる」
「大丈夫よ。まだ、もう一瓶あるんでしょう?」
「目敏いね。食べ切っても大丈夫なように、小分けにして正解だったよ」
「抜かりないな。――原子力発電所の避難区域で、野生動物が繁殖してるのか」
「人間がいないから、増え放題ね」
「何だか、狩猟や農耕が野生動物に与える影響を考えさせられるね」
「多量の放射性物質は危険だが、微量のウランは、こういう工芸品に応用されている。ほら」
「あら。綺麗な緑ね」
「上品で繊細な輝きだね」
「何だって、適度に散在するくらいが丁度良い。――プロ・バスケットボール・リーグ創設の立役者は、七十九歳の男性か」
「あのロゴだけど、パッと見たとき、エルがシーに見えてしまったのよね」
「それだと、ウシ型結核菌やピー・エイチ指示薬、あと、企業行動基準と同じになってしまうね」
「相変わらず、隙の無い補足情報だな」
「頭文字ひとつで、別の意味になってしまうものね。――あの国民的五人組アイドルのラスト・アルバム、か」
「今年いっぱいで解散する大物アーティストは、あの五人組だけじゃないんだよ。特にブイ系は、ここ十年ほどで勢いが陰ってると言われてる」
「グループ解散、ショップの閉店、ライブ・ハウスの閉館、雑誌の休刊。世知辛いものだな」
「そういえば、そういうバンドは減ってる気がするわね。活躍してるのは、年代が上の人たちばかりで」
「若手アーティストが活躍する場が、どんどん街から姿を消してるよな」
「動画サイトの普及と、密接な相関関係がありそうだね。――そろそろ、報告に移らないと」
「あたしからは、建築デザイナーが設計したケーキが斬新だというグルメ情報、美肌には蒟蒻が有効だという美容情報、千円カットと美容院の上手な使い分けに関する情報の三点よ。――クイーンね」
「蒟蒻には、整腸作用やアレルギーを抑える効果もあるよね」
「コマーシャルに走るなよ、黛」
「ちょっとくらいは大目に見てよ」
「あとで斎藤先生から指摘されても知らないよ。――僕からは、猫を飼うと心臓病のリスクが低下するという健康情報、お座りした猫の形をした照明とか、際限なく押したり回したりできるスイッチやボタンがついた、無限プチプチのような立方体とか、それほど実用性は高くないけど、思わず欲しくなるグッズの情報、好きな本からわかる深層心理に関するプチ情報の三点だよ」
「キングか。――手持ち無沙汰だと、持ち物で遊んでしまう誰かさんにはピッタリだな」
「誰かしらね。――猫がデザインされた小物は、つい手にとって触ってみたくなるのよね」
「俺からは、いくつかの時計メーカーが、スマート・フォンと連動した腕時計の市場投入に積極的になってきたという情報、オーストラリアで出土した十三世紀の人骨にあった謎の痕跡から、ブーメランは殺人兵器だった可能性があるという情報、資金繰りに悩む中小企業にファックスを送り付け、簡単な審査だけで融資をするという架空話で手数料を騙し取った、新たな振り込め詐欺犯の手口に関する情報の三点だ。――ジャックに間違いなし、と」
「テクニックが巧妙化してるよね」
「足元を見るところは変わりないわよ。――ごちそうさま、大貴」
「美味しい話には裏があるものだ。――ごちそうさま」




