#041「ずんずん進む」
「ペア・ルックって、どう思います?」
「さり気なさが足りないわね。アクセサリーとか、小物なら良いと思うけど」
「彼氏が出来たの? ――モン・ブラン、フルーツ・タルト、ザッハ・トルテ。どれが良いかしら?」
「わぁ、美味しそう! ――部長さんから、どうぞ」
「それじゃあ、フルーツ・タルトにするわ。――箱にも袋にもロゴがないわね」
「フフッ。素材重視で、閑静な住宅街にある、隠れ家風のお店でね。五十代から六十代くらいの夫婦が経営していて、こじんまりした佇まいが特徴なの。他にも、カップ・ケーキやクッキーもあるのよ」
「ヘェ。行ってみたいですけど、迷いそうですね。――わたしは、ザッハ・トルテにします」
「意外と渋いチョイスね」
「ここのチョコレートは、程よく苦味が効いてるから美味しいのよ。――はい、フォーク。紅茶も淹れるわ。レモンとミルクは、どちらが良いかしら?」
「ミルクを、お願いします」
「あたしは、レモン! それで」
「出来れば砂糖漬けも、でしょう?」
*
「高校までは素顔が一番と言いながら、会社では化粧をするのが当たり前と言われても、すぐに馴染めないわよね」
「舞台俳優並みの厚化粧も駄目なんですよね」
「派手すぎず地味すぎず、目立たないけどオシャレでいなきゃいけない。あぁ、想像しただけでストレスが溜まる」
「毎朝、毎晩、鏡と睨めっこよ。メイク、ヘア・セット、スキン・ケア。しかも、三十を過ぎてフリルやレースをあしらった服や派手な色柄の服を着てたら、周囲から白い眼で見られるのよ?」
「でも、明確な決まりがあるわけではないんですよね?」
「あたしは、暗黙の了解になってるほうが厄介だと思うわ」
「規程になっているのなら、異議を唱えて変えることも出来るけど、グレー・ゾーンだと、嫌なら従わなければ良いだけだとされるものね。――話を戻すようだけど、二人は、翔さんと大貴さんのことを、どう思ってるの?」
「五十嵐さんは頼りになりますし、山内さんは優しい人だと思います」
「そうかしら? 翔は小言が多いし、大貴は意地悪よ?」
「心配性とイケズよ。履き違えちゃ、二人が可哀想だわ」
「と、いうことは?」
「ん? あたし?」
「可能性はあるんだけど、当事者は意識してないのよ、詩織さん」
「面白くなりそうですね、裕子先生」
「ちょっと。あたしには、さっぱりなんだけど」
「もうすぐ放送が終わるから、片付けて移動しましょう」
「はい」
「無視しないで。ねぇ、どういうことなのよ!」




