#039「ダイニング・メッセージ」
「……何の真似だ?」
「冷静だね」
「ツマラナイわね。アドリブで、何か演技してくれても良いじゃない」
「飲み物を買ってくるあいだに、殺人事件があってたまるか。――それに、何なんだ。ホワイト・ボードにある、このメッセージは。栗、林檎、鰊」
「捜査を撹乱するために、犯人が残した暗号だよ」
「五十嵐警部、英訳せよ」
「どこが暗号だ。冷蔵庫に貼るメモ程度の内容じゃないか」
「事件は、台所で起きている」
「いいから、答えなさい」
「仕様が無いなぁ。栗はマロン、林檎はアップルとして。鰊は、サーディンか?」
「へリングだよ。サーディンは鰯」
「警部補に降格ね。やっぱり横文字に弱いわね、翔」
「やかましい。後輩に、一年の頃の話を吹き込みやがって」
「こうして伝説は、語り継がれるのであった」
「俗に言う、五十嵐現象である」
「勝手に名親にするな。――イッ」
「あっ、大丈夫? 絆創膏なら、あるよ」
「紙で指切った?」
「違う、違う。棘が刺さっただけだ。あぁ、でも。根元から折れてるから、抜けるかなぁ」
「今、手元に無いけど、梅干しを貼っておくと抜けやすくなるよ。――明日から、梅干しと蜂蜜を持ち歩こうかなぁ」
「おばあちゃんの知恵袋ね。――梅干しを持ち歩いてる高校生がいるものかしら?」
「少数派だろうな。蜂蜜は何に使うんだ?」
「口内炎やニキビが早く良くなるんだよ。それから逆剥けにも効くよ」
「それを聞いて思い出したわ。口内炎が酷かったから、試しに塗ってみたことがあったのよ。そうしたら」
「治るには治ったが、猛烈に痛かった。そうだろう?」
「すぐに炎症が治まるとは言ったけど、痛みを伴わないとは言ってないよ」
「そういう詭弁を弄するところは、どうかと思うわよ、大貴」
「腹黒さが滲み出てるぞ」
「処世術って言ってよ」
「あたしからは、秋の味覚に関して。この季節に合った食材を使った、彩り豊かで見た目にも食欲をそそるパイのレシピ情報、最近コンビニで買えるようになった、絶品の新作アイスの情報、それから、実は色んな味付けがある、美味しくてヘルシーなサラダ・チキンの食べ合わせに関する情報の三点よ」
「いつもと変わらない、食いしん坊バンザイだな」
「体型を気にして拒食症になるより、ずっと健康的だよ。――僕からは、百円ショップで人気の掃除用品に関する情報、人前では何も考えずに発言してるように振舞ってるけど、実は陰で弛まぬ努力をしているタレントに関する情報、有名人同士で結婚した家族の、微笑ましいエピソードの特集情報。今日は、この三点にしておこうかな」
「番組や舞台で共演して、そのままゴール・インするカップルは、芸能界では珍しくない話題よね」
「それが二世同士の結婚だと、畑違いの人間が親戚関係になるから面白いんだよな。――他には、どんな話があったんだ?」
「えっとね。香水の上手な使いかた、誕生日や星座で選ぶ特別コスメ、芸妓さんに学ぶ、奥ゆかしさの秘訣」
「女子力が高いわね」
「黛も見習ったらどうなんだ?」
「うぅん。僕は、そのままの黛さんのほうが、黛さんらしいと思うけどなぁ」
「大貴に賛成!」
「やれやれ。――俺からは、欧米や東アジア諸国が、アフリカの可能性に挙って注目しているという情報、二〇二〇年から、フランスでプラスチック製の使い捨て食器が禁止されることになったという情報、金沢駅で、定期的に鷹を巡回させることで、鳩の糞による被害をゼロにしたという情報の三点だ」
「象牙、奴隷の次は、地下鉱物か」
「希少資源の奪い合いで、戦争にならなきゃいいけど」
「発展途上国に期待するってことは、裏返せば、それだけ先進国が行き詰ってるってことだもんな。あと、イスラム国に関する、元テロリストの告白記事や、米国の新しい爆撃機に関する情報もあったんだが、過激だからやめておく」
「そこはタカ派じゃなくて、ハト派なんだね」
「おあとがよろしいようで」




