#038「我々は地球人だ」
「苦竹も、自転車通学だったんだな」
「はい。電車だと、ちょっと遠回りになるんです」
「俺も同じ理由だ。放送部には慣れたか?」
「はい。十月から放送に加われるように頑張ります」
「無理はしないように。――運動部だけあって、声量は問題ないし、滑舌も悪くない。カ行は苦手なようだがな」
「山内さんにも、同じことを言われました」
「小米の生噛み、小米の生噛み、こん小米のこ生噛み。言ってごらん」
「小米の生噛み、小米の生噛み、こん、小米の、こ生噛み」
「何とか言えたな。これは、どうだ? 菊栗、菊栗、三菊栗。合わせて菊栗、六菊栗」
「菊、栗、菊、栗、三菊、栗。合わせて菊、栗、六菊、栗」
「菊と栗で切ってはいけない。もう一回」
「菊栗、菊栗、三ギックリ。合わせて菊栗、六ギックリ」
「腰に響きそうだな」
「練習します。でも、五十嵐さんだって、苦手な早口言葉があるんですよね? 部長さんから伺いましたよ」
「一年のときの話だ。今は言える」
「シー、セルズ、シー・シェルズ、バイ・ザ・シーショア」
「シー、セルズ、シー・シェルズ、バイ・ザ・シーショア」
「ピーター・パイパー、ピックドゥ、ア・ペック・オブ、ピックルドゥ・ペッパーズ」
「ピーター・パイパー、ピックドゥ、ア・ペック・オブ、ピックルドゥ・ペッパーズ」
「フィッシャーズ・フリッツ、フィシュトゥ、フリッシェ・フィッシェ。フリィッシェ・フィッシェ、フィシュトゥ、フィッシャーズ・フリッツ」
「フィッシャーズ・フリッツ、フィシュトゥ、フリッシェ・フィッシェ。フリィッシェ・フィッシェ、フィシュトゥ、フィッシャーズ・フリッツ」
「わぁ、すごい!」
「散々からかわれたから、猛特訓したんだ」
*
「複々線化で本数を増やしたり、高架化でスピードを上げようとしたり、列車だけでなくホームも二階建てにしようしたり。混雑を緩和して満員電車を無くそうと、色んな対策が考えられて、一部は実行されつつあるんだけど」
「効果は薄いわね。――あぁあ。もう少し家が近ければ、自転車で通うんだけどなぁ」
「今日も、座れそうに無いね」
「これでも空いてる車両なんでしょう?」
「一番空いてるのは、前から三両目だよ。移動したら?」
「嫌よ。あたしは女性専用車に乗りたくないの」
「わざわざ専用車両があるのに、あえて利用しないんだね」
「優先席に座りたくない高齢者と、同じような心理よ。大貴は、もしも男性専用車があったら、それに進んで乗る?」
「痴女被害に悩んでる前提付きなら、喜んで乗車するかな」
「ほらね。女性専用車があろうが無かろうが、痴漢は犯罪なのよ? 隔離するだけでは根本的な解決にならないわ」
「それもあるけど、不平不満が溜まる理由としては、同じ料金で待遇の違いがあることも、その一つなんじゃないかなぁ」
「特別料金が必要な優等車扱いすれば、解決するって訳ね」
「快適に過ごすためには、やっぱり別途サービス料を払わないと」
「飛行機や新幹線と一緒ね」
「でも、細分化が行き過ぎると、差別に繋がりそうだね。性別、年齢、国籍、人種、民族、宗教、言語、職業、年収、偏差値、知能指数」
「多文化共生の難しさね」
「国際問題だけじゃなくて、会社や学校、それから家庭にも言えることなんだけどね。相手も同じように考えていて、自分のことを理解されて当然だと思うから衝突すると思うんだ。黛さんは、どう思う?」
「同感よ。――金子みすず精神ね」




