#035「裕子の部屋」
「進路予測の予報円は、台風があの大きさになっていく訳じゃないよ」
「何だ。発達した台風が接近して、どこそこが今どうのこうのって言うから、てっきり」
「中学まで、理科で何を習ってきたんだか」
「チャラララッチャラー。あんこパン」
「秘密道具になってないですよ、斎藤先生」
「記憶機能が無いわね」
「普通に登場できないのか?」
「総スカンね。でも、逆境を乗り越えて見せるわ」
「駅前ホテルのベーカリーの袋ですよね、それ」
「バターの香りが、何とも言えないわね」
「また、厄介事を持ち込んできたようだけどな。まず、用件を訊こう」
「フフフ。聞いたら驚くわよ」
「見たら笑えますか?」
「あたしは赤鬼かしら」
「話が進まないから、それ以上、茶化すな」
「ルールル、ルルル、ルールル、ルルル、ルールールールー、ルールル。本日のゲストを紹介します。――入ってきて良いわよ」
「他にも誰か居たんだ」
「赤だから、一年生ね」
「一組だから、文系だな」
「パンパカパーン。われらが放送部、待望の新入部員よ。――自己紹介できる?」
「はい。苦竹詩織です。よろしくお願いします」
「書記の山内大貴です。こちらこそ、よろしく」
「部長の黛アスカよ。よろしくね」
「副部長の五十嵐翔だ。よろしくな。――この時期に新入部員とは、珍しい」
「ちょっとした事情があってね。――自己紹介も済んだし、もう、今日の活動は終わってるから、詩織さんは先に帰って良いわよ。はい、クリーム・パン」
「ありがとうございます、裕子先生。――お先に失礼します、先輩」
「またね、苦竹さん」
「また、連休明けにね、詩織ちゃん」
「台風が近付いてるから、気を付けて帰れよ。……それで、事情というのは?」
「カレー・パン、メロン・パン、チョコレート・コロネがあるの。どれが良い?」
「あんパンは無いんだ。僕は、コロネが良いな」
「あたしは、メロン」
「それなら、俺は残ったカレー・パンで」
「受け取ったわね。食べながら、耳だけは傾けてちょうだいね。詩織さんは、夏休みまでは、女子バレー・ボール部に所属していたのよ。小柄だけど、アシストが上手な子でね」
「所属していた。過去形なんですね」
「怪我でもしたの?」
「外見や動作からは、故障があるように見えなかったけどなぁ」
「それが、三年生が夏に引退したことで、二年生の態度が急変してね。内容は伏せるけど、傲慢で陰湿な後輩指導をするようになったらしくて」
「それで、退部したんですね」
「辞めて正解よ。そんな裏表のある先輩に振り回されて、貴重な青春時代を浪費すること無いわ」
「まったくだな。それでも、放送部に入ったってことは、バレー部は辞めたが、クラブは続けたいってところか?」
「話が早くて助かるわ。放課後に、よく図書室で見かけるようになったものだから、わたしのトークで魅了したの」
「すごいですね、先生」
「感心しすぎよ、大貴。――甘い言葉とお菓子を餌に、司書室に引っ張りこんで説き伏せたと思わない、翔?」
「間違いない。俺たちのときと同じ手口だろうな」
「ちょっと、ヒソヒソ話をしないで。わたしも話の輪に加わりたいわ」
「仲間はずれは良くないよ、二人とも」
「チャラチャッチャッチャラッチャー」
「チャラチャッチャッチャラッチャー」
「受け流させないわよ」




