#033「於菟、茉莉、不律、杏奴」
「昨日は新しいスマート・フォンが発売されたとあって、行列の様子や新機能を紹介する番組が多かったよね」
「裏に総務省の文字が刻印されていることに関する賛否の声や、箸の上げ下ろしまで口を出すような販売指示に対する懸念も広がってるみたいだけどな」
「熱狂的な人気を誇ってるのを良いことに、売り手に無理な要求を押し通すような戦略は、共感できないところね」
「いくらビジネスとは言え、弱みに付け込むような手法は感心しないところだね」
「有識者の報告書を受けて、公取委がどう動くかが気になるところだ。――今朝は、中庭が立ち入り禁止になってたな」
「スズメバチの巣があったって話よね」
「朝は気付かなくて、昼休みに行ったときには、パイロンもコーン・バーも無かったんだ」
「午前中に駆除できたんだろう」
「刺されたという話は聞かないし、救急車が来た様子も無いから、誰にも被害が無かったようね」
「刺されてアナフィラキシー・ショックが起きたら、一大事だったね」
「手足に刺し傷が残るだけじゃ、済まないものな。――咲いたコスモス、コスモス咲いた」
「公式の覚えかたとして出来が悪いと思うわ、それ」
「教育上、あまりよろしくない覚えかたも、あるにはあるんだけど」
「古文、化学、歴史、英語。機械的に覚えることが多すぎる」
「あぁあ。早く、そういう細かい情報を全部記憶してる機械を使うのが当たり前の世の中にならないものかしら」
「十五年くらい先なら、そういう教育制度が整ってるかもね」
「それまでは、ペーパー・テストを受け続けなきゃいけない訳か」
「せめて、採点が辛い先生に当たらなければ良いんだけど」
「採点基準もそうだけど、テストの配りかたにも不公平があると思うんだよねぇ」
「配りかた?」
「たぶん、山内は一番最後に配られることが気に食わないんだろう。なっ?」
「それに加えて、テストが終わったら真っ先に集めて回らないといけないのが、納得いかないんだ」
「わずかな時間だけど、あと一問か二問解こうと思えば解けるくらいの違いが、最前列と最後尾のあいだであるのは確かね」
「そんなことを言い出したら、職員室から教室までの距離の違いも不公平だってことになるぞ?」
「それは建物の構造上、どうしようも無いけどさ。でも、始めに前から配って、終わりに前の人が後ろに集めて回ることくらいは出来るでしょう?」
「そもそも、五十音順で座席が決まってるのも変な話よ。ねぇ、誰が座るか当日までわからないように、試験日の朝にクジ引きで席を決めるってのは、どうかしら?」
「机や椅子にカンニングの仕掛けをすることは無くなるだろうが、行き過ぎた平等主義じゃないか?」
「僕も、そこまでする必要は無いと思うし、もし、そういうことを提案する先生がいたら、迷惑だと思う」
「たしかに、先生側から提案されたら異議を唱えたくなるものね」
「依怙贔屓やイジメに加担する教師も居るからなぁ」
「問題があるのは、生徒の親だけじゃないんだよねぇ」
「学校以外の社会を知らない人間に、社会人になるためのイロハを求めるのも無理な話かもしれないわね。――そろそろ報告に移りましょう。昨日の放送後に決めたことも、同時進行でお願いね」
「オー・ケー。俺からは、国内の少年犯罪や自殺者数が、実は大幅な減少傾向にあるという統計情報、千葉の大学で喘息の発症の仕組みが解明されたという情報。それから、島根県出身の関脇が、二人の横綱と三人の大関を破る快挙を成し遂げたという情報。以上の三点だ。――ここから一枚引けば良いんだな?」
「そうだよ。僕からは、実は戦前にも、外国風の当て字の名前や古風な名前が流行した時期があったという情報、公認のナマハゲになれたり、正式に河童を捕まえることができたりといった、一風変わった資格に関する情報、作家や監督ゆかりの地やアニメの舞台になった場所の中から、全国八十八ヶ所がアニメ聖地に選定されたという情報、某人気アニメとコラボレートした新幹線の運行が、声優の車内アナウンスともども期間延長されることになったという情報の四点だよ。――僕は、こっちにするね」
「あたしからは、メニューや店員さんから、美味しい飲食店を見抜く方法と、シナモン・ロールや杏仁豆腐が美味しい、珈琲と輸入食品の某ショップに関する情報。あと、生産が追い着かなかったり、台風の被害に遭ったりで、惜しくも販売休止になった食料品に関する情報。以上の三点よ。――残った一枚を開けるわ。はい」
「黛がクイーンか」
「すると、キングは五十嵐くんだね」
「それじゃあ、ジャックの大貴からお願いね」
「トリは俺か。――それにしても、このトランプが役に立つとはなぁ」
「誰が置いて行ったのか分からないけど」
「全部で四十七枚しかないのよね」
「絵札が欠けてないのは、幸いだったな」




