#032「天真爛漫な笑顔」
「ヘア・カットの練習模型が捨てられてると、生首かと思ってゾッとするわよね」
「精巧な彫刻作品やマネキンも、粗大ゴミに出てると、朝から驚かされる」
「心臓に悪いよね。――その雑誌は何?」
「お店に置いてた、先月号のファッション誌」
「男は女のココに注目! モテる女の極意、か」
「男性誌で、逆の特集をしてそうだね。参考になる?」
「首を傾げたくなる情報も多いけど、笑顔が素敵な人がモテるのは、たしかだと思うわ」
「あと謙虚で、問題意識を持って行動できる人間だな」
「それから、感謝を忘れないことかな。僕のおばあちゃんは、いつも言ってることなんだけど、アリガトウとゴメンナサイが言えない人間からは、だんだん他人が離れていくんだって」
「徐々に減っていくところが怖いところよね」
「誰も信じられず、誰にも頼れない状況は、一番堪えるよな」
「人間、一人で生きられないものね」
「深いわね」
「人間性も重要だが、他人を思い遣るためには、経済面での余裕も無いとな」
「働いても働いても、楽にならない暮らし」
「働きすぎよ。一人欠けただけで駄目になる会社なら、会社として駄目よ」
「言うは易し、だがな」
「それを変えていくのが、僕たちの役目だと思うよ。このままでは、ねぇ」
「残業で何とかする姿勢は、変わりつつあるみたいだけど。生涯独身者が増えるのも道理よ」
「二十歳以上三十五歳未満男女のうち、異性の交際相手の居ない独身者は、男性で七割、女性で六割に上るそうだ」
「同性愛者は蚊帳の外なんだね」
「マイノリティーは、役人にとっては統計誤差でしかないのかもしれないわね」
「最大多数の最大幸福か?」
「ベンサムの功利主義だね。市場に任せると過不足が生じることを補完するのが、公の仕事のはずなのにね」
「声を上げていかないとね。――さて。今日の報告を始めるわ。あたしからは、米国から日本に初上陸するグルメに関する情報と、シー・エムやドラマに出てきた料理の再現レシピに関する情報の二点よ」
「いつも通りに戻ったな」
「僕からは、これから始まったり、すでに人気を集めているアニメ映画展に関する情報、某社の時計とワイヤレス・イヤホンと自動運転車に関する最新情報、ブイ・アール技術を駆使したゲームが体験できるイベントに関する情報の三点だよ」
「新しいテクノロジーには、期待が高まるわよね」
「まるでエス・エフの世界だな。超管理社会にならなきゃ良いけどな」
「環境省のサイトがサイバー攻撃でダウンしたってのも、パニック映画の序盤にありそうだよね」
「全くリスクの無い技術は無いわ。人間が考えることだもの」
「メリットとデメリットを天秤に掛けて、どっちに傾くかだろうな。――俺からは、生半可な理解でやると、かえって病気に繋がる健康法に関する情報、効率よく筋肉をつけるトレーニング方法の情報。それから、五輪閉会式の引継ぎセレモニーの舞台裏についての、演出家のインタビュー記事。以上の三点だ」
「生兵法は怪我の元。――それで、どうする? 今日も報告順で行く?」
「そうしましょう。それで、これからは輪番制にしましょうよ。居ない日は飛ばすとして」
「面倒だからか、黛?」
「誰から話すか決めるのも、楽しみのうちだったんだけどなぁ」
「ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃないのよ」
「あぁ、いや。気分を害したわけじゃないんだ。何も、謝らなくても」
「僕も気にしてないよ。スマイル、スマイル」




