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#029「あれこれ、それどれ」

「華奢で、どこか貴族っぽいデザインの眼鏡ね」

「貴族っぽいって何だよ。――いつもと違う眼鏡だな。買い換えたのか?」

「いつもの眼鏡のレンズを換えてもらってるから、前に掛けてた眼鏡を使ってるだけだよ。――黛さんが思い描く貴族って、どんなイメージなの?」

「馬に乗りこなし、颯爽と狩りに出掛け、テニスやゴルフで汗を流し、バイオリンを弾き、薔薇を育て、紅茶を嗜む」

「英国紳士だな。古い眼鏡でも、ちゃんと視えてるのか?」

「度が緩いから、少しぼやけてるよ。でも、原稿くらいは読めるから安心してね」

「この指、何本?」

「立ててるほうか、折ってるほうか? ――高卒の求人倍率が二十三年振りの高水準、か」

「立ててるのは二本。――景気の良いニュースだね」

「正解。――就職組には、嬉しいニュースね」

「そろそろ、報告を始めよう。俺からは、広島の優勝セールに関する情報、レスリング選手が国民栄誉賞を受賞したという情報、中学生ジェー・リーガーが誕生したという情報の三点だ」

「どれもスポーツ関連だね。――僕からは、日本や日本人で認定された世界記録に関する情報、実写映画が好評だったことからアニメ化が期待されている作品に関する情報、北海道で人気のガサエビが新種であると判明したという情報、大阪の大学で脂肪肝のメカニズムが解明されたという情報の四点だよ」

「ガチョウなら、フォアグラとして美味しくいただけるんだけど」

「何でもかんでも食べようとするな」

「喫人は、科挙、宦官、纏足と並ぶ奇習だよ」

「世界史図説より、ね。――あたしからは、秋茄子の美味しい食べかたの情報、某チェーン店の骨付き鶏の骨を使った料理の情報、日本茶の有名メーカーが紅茶飲料に梃入れしたという情報、コンビニで販売中のサラダに、アレルギー表記が抜けていたとして自主回収したという情報の四点よ」

「高級志向や安全志向に対応しなきゃいけないから、飲食業界は大変だな」

「アレルギーは、最悪の場合、死に至ることがあるからねぇ」

「よく聞く表現だけど、命を落とす以上の最悪があるとは思えないわ。おかしくないかしら?」

「いやいや。そういう意味じゃない」

「その原因から招きかねない数多の事象のうち、もっとも重篤なケースが死亡であるということだよ」

「紛らわしい言葉遣いね」

「消費者に誤解を与える表現をしてはいけないという制約があるからなんだが」

「かえって正確な理解を妨げてる気がするね」

「言葉選びって、難しいわよねぇ」

「言いかた一つで、受ける印象が変わってしまうからなぁ」

「駟も舌に及ばず、だね。――レンズが曇ってるなぁ」

「どういう意味?」

「諺か?」

「論語の一節でね。一度口に出した言葉は、四頭立ての馬車でも追いつけないほど、素早く広まるものだから、慎重に言葉を選ばなければならないとの意味だよ。――軽く拭いておこう」

「そういう言葉がスッと出て来るところが、大貴の凄いところよね」

「脳内が一大書庫になってるんだろうな」

「大半は埃をかぶってそうだけどね。――それより、話す順番を決めないと」

「あぁ、そうね。報告が自然な流れだったから、忘れてたわ」

「もう、報告順で良いんじゃないか?」

「そうだね。――あ!」

「どうしたの? ――あぁ」

「フレームが折れたみたいだな。裸眼で読めるか?」

「これくらい近付ければ、何とか」

「原稿を机に置けないから、ノイズが入るかもしれないわね」

「冒頭で説明すれば良いさ。――あと、一分」

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