#002「逃げるが勝ち」
「あったか?」
「いいや。この棚ではないみたい」
「黛の奴め、どこに書類を置いたんだ? 部長として、管理責任を問いたいところだな」
「そんな部長を支えるのが、副部長の五十嵐くんの役目じゃないの?」
「こうなるんなら、初めから書記の山内に預けるべきだった。部室にあるのは、確かなのか?」
「あるとすれば部室なんだって」
「ごめんね、遅くなって。見つかった?」
「まだだ」
「放送後に、もう一度探そうよ。原稿を考えないと」
「あたしからは、食べ物に関して二点。回転寿司が一皿九十円に値下がりしたという情報、大阪の某ロール・ケーキの有名店が、類似品の販売差し止めを求める訴えを起こしたという情報を入手したわ」
「また値下げか。下請けやアルバイトに皺寄せが行かなきゃ良いけどな」
「安易に模倣できる程度のオリジナリティーでも、はたして守るべきなのだろうか?」
「あたしとしては、真似されるようになったら、また新しいことを始めたほうが良いと思うんわ。ひとつの成功に縋りすぎるのは良くないもの」
「しかし、権利は守らないと駄目だろう。――俺からは、三点。地図ナビゲーションの案内音声が、ロボット・ボイスから生身の女性の声に戻ったという情報、携帯端末やパソコンでワン・セグメント放送を視聴していることは、受信料徴収の根拠にならないという判決が出たという情報、フィンランドで最低所得保障が試験導入されることになったという情報を手に入れた」
「僕の情報と共通するところが多いね。僕からは、アイ・ティーと交通に関して。マニュアル化されている仕事を中心に、人工知能への置き換えが進んでいくという情報、スマート・フォンにアイ・シー乗車券機能が追加されるかもしれなかったり、イヤホン・ジャックの廃止にトップが反対していたりするという情報、五輪による交通規制を見据えて、都内の地下鉄で貨物列車の運行計画が進められているという情報の三点だよ」
「細かく見れば、四点ね。今日は、いつになく話がバラバラね」
「今の部室の状態と同じだな」
「どこから片付けたら良いか検討がつかないくらい、散らかってるよね」
「もう時間が無いわ。今日は、ぶっつけ本番で行くしかなさそうね」
「放送事故にならなきゃ良いけどな」
「心配しすぎると、心配したことが現実になるよ、五十嵐くん」
「何とか話を継ぐしかないわ。締まって行こう!」




