#028「ノスタルジア」
「昭和のドラマにありそうなこと」
「トレンチ・コートを着て、煙草を吹かしながら電柱に隠れつつ尾行する探偵」
「被疑者の自宅付近に車を止めて、出て来るまで張り込む刑事」
「それで、新米がアンパンと珈琲牛乳を買ってくるんだよねぇ」
「他には、そいつを捕まえてぇって言われながら追いかけられる泥棒」
「葱か大根か牛蒡がはみ出た籐のカゴを抱える買い物客」
「舞台が欧州なら、紙袋に入ったバゲットを小脇に抱えるフランス人だね」
「それで、坂道で落としたオレンジを拾ったところから恋物語が始まるのよねぇ」
「それから、雨宿りをしてるところに、傘に入るよう勧めてくる異性」
「発車間際までホームで別れを惜しむ恋人」
「教え子と結ばれる高校教師」
「身近に実体験者が居るから、あながちフィクションとも言い切れない設定なんだよなぁ」
「あとは、院長を先頭にゾロゾロと医者が連なる総回診」
「機内で乗客の体調が急変したことによる、お医者様はいらっしゃいますか、のアナウンス」
「寸前で乗り遅れたバスを、必死で追いかける会社員。――ミステリ、ファミリー、ロマンスは、こんなところだな」
「スポーツや、ホラーも考えないとね」
「アンケートの集計って、結構、骨が折れるわね。もっと楽にできないかしら?」
「こういうのは、横着せずに地道にやるのが一番早いものだ」
「入れ物に、手書きしたものを投票するスタイルって、古代から変わらないよね」
「アナログにも程があるわよ。労力を省く方法を考えるべきよ」
「考えられてきたけれども、これ以上に手間が増える方法しか考えられなかったから、この方法が脈々と受け継がれてきたってところだろう。いいから、手を動かせ」
「五十嵐くんは鬼監督だね、黛さん」
「もしくは、廃墟で真っ先に殺される空威張りね」
「聞こえてるぞ、二人とも」
「おまけに地獄耳だね」
「鬼じゃなくて、冥王かもしれないわね。もしくは、その番犬か」
「誰がケルベロスだ!」




