#024「腹の虫の居所」
「その眼鏡ケースは、手作りか?」
「そうなんだけど、作ったのは僕じゃなくて、おばあちゃんなんだ。材料は、密林から届く荷物が入ってた段ボールだよ」
「あぁ、あのインター・ネット通販の箱ね。必要以上に丈夫だものねぇ。――ハワッ、アァア」
「寝不足みたいだな、黛」
「季節の変わり目だから、睡眠を充分に摂らないと身体に障るよ?」
「心配いらないわ、大貴。もうすぐ制服の移行期でしょう? 半袖開襟シャツは両胸にフラップ・ポケットがあるのに、長袖カッター・シャツはポケットが無いことや、詰襟は腰ポケットが二ヶ所あるけど、胸ポケットと内ポケットと袖飾り釦は無いことや、女子のセーラー服にはポケットも釦も無いことを考えてたら、変に頭が冴えちゃって」
「寝る前になってまで、ゴチャゴチャと取りとめの無いことを考えるなよ」
「睡眠不足は身体に、すごくストレスを溜めるんだ。鼻から四秒吸って、そのまま七秒止めて、口から八秒吐くと、副交感神経が鎮まって自律神経が優位になるから、身体がリラックスして寝付きが良くなるよ」
「良いことを聞いたわ。今夜、試してみるわね」
「俺も試してみよう。――十五年ぶりのシングル盤リリースに、二十五年ぶりのリーグ優勝」
「何年ぶりかの何とかって情報が多いわね」
「でも、何といっても一番は、この出来事じゃないかな?」
「同時多発テロから丸十五年、か」
「ダブリュー・ティー・シーに飛行機が追突する映像は、いまでも衝撃の光景として眼に焼きついてるわ」
「とても現実に起こった出来事だとは思えない映像だったでしょう?」
「まるで、パニック映画のようだったな。――東日本大震災からも、五年半が経つんだな」
「それも、十一日に起きた出来事だったわね。津波で、みるみる水位が上昇して家屋を押し流していく映像が、緊急放送で何度も流れてたのを覚えてるわ」
「地震発生から数日間は、同じ映像、同じシー・エムの繰り返しだったよね」
「未曾有の事態でマス・コミも混乱してたんだろうけど、もう少し柔軟に対応できたんではないかと思わずにはいられないところだよな」
「テレビ業界に蔓延する馴れ合い体質が、あれで一気に浮き彫りになったわよね」
「都市機能の脆弱さも露呈したよね」
「買占め防止や、計画停電が行なわれたんだよな」
「食べたい物が食べられないのは、本当に辛かったわ。――秋刀魚の塩焼きか、焼きトウモロコシが食べたい気分だわ」
「誰か、この怪獣の食欲を抑える道具を」
「僕の鞄やポケットには、もう食べ物は入ってないよ」
「ねだった訳じゃないのよ、大貴。――それから、翔。ドサクサに紛れて、あたしを化け物呼ばわりしないでちょうだい」
「言われたくなかったら、食べ物の話を頭の外に出すんだな」
「秋の味覚を堪能したいという気持ちは、むしろ健康的だと思うけどなぁ」
「フォロー、ありがとう。――反論材料には事欠かないけど、そろそろ時間だから、放送を始めるわ。覚えてなさい」




