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#023「他力本願では」

「今朝は参ったわよね」

「不可抗力だけど、弱ったよね」

「ん? 通学中に何かあったのか?」

「そっか。翔は自転車だから知らないのね」

「人身事故の影響で、乗ってた電車が信号待ちに引っ掛かっちゃってさ。四十分ぐらい満員の車内に閉じ込められたんだ」

「災難だったな。いつもより遅刻が多かったのは、それでか」

「今回は私鉄会社から連絡が行ってたみたいだから、誰も何も言われなかったけど、もしもに備えて早めに行動するようにっていう、お決まりの説教には辟易するわよね」

「自分は授業時間内に範囲を終わらせられないことが多いのに、セルフ・マネジメントの大切さについて説かれても、説得力が無いよね」

「指導力不足の教師に限って、責任を生徒に転嫁して反省しないんだよなぁ」

「薄毛の人に限って、熱心に育毛剤や整髪料を勧めてまわるのと同じね」

「フフッ。――話を変えるけど、フィンランドの教育制度を例に、北欧諸国は質を高める傾向、日本を含めて東アジアは、量を増やして対応する傾向にあるという主張が載ってるんだけど、どう思う?」

「一斑を以って全豹を知るような、こじつけがましい感じが否めないところではあるが、下手なプレゼンで配られがちな、つぶさに目を通すことのないまま読み捨てられる大量の参考資料を考えると、あながち間違って無さそうな気がする」

「料亭で出される、到底、食べ切れない量の懐石料理も、過剰サービスだわ」

「至れり尽くせりも度を越すと失礼になるから、匙加減が大事だよね」

「その塩梅が難しいんだがな」

「でも、相手の気持ちを考えないで、これだけやれば大丈夫だろうって自己満足してるようでは、いつまで経っても進歩しないわ」

「そうだね。――話を戻すけど、学校教育で自分で考える力を養わないと、社会に出てから何の役にも立たない人間が出来上がってしまうという記述もあってね。僕としては、指示待ち人間が問題になってる日本社会に対する痛烈な批判だと思ったんだ」

「お上の言うことを盲信する姿勢や、暗黙の了解を守るよう無言の圧力を掛ける体制には、声を上げないといけないな」

「ルールは上から押し付けるものではなく、下から醸成されるべきものよ」

「理想論だとして一蹴するのは容易だけど、先延ばしにすれば、いずれは取り返しの付かない破綻を招くよね」

「すでに足元が崩れつつありそうだがな」

「自然災害は防ぎようが無い部分が大きいけど、人災は避けたいところよね」

「何だか、いつ爆発するか分からない弾薬が地下に埋まった状態で、暢気に浮かれ騒いでいるような、底知れない恐怖を感じるなぁ」

「まぁ、深刻に考えすぎると絶望するだけだ。俺から言い出しておきながら発言を翻すようだが、杞憂に終わると思っておけよ、山内」

「物語の主人公みたいに、悲観に溺れてはいけないわ」

「ごめんね。つい、考え込んでしまったよ。真剣に考えないといけないけど、深刻になっては駄目だよね」

「そう、そう。――それじゃあ、そろそろ店を出よう」

「そうね。今日は、もう帰るの?」

「まだ遊び足りないって顔だね」

「私服に着替えて来て正解だったな。――選択肢としては、カラオケ、ダーツ、ビリヤード、ボウリングといったところか」

「全部、同じ施設ね。まっ、この近くで遊ぶとなると、そこに行かざるを得ないか」

「年々、大型複合施設に集約される傾向が強くなってるよね」

「何をするかは、ともかくとして。ひとまず、ここから移動しようぜ」


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