#019「読解する力」
「今日は、滞りなく進行できたな。――悪いが、そこに戻してくれ」
「これ、本来はペン立てじゃなくて、歯ブラシ立てなんだけどなぁ」
「ここで歯を磨く人間なんかいないから、気にしなくて良いじゃない。――話を戻すけど、もし仮に、あたしが翔と付き合っていたとして、そこで大貴が翔をナンパして二人が付き合い始めたとしたら、翔は大貴と浮気してることになるの?」
「何だか、ドラマか映画みたいな話だな」
「問題作にされそうな際どさだね。例えが僕たちなのが、余計に生々しいよ」
「質問に答えてよ」
「俺は、違うと思う。それが浮気だとしたら、もう家族以外とは誰とも付き合えなくなりそうだし」
「あとは、次元が違う世界しか残らないかも」
「サブ・カルチャーから離れてよ、大貴」
「まぁ、そう言わずに好きに話させてやれよ。言いたいことがあるんだろう、山内?」
「五十嵐くんには、体育の待ち時間に話したんだけどね、八十年代初めから九十年代初めにかけてが、週刊少年漫画誌の黄金期といわれているらしいんだけど、僕が思うに、これは当時、小学生だった団塊ジュニア世代が挙って購読を始めて、大人になっても継続して読み続けてるだけのような気がするんだけど、どう思う?」
「その通りじゃないかしら。スーツを着た社会人が、ビジネス鞄から徐に取り出して読み耽ってる姿は、よく見かけるもの」
「俺としても、団塊世代に次いで人口にボリュームがあるから、この世代の人気が取れるかどうかが売り上げ量を左右するポイントになってることには、間違い無いと思うんだ。――フム」
「雑誌の休刊が相次ぐ中で、異様な人気だと思うんだよねぇ。――何か気になる記事でもあったの、五十嵐くん」
「大御所が引退を仄めかしたり、病気や怪我で活動休止したり、昭和のアイドルが復活したり、政界入りを果たしたり、米国に進出したアーティストが帰国したり、占いに凝る俳優が増えたり、芸能界も色々あるみたいだな」
「競争が激しい人気商売だから、言動には慎重さが求められるよね」
「大手プロダクションにしろ、独立事務所にしろ、すべて自己責任だから大変よね」
「たとえプライベートであっても、不特定多数が集まる場所では礼儀正しさが求められるようになってるよな」
「暴言や奇行がエス・エヌ・エスに晒されたら、取り返しがつかないからね」
「インターネットでの発言が現実生活に悪影響を及ぼすことは、どうしても避けられないものなのかしら?」
「たとえアカウントが本名で無いとしても、口癖や行動パターンから個人を特定するのは容易だもんなぁ」
「いつでも、どこでも、誰かと繋がっている状態が、必ずしもプラスに働く訳では無いよね」
「偽のアカウントで詐欺を働く、悪質な連中もいるものね」
「ひと昔前は情報を入手するのが困難だったそうだが、これからは巷に溢れる情報を、いかに取捨選択するかが鍵だな」
「それ、前にも同じようなことを聞いた気がするなぁ」
「物忘れが始まったのかしら、おじいさん?」
「年寄り扱いするな。大事なことだから繰り返してるんだけだ」




