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秘密はバラすものじゃない

「つまり、疑り深くなろうとしたのをきっかけに、人のオーラが見えるようになったのですね。そのオーラではじめての人物でも性格、善意や悪意の判別が可能。今回の事件も悪意あるオーラが見えたので、事前に気付くことができた、と。そういうことですか?」


 荒唐無稽なのは百も承知ですが、殿下の質問に私には『はい、そうです』以外に返す言葉がありません。


「では、私を見ないのはなぜ?」


「殿下は……眩しすぎて……。太陽が隣にいるような感じで、目が潰れそうで直視できません」


 殿下とグレン様で顔を見合わせています。そうですよね、そういう反応になりますよね。


「嘘をついているようには見えませんね。とりあえず検証させてもらいましょう。グレン、何人か……そうだな、覆面でもさせてからここに連れてきなさい」


「畏まりました」


◇◆◇


「これは信じるしかないですね」


 しばらくして、グレン様が連れてこられた人物は全部で三人。覆面どころか、頭から爪先まですっぽりとローブで覆い、男性か女性か年配か子供かもわからない状態で連れてくるという念の入れようです。

 ちなみにオーラは、暗めの紺の人、中心の赤を覆うように黄色の人、鮮やかな紫の人、でした。要するに、真面目で誠実ですがややネクラな人、本当は熱い性格なのに普段はお調子者のふりをしている人、信仰心が強く直感や感性で生きてる人、と説明したところ先程のお言葉をいただきました。

 ぶちまけましたが……、助かったー。


「ランドール嬢の潔白が証明されたところで、お願いがあります」


 グレン様の笑顔に私は身を引きました。どう見ても良からぬことを考えているオーラです。


「ここにいる間、できるだけ長く殿下のお側にいていただきたい」


「お断りします」


 私は瞬間的に頭を深く下げました。頭を下げた後に、私は人間警報器か! とツッコミを入れます。


「タダでとは言いません。ここでの貴女の生活全般と安全の保証。報酬としてご実家への資金援助、立て直す手助けをする専門家の派遣。働きによってはボーナスも支給します。現在のランドール嬢の立場は妃候補ですが、殿下の側にいて不都合はありません。もちろん殿下を虜にしていただき、そのまま第三王子妃になっていただいても結構ですよ」


 最後余計な話も盛り込まれていましたが、破格の申し出に思わず顔を上げて、ニヤリと笑うグレン様と目があってしまいました。微妙な敗北感がわきます。


「第三王子妃はないとして。でも、そんなに長くは……」


「即答ですか。見込みがないわけじゃないと思いますが。妃候補の立場では、せいぜい長くても一年程でしょう。殿下の年齢的にも早急に片を付けなければならない事案ですから」


 グレン様は、やたら人の発言にかぶせてきますね。追い立てられているようで、余計にしどろもどろになってしまいます。しかし、ここで疑問が。


「殿下っておいくつでしたっけ?」


「……二十二です」


 興味がないので基本情報がぬけてました。殿下が不服そうな声色です。そう言えばお顔を拝見したことがないので、髪と瞳の色も知りません。今更聞けませんし、図書室に行った時に絵姿でも探してみましょう。

 それにしても、どんどん退路が断たれていく感じがします。非常にまずい状況に、ない胸の谷間を冷や汗が流れます。

 しかし、なかなか返事をしない私に、グレン様はあっさりと止めを刺しにきました。


「まぁ、どちらにしろ、貴女が首を縦に振らなかった場合、ランドール家に第三王子からご息女を嫁に貰いたいと告げます。そして貴方が言うことを聞くように、遠回しにご実家がより困窮するよう圧力をかけることになります。そして用が済めば捨てる。さぁ、どちらがお好みですか?」


 契約して対価を得るか使い捨ての奴隷になるか、私の能力提供はどちらに転んでもしなければならないのですね。秘密は秘密のままにしておくべきでした。グレン様に目をつけられた時点で、断るという選択肢はなかったようです。


「……人間警報器、お引き受けします。ですが! 殿下の婚約者としてではなく、グレン様、もしくは殿下とほぼ行動を共にする方の婚約者、この際実質がなければ妾でもいいです! とにかく殿下以外の方にしてください!」


 私の申し出にグレン様は目を開いてビックリしています。意表をつけたことに、少し溜飲が下がります。


「おい! ちょっと待て! 俺でなければ妾でもいいだと!? なぜそんなに俺を拒否するんだ!」


 拒否というか、いえいえ、それよりも……。


「殿下、化けの皮が剥がれていますよ」


 そうですよ! しかし、グレン様が冷静なところを見ると、どうやらこちらが殿下の地のようです。


「そんなことはもうどうでもいい! リナは俺の何が気にくわない!?」


 殿下は叫ぶと私の両肩をガシッと力強く握りしめてきます。捨てた化けの皮を、いいえ、素敵な猫の皮を拾って被りなおしてください! 肩が砕けるー!


「おい! こっちを向いて訳を話せ!」


「む、無理です! 絶対無理!!」


 私は肩の痛みに耐えながらも最大限に顔を背け、必死で距離をとろうと踏ん張ります。

 殿下のような方を私のような者が袖にするなど言語道断で、おかんむりなのはわかります。しかし、これには訳があります。嫌がらせに難癖つけてるのではないのですよ。


「気にくわないなんて、違います! ただただ眩しいんですよ! 目が大事なんです! 大体、気にくわないとか言えるほど殿下のこと知りませんし! それにせっかく仲良くなりはじめたのに、女の友情にヒビが入るじゃないですかっ!!」


「「……」」


わずかな沈黙の後、聞こえてきたのはグレン様の失笑。殿下は少し納得していただけたのか、肩から手を離してくれました。

 いや、納得はしてないみたいです。なにやら『なぜそんなに眼中にないんだ……』とか『今までの対応では……』とかブツブツ聞こえます。

 よくわかりませんが、眼中に入れたら失明の危機ですのでその言葉は看過(かんか)できません。


「僕の婚約者ですか。それはそれでなかなか面白いです。捨てがたい案ですが、その立場では殿下と行動を共にするには無理がありますね」


 そうは言われましても、私にも譲れないものがあります。えぇ、先程述べました通り。主に目の安全と、まだ伸び(しろ)がありそうな女の友情です。

 私の不服そうな表情を見てグレン様が頷きます。


「わかりました。では、侍女として殿下についてください。偽名を使って変装すれば『リナ・ランドール』の名誉も女の友情も守られるでしょう」


「一番大事な目の安全が守られていません!」


 とうとうグレン様が肩を震わせて笑い始めてしまいました。私には楽しいことなど一つもありません。不愉快です!


「そこは殿下を視界に入れなければいいでしょう。くくっ。気を配って欲しいのは、あくまで周囲です」


 どうあってもこれ以上の譲歩をするつもりはないようです。間に笑いを挟んでくるなんて、ずいぶんと過ぎた挑発行為ではありませんか。こうなったらやってやりますよ!


「わかりました! ちゃんと実家の資金援助と人員補助をしてくださいね。それに私の面倒もしっかり見てください。私は手がかかりますから。あ! これ、ちゃんと紙面にしたためてください!」


 最早笑いを隠そうともしないグレン様に、私の怒りは最高潮です。後で振り返ればもう少し言葉に気を付けていれば良かったのですが、この時の私にそれを求めるのは無理というもので。頭の煮えくり返った状態では、隣で不穏な気配を発している殿下のことなど、まったく知る由もないのでした。



本日もありがとうございます!


やっとジルベルト様の猫がとれましたー。

ここから徐々に甘くしていく予定です(//∇//)

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