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第三王子は発光ブツにつき、直視注意!  作者: 山田桐子
書籍化御礼企画・番外編
56/57

本日の語学の授業

『第三王子は発光ブツにつき、直視注意!2』が本日3月20日に発売となりました。

皆様のおかげです。ありがとうございます。


お礼としましてショートストーリーを1つアップしました。

こちらのSSは2巻のオチに通ずる内容となっております。もし2巻を購入予定でネタバレ厳禁な方はご注意ください。

もちろん単品でも楽しめる内容となっております。


では、お楽しみいただけますように!

 本日はトリアンナ様、ジル、私の三人で「おみせやさんごっこ」をします。ふざけてるわけではありません。これはれっきとしたローク語の授業です。

 前回の反省を多分に生かしてこの場にのぞみましたので、私の気合いは十分です。


 まずは配役です。店主・私、お客さん・ジルとトリアンナ様。

 これで今回は客が店主に難癖をつけて言い合いがはじまるパターンは阻止できるはずです。

 そして商品展開。こちらもマリーベル様協力のもと、町で今時の女子が好きな雑貨を集めました。ジルやトリアンナ様から見ればオモチャのように見えるかもしれませんが、私も若い女の子の区分です。これなら楽しく店主役ができそうです。

 前回トリアンナ様が店主をした際の正札も出さない高級店は、今日ここには存在しません。あれは緊張感が半端なくて駄目です。すでに序盤から和気あいあいとごっこ遊びをする雰囲気ではありませんでした。手に汗握って、お金も湿っていましたし……。


 ですが回想もここまでです。

 今日は準備万端、ぬかりはありません。商品を並べたテーブルを挟んで、いざ! 「おみせやさんごっこ」開始です! 


『いらっしゃい、ませー』


 客商売は笑顔が命。呼び込みのかけ声は拙くとも、愛想を振り撒くことは忘れません。


『普段見ない物が多くて面白いな。手にとってもいいか?』


『どーぞー』


 意外と楽しそうに食い付くジルに、にこやかに対応します。


『どれがお勧めかしら?』


 今度は一通り商品を眺めつつトリアンナ様が聞いてきます。最後に目を留められたのは小鳥を型どったブローチで、私は思わずニッコリとします。その小鳥のブローチ、可愛いですよね。実は私も目をつけていました。

 色や形違いで数種類あるのですが、うーん、お勧めと言われると……。


『えー、ぜんぶ、おすすめ、でっす。でもー、お客様には、このキイロの鳥が、かわいーと、思いまっす』


 どの色も形も捨てがたくあるものの、トリアンナ様に勧めるとなれば、瞳の色に近い黄色の小鳥でしょうか。

 私はブローチを手に取ると、トリアンナ様の胸元にあてがって見立ててみます。


『似合うかしら?』


『はい! とても、かわいー、でっす!』


 首をかしげるトリアンナ様に、私は笑顔で受け合います。

 というか、今のやりとり自然じゃないですか? コレですよ、コレ。こんな感じで和やかに楽しみたかったんです。素晴らしい!


『こちらの店は良心的なんだな。どれも可愛らしく手に取りやすい価格だ』


『ありがとうござい、まっす』


 ジルが見ているのは猫とリボンをモチーフにしたイヤリングです。それも可愛いですよね。黒猫とピンクのリボンのものが私的にはイチオシです。


『俺も婚約者にプレゼントしたいから、見立ててほしい。ちなみに、君が一番好きなのはどれだ?』


 お客さん役をこなすと見せかけて、もしかしてこれ、私にどれかプレゼントしてくれるって言っていますか? 役柄上はっきりと聞けなくて目をパチクリさせると、ジルが笑って頷きます。

 わぁ! 嬉しい! 良心的なこちらの雑貨なら気兼ねなく喜べます。そしておねだりするならその猫のイヤリングも捨てがたいですが、やっぱりここはトリアンナ様とお揃いの鳥のブローチがいいです。

 うきうきとジルを見れば、ご機嫌に笑いかけてくれました。


『……。ねぇ、わたくし、決めたわ』


 おっと、接客業はタイミングが命。販売機会を逃してはいけません。トリアンナ様がご購入するようなので、私はいったんジルから視線を移します。

 さて、トリアンナ様はどちらにお決めになったんでしょうか。私がお勧めしたものは気に入っていただけたでしょうか。わくわくして待ちます。


『ここからここまで、全ていただくわ』


『……えっ!?』


『こちらの店にある商品、全てちょうだい』


『!!』


 私が聞き返したのが理解できなかったと思ったのか、トリアンナ様が言い直します。ですが一度目でしっかり理解はできていましたよ。ただ、今までの流れを無視したいきなりのセレブ発言に驚いてしまっただけです。


『ぜ、ぜんぶ……。ありがとうござい、まっす……』


 呆然としながらも今の私は店主、笑顔とお礼を忘れてはいけません。引きつりながらも口端を持ち上げ続けます。


『お待ちください』


 動揺して動きをとめていると、ジルが割り込んできました。


『それはないのではありませんか?』


『あら。なかなか決めない貴方かいけないのでしょう? 婚約者へのプレゼントとやらは次回にするのね』


 トリアンナ様の言葉にジルが瞬時に半眼になります。

 あ、あれ? 私が店主役をすればお二人が言い合いにならないと思ったのに、なんだか雲行きが怪しくなってきました。

 はらはらしていると、ジルがお顔を背けて私には聞き取れない音量でなにやら呟きます。


『……自分の方に気を引きたいからって、やり方が強引すぎる』


 聞き取ろうと耳に意識を向けましたが、テーブルを挟んでいる私にはわかりませんでした。


『なんですって?』


 ですがジルのお隣にいたトリアンナ様はしっかり耳で拾えたようです。

 そして、絶対ジルってば煽るようなことを言いましたね。トリアンナ様も楽しそうだった雰囲気をしまいこんで、無表情になってしまいました。


『自分にも笑顔を向けてほしいのだと素直におっしゃったらいかがですか? と申しました。焼きもちも甚だしいですね。見苦しい』


『見苦しい? よく言えたものね。そのままお返しするわ。貴方なんて鼻の下を伸ばした締まりのない顔をさらしていたくせに』


 あ、あぁ~、はじまっちゃった……。


『可愛い婚約者を見れば顔が緩むのは当然です』

『一度鏡でその顔を確認することをお勧めするわ。ひどい阿呆面よ。自粛を覚えたらいかが?』

『貴女こそしかめっ面はお控えになった方が宜しいのでは? そろそろ消えない眉間の皺が心配でしょう』

『はっ。胡散臭い笑顔を終始はりつけている人より、余程ましではなくて?』


 早い、早い! 早口すぎて全然わからない!

 超高速の応酬に、右に左にとお二人を交互に見ていたものの、全くついていけずに目が回ってきます。

 そんな私に構うことなく、お二人は視線をかち合わせて火花を散らしています。

 ここまで来てしまっては、もはや私にできることはなにもありません。遠い目をして立ち尽くします。

 この拮抗状態はいつまで続くのかと思っていれば、先に動きを見せたのはトリアンナ様でした。鼻で笑うと勝ち誇ったように言い放ちます。


『……なんと言おうと、商品はないのだもの。こちらは店仕舞いよ。負け犬の遠吠えはもう結構。さぁ、お帰りはあちらよ?』


 ドヤ顔のトリアンナ様を見つめるジルのお顔は、無表情から一転して冷え冷えと微笑みを深めていきます。


『……店主』


 えっ、ここで私!?


『俺はこちらの倍、出そう』


『……はっ!?』


『こちらの出す金額の二倍の値段で買う、と言った』


『!!』


 いや、一回目で理解できてますけど! そうじゃなくって!!


『ジルベルト、どういうつもりかしら?』


『先に吹っ掛けてきたのは義母上でしょう?』


 バチバチバチっ!! と再びお二人の視線の真ん中で火花が散ります。

 結局、本当に結局、どんな役柄でも何をどうやっても喧嘩になっちゃうんですね……。せっかく……せっかく楽しくおみせやさんごっこができていると思ったのに……!

 もー、こうなったら私も言わせてもらいましょう。飽くなきにらみ合いに終止符を打つため、私は店主になりきった台詞を口にします。そう、あくまで店主として、です。


『えー、お客さまー。ケンカは、お店の外で、おねがいしまっすー』


 そして同時に向けられたお二人の視線に、私はしっかりと営業スマイルをもって答えたのでした。










お読みいただき、ありがとうございました。


ちなみに黄色い鳥のブローチは、リナがはじめて見立ててくれたという理由でトリアンナ様が手元でこっそり大事にします。

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