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第三王子は発光ブツにつき、直視注意!  作者: 山田桐子
リクエスト企画2・ロイヤルウェデングに至る日々
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夕焼け前に仁義なき戦い

「ジルベルト、貴方に女性のドレスの何がわかるというのです」

「お言葉ですが義母上、貴女は流行にそろそろついていけないようですね」

「馬鹿なことを。貴方の選んだドレスのどこに流行りの要素があるというのです」

「我が妻となる人がこれからの流行をつくるのですよ。他を真似るだけなどつまらないではありませんか」


 あ、あぁ。思ったよりバトルが激化しています。いつもより激しい言い合いを目の当たりにして、即回れ右をして帰りたい気持ちでいっぱいになります。先程『なんとかなりそう!』などと思ったのはどこの誰だったでしょうか。気が遠くなります。侍女が時間前に私を呼びに来た時点で気付くべきでした。

 いや、いいんですよ。実のところ、お二人はケンカでコミュニケーションしてるんですから。仲良しなんですよね。わかってます。わかっていますとも。ですから是非、周りに迷惑をかけない程度でお願いしたいです。

 私達が入室してきたことにも気が付かずにバトルを続けるお二人に言葉をかけられずにいると、侍女からの熱い視線を感じました。そんな期待たっぷりに見つめられましても……。ですがここで言葉を発することができるのは私だけでしょうから、抜けかけた気をおなかに戻して頑張るとしましょう。


「あ、あの。お義母様、ジル、少し早いのですが私も出来上がったデザインを見に参りました。それにオルディス公爵令嬢、ユーセラ侯爵令嬢、バシュレ伯爵令嬢、リッチモンド男爵令嬢の同席をお許しいただきたいのですが、いかがでしょうか?」


 激しく言い合っていた勢いのまま、二人分の視線がバッとこちらを向きます。

 力強く握りしめていた扇をバチリと閉じたトリアンナ様が不敵に微笑まれました。


「いいでしょう。通しなさい。若い娘の意見も参考にしようではありませんか。ふふっ。ジルベルト、貴方がいかに阿呆な発言をしているかを知るいい機会です」

「ははっ。そっくりそのままお返ししましょう。ご自分がいかに時代遅れかを知って、羞恥で顔を赤くされる様が今から目に浮かびますよ」


 バチバチバチ! というのは私の心の中の効果音です。今日のバトルはいつにも増して本当に激しい。皆様をこんな場所に突入させていいものかためらいが生じますが、今更もう後には引けません。

 トリアンナ様は入室してきた皆様の前に、挨拶もそこそこにドレスのデザイン画を並べていきます。


「まどろっこしいのは嫌だわ。いいと思うものを一斉に指差してちょうだい」


 威圧的に命令されたにも関わらず、皆様は萎縮することもなくお互いに顔を見合わせてタイミングよく指を指しました。驚くことに、ものの見事に全員一致です。


「なぜそれなのです!?」

「なんでそれなんだ!?」


 トリアンナ様とジルが同時に疑問の声をあげました。臆することなく答えたのはメルリア様です。


「リナ様はうなじや肩、背中のラインが美しいのですもの。こちらのデザインが一番お似合いになりますわ」


 メルリア様の発言にお三方が追従します。


「美しい黒髪を結い上げきるのではなく、一筋を胸元側に流されても、こちらのデザインでしたら映えると思いますわ」

「背中はあいておりますけど、ヴェールでほんのりと透けるのなら上品ですし、飾り過ぎるのではなくこうした清楚な方がリナ様にはお似合いになります」

「それに肩口にあしらわれた蝶のデザインがとっても素敵です。これ、絶対流行ると思います」


 推してる理由は皆様らしさに溢れてそれぞれなれど、ここで意見が別れずに良かったです。皆様まで言い合いになったらたまったものではありませんものね。そして恐る恐る私は確認すべきことに触れました。


「それで……お義母様とジルはどれがいいと思ったんですか?」


 私の質問にお二人は勢いよく別々のデザイン画を指差されました。


「……」


 いや。ない。どちらも、ない。


「この贅沢なレース使いをご覧なさい。この国の頂点にいずれ立つリナに相応しいでしょう」


「お、お義母様。私ではこのドレスは素敵すぎて負けてしまうのではな……」

「何を言うのです! 貴女なら着こなせます! 自信をお持ちなさい!」


 買い被りすぎです。コレ、着る人選ぶやつですよ。


「義母上、リナの顔がひきつっているではありませんか。そんな派手なものよりこちらがいいに決まっています。なぁ、リナ?」


「ジル……。式は夏なんですけど、長袖にハイネックってなんだか生地の量が多いよ……」

「花嫁は肌の露出は少なくていいだろう? お前だってこういうものの方が着なれてるし落ち着くんじゃないか?」


 確かに控えめなデザインの方がしっくりきますが、こんなの着てたら汗でダラダラのデロデロになりそうですよ。


「差し出がましいですが、王太后陛下もジルベルト様もわかってらっしゃいませんわ!」


 メルリア様ってばよく切り込んでこれますね。ですが少しボルテージが上がってきていませんか?


「あ、あの、メルリア様、少し落ち着いてくだ……」

「お二方ともご自分の理想をリナ様に押し付けているように思います! そもそも芋だったリナ様をここまで磨いたのは私達なのです! その観点から言わせていただきますが、無理なく素敵にするには匙加減が重要なのですわ!」


 メルリア様の発言にそろってうなずかれる皆様。要するに無理なく似合うのを着なさいってことですよね。私もそれにはものすごく同意します。

 ですが芋って……。お会いしてはじめの頃にベージュのワンピースにダメ出しされて、お部屋に拉致されたことが頭をよぎります。あの時の私の姿を皆様そろって芋と思ってらしたんですね。少し凹みます。


「……まぁ、いいでしょう。それも一意見です。それでリナ、貴女はどう思うのです」


 えっ、どうしましょう。トリアンナ様のまっすぐな琥珀の瞳を見続けることができず、駄目だと知りつつも目が泳いでしまいます。


「リナ、俺が選んだのがいいよな?」


 追い討ちをかけるように横からジルが答えを迫ってきました。


「ジルベルト、そうして誘導するのは卑怯です。リナ、わたくしは貴女を信じていますよ」


 逆隣りでは負けじとトリアンナ様が妖艶に微笑んでいます。


「義母上こそそのおっしゃりよう、変わらないではありませんか」


 すかさず返すジル。


「誘導するも何も事実ですもの。リナとわたくしは固い信頼関係で結ばれているのですから」


 当然とばかりに顎を上げるトリアンナ様。


「信頼関係、まぁ、認めましょう。しかし義母と義娘の関係が夫になる私との関係に勝るはずもありません」

「あら、今リナと一番長い時間を過ごしているのはわたくしですのよ」

「過ごした時間ではないでしょう。リナの心は私のものです」

「たいした自信ね。リナからそうした言葉をもらったことがあって?」


 と、止まらない。


「あの、お二人とも……。私は、」

「リナ、お前が好きなのは俺だな!?」

「リナ、貴女の信頼はわたくしのものでしょう!?」


 すっごいヤブ蛇でした。こうなっては私では力不足です。どちらも大切だと伝えても収まりがつきそうもないです。ど、どうしたらいいですか、皆様。と、すがるような目でメルリア様達に視線を送ります。


「王太后陛下にジルベルト様も少し落ち着いてくださいませ。リナ様は? この中でどれがいいんですの?」


 サラリと話を戻してくれたメルリア様、大感謝です! そしてその言葉に、私は誰からも見向きもされていない一番端にあるデザイン画にチラリと視線をやります。それからメルリア様をうかがうと、声はだされずとも圧力がかかりました。

 もう、ね。わかってるんですよ。自分にセンスがないということも、私が気に入ったものには総ツッコミがはいることも。だからいいんです。私は学びました。そして消去法による答えは一つです。


「……メルリア様達が選んだものがいいです」


 その瞬間、皆様の勝ち誇ったお顔と、トリアンナ様の驚愕に固まるお顔と、ジルの不機嫌なお顔にさらされます。

 ファイナルアンサーですよ。意見は覆しません。自分の我を通すよりも、お二人のうちどちらか選ぶよりも、第三勢力である皆様に加担するのがこの場では一番の解決策とみました。

 しかし気まずい。一身に視線を集めるこの気まずさといったらありません。

 ですが、こんな時だからこそ、必殺! 笑ってごまかせー! ニッコリ!!


「「「「「「……」」」」」」


 一瞬にしてピタリと空気が止まったかのようでした。私自身も皆様の視線を集めたまま、最高潮の笑顔状態から動くことができません。な、なんですか先程とはまた違うこの妙な空気は。

 ですが息が苦しくなる前に、トリアンナ様のついたため息で場の時間が動きはじめました。ふ、ふぅ。良かった。私は固まった表情筋をゆるめます。


「仕方ないわね。ウェデングドレスはこれにしましょう」


 はぁ。トリアンナ様にご納得いただけて、これにて無事終戦ですね。良かった、良かった。と思ったのもつかの間。パラリと扇を開いたトリアンナ様が、顎を少し上げて目を細めジルに視線をよこします。それを真っ向から受け止めたジルはというと、不敵に唇をつり上げました。なに、なに!? 何がはじまるんですか!?


「ジルベルト、お色直しのドレスまでこの勝負はお預けね。次こそ貴方の悔しがる顔を見せてもらいましょう」

「望むところです、義母上。ですが顔を赤くするのは貴女だということをお忘れなく」


 バチバチバチ! 仁義なき戦いに終わりはないようです。ですが、何度も言いますがお二人は仲良しなんですよ!

 火花に気をとられていると、突然メルリア様達にワラワラと周りを囲まれてしまいました。そしておもむろにガッシリと手をとられます。


「リナ様、私達もまたお手伝いいたしますわ!」

「やはり私達が適任だと思います」

「王太后陛下と殿下では意見が片寄っておりますから」

「流行りに一番敏感な自信があります! お任せください!」


 皆様、眼力がすごい。手も痛い。


「あ、ありがとうございます」


 それ以外に私にできる返事があるでしょうか……。

 はからずも、ここに三つ巴の戦い、開幕です。






読んでくださってありがとうございます!


次話もできれば一週間以内に……。

内容は飛んでランドール家のお話になると思います。

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