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放置プレイからの

前話で短かくなるなんて言いましたが、書いていたらいつも通りの量になってしまいました。

宜しくお願いします。


 ロイヤルファミリーとテーブルを囲んだ日から一ヶ月たった今日、忙しい合間をぬってメルリア様達とお茶の時間をとることに成功しました。


「お集まりいただきありがとうございます! 皆様と会いたくて会いたくて……今日はすごく嬉しいです!」


 変わらない皆様の親しげな笑顔に私も満面の笑みでお応えします。


「こちらこそ、お招きくださりありがとうございます。とても楽しみにしてましたのよ」

「毎日のようにお会いしてましたのに、お妃候補の解散で集まるのもなかなか難しくなりましたものね」

「リナ様は随分と頑張っているご様子で。少し心配もしてましたのよ」

「そうなのです。あの恐ろしい王太后陛下のしごきに笑顔で答えているなんて、リナ様は真性のマゾヒストではないか、なんて」


 ふふっと笑うマリーベル様に他のお三方が固まりました。


「ちょっと、マリーベル様!」

「な、何をいきなり!」

「そんなはずないではありませんか!」


 珍しくお三方がおたおたしてます。攻められたマリーベル様もびっくりしたお顔をされてますよ。


「そんな!! 皆様だって先程まで同じようなことをおっしゃっていたではありませんか! 王太后陛下の氷のような眼差しに刺のような言葉の数々を受けても笑顔で付き従えるリナ様は、むぐぐぐぐっ」


 ライラ様が素早くマリーベル様の口にマカロンを突っ込みます。それも三つも。涙目になりながらも一生懸命咀嚼(そしゃく)するマリーベル様にお茶を進めつつ、私はついつい声を出して笑ってしまいました。気安い雰囲気に溢れていてとても居心地がいいです。久々にお会いしたのにすぐにこうしてお話ができるのって、なんだかとても良いです。


「リナ様、お気を悪くしないでくださいませ。ただ苦労されたり無理をされているのではないかと心配なだけですのよ」


 そんな困ったお顔をされなくてもわかってますよ、アリサ様。大丈夫です。皆様の気遣いがわからないほど浅いお付き合いではないです。それにトリアンナ様の指導がはじまってから、その手の評価と視線には慣れてしまったんですよね。


「気を悪くなんて全然しませんよ! ですが私はマゾヒストではありませんし、王太后陛下もサディストではありませんからね。皆様の気にしすぎというか、勘違いです!」


 にっこりと言えば、そろってやや微妙なお顔をされてしまいました。

 そんな心配をされてしまうトリアンナ様のスパルタ授業ですが、たしかにすごいことはすごいです。ただ語学ただ作法というのではなく、複合してくるんですよね。休憩のお茶の時間すら、北の公用語で自国の政治の話をしながらマナーを観察される、みたいな。

 そんな授業をいっさいのお褒めの言葉がなくとも頑張ってしまう私に、マゾ疑惑が発生したのは当然の流れと言えばそうなのですけど。私は何と言ってもオーラが見えてトリアンナ様の内面がわかりますから。

 失敗しそうになればハラハラと、はじめての挑戦の時はドキドキと、課題をこなしている時はワクワクと、そんな風に分かりやすいオーラの動きがいつだって私を言葉以上に励ましてくれるんです。間違えて厳しいお叱りを受ける時でさえ『貴女はよくやっている、でもまだまだ上にいける』とはっきりと伝えられては、へこたれるわけにはいきません。

 ですがこの状態が、オーラの見えない他の方からすれば毎日毎日何時間も鬼姑にイビられる健気な嫁の構図に見えるのでしょう。そのため各方面から憐れまれ優しくされ、今ではどうも一目置かれるようになった気さえします。真実は全然そんなんじゃないんですが。


「なんというか王太后陛下は分かりにくいだけで、本当はとっても良い方なんですよ。確かに表情やお言葉はキツイですけど、心根はとてもお優しくて素敵な方です。私は大好きです!」


 色んな方から勘違いだらけのお言葉をいただく度に、そんなことはない! とこうして力いっぱい訴えるのですけど……。


「なんというか、リナ様は……」

「えぇ、お心が広いというか……」

「疑うことを知らないというか……」

「素直というか……」


 皆様も飽きれ半分、感心半分といったところでしょうか。私がどんなにトリアンナ様の印象改善を働きかけても大抵こういう反応なんですよね……。こればかりは時間をかけて変えていくしかありません。頑張りますよ。目指せ! 愛されトリアンナ様計画! あの素敵なツンデレを皆様に、です!


「は、話は変わりますけれど、ジルベルト様とはいかがですの?」

「そ、そうですわね! 私達が王宮を離れてからのこと、お教えくださいませ」

「えぇ、ご婚約者になられてさぞや仲睦まじくしてらっしゃるのでしょう?」

「是非あやかりたいです! 聞かせてください!」


 あー。その話題を出してしまいますか。急激にテンションが下がってしまいました。相対的に声だって小さくなります。


「……いんです」


「「「「??」」」」


「全然会ってないんです」


「「「「え?」」」」


「全然構ってもらってないんですよ!!」


「「「「は!? なんでですか!?」」」」


 そんなの私が聞きたいです!

 まず一番の原因は、目の回る忙しさです。朝起きてから寝るまで自由時間が本当にないなんて。わかってますよ。王太子妃の後には王妃という立場が待っているのです。一分一秒足りとも無駄にできませんよね。当然です。当然ですけど! 食事や休憩の時くらいご一緒できないものでしょうか!?

 私の一日で一番大きな割合を占めているのは、言わずもがなトリアンナ様との勉強の時間です。そして次点が日替わりで来る教師の方々との勉強の時間です。要するに勉強ばかりしているということです。

 寝て起きて朝食をとったら即勉強。そして昼食後も即勉強。休憩を挟んで勉強して夕食をとったら自主的に予習復習をして就寝。翌朝以下エンドレスです。この一ヶ月でルーチンワークがかっちりと確立されましたが、そこにジルは含まれていません。

 ジルだって私以上に忙しくしているのは知っています。自分の仕事に加えイェリク様の補佐も合わさって寝る間も惜しむ状態であると。ですがせめて、一日に一度くらい数分でも顔を合わせる時間はとれないものでしょうか。


「こんなに会えないなんて、なんだかまるで避けられているみたいで。ここのところ不安になってしまって……」


 釣った魚に……なついた獣に餌はあげない状態です。身の程をわきまえずキスをおあずけしたり、しつこくプロポーズの言葉をねだったりしたのがいけなかったのでしょうか。


「そんなはずないではありませんか。ジルベルト様にはリナ様しかおりませんのよ」

「他の方などお目に入らない状態ですのに、何をおっしゃいますの」

「お二人ともお忙しいのですものね。特にリナ様は生活も一変されましたし」


 励ましのお言葉、本当にありがとうございます。ですが、やっぱり会いたいし寂しいんですよ。と唇がいじけて尖ってしまいます。こんな甘ったれた思考すら久々なのですけど、皆様の前だとつい本音が。


「あの。寂しいなら寂しいと素直に言って、会いに行ってはいけないのでしょうか? それとも殿下と会ってはいけないとでも言われているんですか?」


 マリーベル様の言葉にしばし固まります。


「……いえ、言われていません」


 ええ、そのようなことは一度として言われたことも、注意を受けたことはありません。


「では、今からでも会いに行かれればよろしいではありませんか」


 マリーベル様は至極当然、そんな簡単なことで何を悩んでいるんだと言わんばかりです。


「言われてみればそうですわね」

「確かに、我慢する必要ありませんものね」

「リナ様は正式なご婚約者様ですしね」


 それは私も思いました。何回か行くタイミングをはかってみたものの、結局二の足を踏んでしまって実行に移せなかったんです。今は集中してお仕事してるかな、他の方と一緒のところに突撃したら迷惑かな、私が行ったらやることが滞って夜がさらに遅くしてしまうかな、等々。考え出すと勇気がでなくて。

 マリーベル様のお言葉に行く気になっているような皆様に、消極的ながら拒否の意を伝えます。


「ですが、その、お仕事をしている最中に行ってしまうと邪魔になるのではと……」


「何をおっしゃってるんですか! 毎日押し掛けるならいざ知らず、一ヶ月も会ってないなんておかしいです! 今から行きましょう! はい、立って。はい、急いで」


 マリーベル様って意外と恋に積極的なんですね。ささっと背後に回って椅子から立たせられ、急かされるように追いたてられます。

 不安な気持ちを抱えたまま皆様と一緒にジルの執務室の方へ歩き出しましたが、もし嫌そうなお顔をされたらどうしたらいいですか? 立ち直れないかも……。

 ウジウジと考えながら庭から建物に入り、角を曲がろうとした時でした。


「あぁ、ちょうど良いところに。ランドール嬢、今お呼びにあがろ……。これはお嬢様方、お久しぶりです」


 ばったりと鉢合わせしたグレンは私の後ろに続く皆様を見て、それはそれは綺麗に微笑んでみせました。作られた感が半端ないです。


「えぇ、お久しぶりですわね」

「お顔もすっかり元通りになって」

「消えた傷痕と一緒に全て忘れたなんておっしゃらないですわよね?」

「私の方の商売も順調で、より素敵な方をご紹介できると思いますよ」


 皆様の放つ冷たいオーラを背後から感じて、私はビクリと体を強張らせます。先程までの楽しい雰囲気は何処へやら。さらには前にいる笑顔のグレンからも、同様のものが顔面に吹き付けてきます。私を挟んでやめていただきたいです。


「ご心配には及びません。そうですね、ランドール嬢?」


 真っ直ぐに向けられるグレンの作り笑いに、私もひきつった笑顔で応じます。確かにあれ以来いじめられてはいません。ですが何と答えるべきか。振り返れば皆様の視線も集まっています。これは迷っている場合ではありません。早くしないと双方の間で散った火花を私がくらいそうです。


「よ、よくやってくれています。あの、本当に」


 一身に注目を集めたまま、わずかな沈黙がおります。なにかまずい発言だったでしょうか。それとも白々しすぎたでしょうか。私が何か悪いことをした訳ではないはずなのに、身の置き場がありません。


「……リナ様がそうおっしゃるなら、そういうことにしておきましょうか」


 メルリア様そうは言いつつも、絶対に納得していない雰囲気です。ですがそのお言葉をこれ幸いに、気の変わらないうちにと私は急いで話題の転換を図りました。


「そ、それで、グレンは私になんの用でしょうか」


「……以前お約束した特別賞与の件です。明日から五日間、休暇の申請を通して参りました。王太后陛下からも許可は得ております」


 以前約束した特別賞与? えー……、あ! オーバンの下に自ら飛び込む前に要求した、契約その四のことですね。ですがアレまだ効力あるんですか? 正式に婚約者となった折に契約解除になったはずでしたけど。ボーナス支給だけは時間差で頂ける手筈になっていたんでしょうか。


「まぁ、リナ様良かったではありませんか。貴方もたまには良い仕事しますのね」


 皆様はニコニコされています。ですがジルもいないのに、一人で五日間もどうしろというのでしょう。逆に暇をもて余してしまいそうです。

 気持ちもあまり上がり調子ではない時ですし、むしろ寂しくなりそう。王宮で皆様とお茶でもすするか、庭の手入れをこっそり手伝わせてもらった方がよっぽど有意義な気がします。


「……私、いいです。休暇いりません。せっかくですが……」


「お前なぁ、何のためにお互い過酷な一ヶ月を過ごしたと思ってるんだ」


 ぐあっ! ま、眩しい!!


「グレンに呼びに行かせたのに遅いから探しに来た」


 久しぶりにジルの声を聞きました。胸がドキドキします。声だけで苦しくなるほどなのに、ジルは当たり前のように私の隣に寄り添い腰に手を回してきます。ちょっと急に近すぎますよ! 心の準備がまだできていません!


「まぁ、ジルベルト様もお久しぶりです。それよりもリナ様、いじけてますわよ!」

「構ってくれない、と先程からお寂しそうで見ていられませんわ!」

「殿下がお忙しいのは存じておりますが、大事な方を放ったままにしているのはいかがでしょうか!」

「ですが、殿下を思ってくよくよしてるリナ様もお可愛らしいですけどね!」


 ちょっと皆様、余計なことをジルにリークしないでください。その発言を受けたジルのあまーい視線が、つむじ辺りに降り注いでいる気配がします。会った途端に何なんですか。一ヶ月ぶりなんですから、いきなりハイペースで接してくるのは止めていただきたいです。会えない間にキラキラ耐性が低下している私には刺激が強すぎます。

 それに先程は不意打ちで眩しい思いをしましたが、眼鏡をかけていなくて良かったです。今ジルを正面から見たら、のぼせて前後不覚になりそうです。腰に回された手だって気になりすぎてソワソワします。


「共に五日の休暇をとるために、ここ一ヶ月お互いに忙殺されたからな。驚かせたくて黙ってたんだ。悪かった」


 言葉と共に脳天にキスが降ってきました。公衆の面前でどんな顔してそんなことしてるんですか!? 反応がとれずに硬直していると今度は手を取られ、こちらにも唇を押し付けてきます。慌てて引き抜いて胸元で握りしめましたが、皆様の黄色い声と熱いため息に穴があったら入りたい気分になります。恥ずかしすぎる!


「すみませんが、リナはもらっていきますね。またの機会に会ってください」


「もちろんですわ。リナ様、良かったですわね」


「ですが、」


 ジルはメルリア様の返事だけを聞くと、有無を言わせず腰に回した手で私ごと方向転換をします。私はまだ発言途中だったんですけど。


「お互い頑張ったからな、少し前倒しだ。今から行くぞ」


「ちょっと待ってください。どこに行くんですか?」


「……いいところ」



本日もありがとうございます!


次話が最終話となります。

予告通り連続投稿していますので、余力のある方はお願いします!

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